場面17:ギルドでの初仕事
「風見鶏の宿」で得られた、ここ数日では望むべくもなかった快適な目覚め。
アンナさんの作ってくれた温かい家庭料理の朝食は、森でのキノコ生活でバグっていた俺の味覚を優しく正常化してくれた。まあ、フェリシアさんが涼しい顔で三回もおかわりを平らげたのには、別の意味で度肝を抜かれたわけだが。
(あの細身の体のどこに消えてるんだ? ……いや、考えるのはよそう)
ともかく、俺たちはフロンティアでの第一歩を踏み出すべく、冒険者ギルドへと向かった。
目的はまず、俺とセラの冒険者登録だ(フェシリアさんとミミはすでに登録済みらしい)。それからパーティ(仮)としての登録と、初仕事の受注。セラを救う『月光の涙』に繋がる『月光の祭壇跡』の調査にも、資金と、この街で活動するための信用(実績)が必要になるだろう。
「それにしても、すごい熱気だな……」
川を見下ろす高台に建つ、石と木材で組まれた頑丈そうなギルドの建物。その内部は、朝だというのに既に多くの冒険者たちでごった返していた。
エールと汗、そして微かに血と薬品が混じったような匂いが充満している。威勢の良い声、カウンターでの報酬のやり取り、奥の酒場スペースから漏れ聞こえる陽気な(あるいは喧嘩腰の)声。
壁一面に貼られた依頼書の前では、屈強な戦士や魔術師風のローブを着た者、軽装の斥候たちが真剣な表情で羊皮紙を吟味している。
まさに「冒険者の拠点」という活気に満ちた、そして少しだけ荒々しい場所だ。
「相変わらず騒がしいとこだニャ!」
ミミが物怖じせず、好奇心に目を輝かせている。セラは少し緊張した面持ちで、俺の後ろにそっと身を寄せている。
俺たちは空いているカウンターへと向かった。
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ! 初めての方ですか?」
カウンターの内側から、明るく溌剌とした声。受付嬢のミリアさんと言うらしい(名札に書いてる)。茶色の髪をサイドテールに揺らし、ギルドの制服をきっちりと着こなしている。人懐っこい笑顔が印象的だ。
「はい、昨日この街に着いたばかりで……。まずは冒険者登録をお願いしたいのですが」
俺が言うと、ミリアさんは笑顔で頷いた。
「新規登録ですね! 承知しました! こちらの用紙にご記入をお願いします。登録料として銅貨が少し必要になりますが、お持ちですか?」
(登録料か……サトウさんから託された資金の残りで、なんとかなるか)
俺は懐から銅貨を取り出し、ミリアさんに渡す。用紙には名前、年齢、出身地、スキルなどを記入する欄があった。
(職業は……まあ『旅人』でいいか。問題はスキルだ……【生成AI】なんて書いたら面倒なことになるのは確実だ)
『マスピ、ここは『生成系』くらいでボカしとくのが無難じゃない?』
(そうだな……)
俺は「ユウ・アイカワ、20歳、旅人、スキル:生成系」と記入した。
冒険者登録がないセラも隣で「セラ、10歳、南の森、基礎魔法」と記入。
つつがなく二人分の冒険者登録を終えた。
カチャリ、と軽い金属音を立てて、ミリアさんから真新しいFランクの冒険者プレート(銅製)が手渡される。これが、俺たちの異世界での身分証代わりになるのだろう。少しだけ、この世界の一員になれたような気がした。
「それとこちらもどうぞ。『魔力伝導合金のお守り』です。支部長のゴードンさんが、新人に好意で配っているものです」
「へえ、ありがとうございます」
渡されたのはただの金属の棒切れにも見えなくないが、表面には祈りのような言葉が彫られていた。支部長のゴードンと言えば、昨日ミミがトラブっている時に割って入ったドワーフだったか。こういうのを作るのが得意なのだろうか。
「では、改めてパーティ登録ですね? パーティ名は『プロンプターズ』、メンバーはユウ様、セラ様、ミミ様、そして……」
「フェリシア。私は一時的な協力者だ。ダンジョン調査が終わるまで、だな」
フェリシアさんが横から口を挟む。
ミリアさんは苦笑しながらも、「はい、承知しております! では『プロンプターズ』として登録しますね!」と手早く書類を処理し、パーティ登録証を発行してくれた。
『プロンプターズ』という名前はアリアの発案だ。分かりやすいが、俺がAIスキルを使う際の指示文『プロンプト』にかけているみたいだ。
「それで、早速ですが、何か俺たちでも受けられそうな依頼はありますか? 登録後でFランクになったばかりですが」
俺は壁一面の依頼書を見ながら尋ねた。
「Fランクですと……そうですね、こちらの『ロックリザードの討伐依頼』はいかがでしょう?」
ミリアさんが一枚の依頼書を剥がし、カウンターに広げて見せてくれる。
「街の近くの岩場に数匹住み着いて、通行人を困らせているそうです。鱗は硬いですが、動きは鈍いので、連携すればFランクの方がいるパーティでも十分対応可能かと」
ロックリザード……岩トカゲ、か。
(アリア、情報あるか? あの小屋で、ボロボロの魔物図鑑とかも一応全部学習させておいたはずだが……)
俺は内心でアリアに問いかける。エルダーウッドの森で拠点にしていたあの小屋には『アルカディア叡智の断片』以外にも、古びた書物がいくつかあった。その中には魔物図鑑のようなものもあって、ついでに学習させておいたのだ。
『ロックリザード! OK、あの時学習した図鑑データにあったよ! 岩みたいな鱗のトカゲで、防御力は高いけど動きはノロマ。弱点は腹部! あと……へぇ、特定の高周波音に弱いっていう記述もあるね!』
(よし! 弱点が分かっているなら、なんとかなるはずだ)
「分かりました。その依頼、受けさせてもらいます」
「はい! 承知しました。討伐の証として、鱗か爪を持ち帰ってくださいね。ご武運を!」
ミリアさんに見送られ、俺たちプロンプターズ(仮)は、初めてのギルド依頼へと出発した。




