場面18:初仕事のプロンプト
依頼現場は、フロンティアから歩いて一時間ほどの距離にある、岩がゴロゴロした丘陵地帯だった。
強い日差しが照りつけ、岩肌が熱を帯びている。乾いた風が土埃を舞い上げる。
「いたぞ。あれだな」
フェリシアさんが剣の柄を握り、顎で示す。その先、岩陰で目的のロックリザードが三匹、のそりと動いていた。
全長は軽く2メートル超。全身を覆う分厚い灰色の鱗は、まるで天然の鎧だ。地響きのような重々しい足音を立て、太い尻尾を引きずりながら、鈍い爬虫類の眼で周囲を見回している。
(さて、どう戦うか……ステータスのおさらいだ)
俺は脳裏に、宿屋で確認した仲間たちの簡易ステータスを思い浮かべる。
▼フェリシア[剣士Lv.24]
STR:B+|VIT:A|AGI:C
主なスキル:王国式重剣術Lv.3,鋼鉄の意志
▼ミミ[斥候Lv.16]
STR:F|VIT:E|AGI:A+|DEX:A
主なスキル:獣人感覚(猫),軽業Lv.2,幸運
▼セラ[魔法剣士(制限)Lv.18]
INT:A+|MGC:A|AGI:B+
主なスキル:古代エルフ魔法(基礎),状態異常:銀月の呪枷
(フェリシアさんは前衛で決定。ミミは攪乱。セラは後方支援。俺は指示と……秘密兵器の準備だな)
俺は仲間たちに最終確認する。
「よし、作戦通り行くぞ。見た感じ、弱点は腹部だ。そこを集中して狙う! フェリシアさんは正面から! ミミは側面! セラは援護!」
俺の指示に、三人が力強く頷く。
「戦闘開始!」
「はぁっ!」
フェリシアさんが大地を蹴り、一番手前のロックリザードに斬りかかる!
ガギィィィン!!
岩を殴りつけたかのような甲高い金属音! フェリシアさんの大剣が、分厚い鱗に深々と弾かれ、激しい火花が散る!
「くっ……! まるで岩盤だな!」
フェリシアさんが苦々しく声を上げる。
だが、敵の注意は完全に彼女へと向いた。
「グルルル……」
鈍い唸り声を上げ、リザードたちがフェリシアさんに向かってゆっくりと動き出す。
「こっちなのだー!」
その隙を突き、ミミが猫のような俊敏さで岩から岩へと飛び移りながら、敵の側面に回り込む!
まるで影のように素早くリザードの脚に飛びつき、ナイフで鱗の隙間を狙ってガリガリと引っ掻き始めた!
「とりゃー! とりゃー!」
ダメージは微々たるものだろうが、鬱陶しいのか、リザードの一体が苛立ったようにミミの方へ首を向けた。
「光よ!」
その瞬間を、セラは見逃さない。短い詠唱と共に、杖先から放たれた小さな光の矢が、リザードの目を正確に射抜く!
「ギャッ!?」
リザードが苦痛の声を上げ、頭を振る。視界を奪われ混乱しているようだ。
(よし、いい連携だ! だが、決定打が……やはり、アレを使う!)
俺は内心でアリアに指示を出す。
(アリア! 例のやつ!『プロンプト:ロックリザードが極端に嫌がる高周波音を出す小型の笛を生成。素材は近くの硬い石で!』)
『アイアイサー! 創造モジュール起動! ハイテクホイッスル生成!』
俺の手の中に、小さな石笛が生成された。
「ミミ! これを! 思いっきり吹いてくれ!」
俺は石笛をミミに向かって投げる。ミミはそれを空中で器用にキャッチ。
「えー! こんなもんが、本当に効くのかにゃ!?」
半信半疑ながらも、彼女は力いっぱい息を吹き込んだ!
ヒュゥゥゥ―――……。
俺たちの耳には何も聞こえない。微かな空気の振動だけだ。だが、ロックリザードたちの反応は劇的だった!
「グギィィィ!?」
「グルルル!?」
リザードたちは突然、苦痛に満ちた奇妙な鳴き声を上げ、のたうち回るように頭を地面に打ち付け始めた! 前足で耳のあたりを掻きむしり、完全に混乱している!
(やった! 効いてる!)
「今だ! フェリシアさん、腹を!」
俺の指示に、フェリシアさんが即座に反応する。
動きの鈍ったロックリザードの一体の懐に鋭く踏み込み、がら空きになった腹部へ、渾身の突きを叩き込んだ!
ザシュッ! という鈍い、肉を抉る生々しい音が響く。柔らかい腹部には剣が深く突き刺さったようだ。
「グギャアァァッ!」
断末魔の悲鳴を上げ、ロックリザードはゆっくりと横倒しになる。
さらに残りの個体も、混乱している隙を突き、容易に仕留めることができた。
「ふぅ……なんとかなったな」
戦闘後、俺たちは討伐の証となる鱗と爪をいくつか剥ぎ取り、帰路についた。
初めてのパーティでの依頼。AIスキルを使いながらの指揮は骨が折れたが、アリアの分析、俺のプロンプト、そして仲間たちの奮闘のおかげで、無事に達成できた。
小さな一歩だが、俺は確かな手応えを感じていた。
◇◆◇
ギルドに戻り、ミリアさんに討伐の証を提出すると、彼女は目を丸くして驚いた。
「えっ!? もう終わったんですか? 早いですね! しかも、皆さんほとんど無傷なんて……」
ミリアさんは感心したように俺を見て言う。
「ユウさんって、もしかしてすごく物知りなんですか? 魔物の弱点とか……」
(うっ……鋭いな……!)
俺は内心で冷や汗をかきながら、笑顔で誤魔化した。
「いやいや、まあ、少しだけね。仲間からのアドバイスのおかげだよ」
(本当のことを言えたら、どれだけ楽か……。だが、今はまだ……)
『マスピ、演技うまーいw でもバレバレかもよ?』
脳内でアリアが茶化してくる。うるさい。
「そうですか? でも、本当にすごいです! これならすぐにランクアップできそうですね!」
ミリアさんは満面の笑みで報酬の銅貨をカウンターに並べてくれた。
初めて自分たちの力で稼いだお金。額は少ないが、ずしりとした確かな重みを感じた。
こうして、俺たちプロンプターズ(仮)の冒険者としての第一歩は、確かな成功と共に始まったのだった。