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纏物語  作者: つばき春花
鬼一法眼編
54/126

其之伍拾肆話 成れの果て……

前回までの『纏物語』は……


炎が纏わり付き剣技が繰り出せない優、藻掻けば藻掻く程、纏わりついた火炎が纏を燃やす。


『息が……できない』次第に意識が薄れていく優………




そこに…………


『ヒュオォォォ……ヒュゥゥゥ……』


 何処からとも無く吹いてきた極寒の風が、優を囲んでいた炎を徐々に弱めていく……


『で…きる…息が出来る!』


 優は直ぐに神氣の息を始め、纏と神力の回復を図った。


 そして体制を立て直し振り返ると目前に白く大きな獣が優を守る様に立ち塞がっていた。


「お…お前は……」


 そこには、四神の中の最後の一神……白虎がいた。


「ぬぅぅぅぅ……白虎……呪縛術を拒絶した神獣…それならばと神氣を吸い尽くしてやったのだが……生きておったのか……」


 白虎は、三神と共に鬼一法眼の虜にされようとした際、その呪縛術を自ら放つ強力な神氣で跳ね返し、拒絶し得た。しかしそのせいで神氣が殆ど失われ、子猫の様になってしまった所を優に保護された。


 その後、嫗めぐみが張った神清な結界の中で守られていたお陰で、失われていた神氣が早くに回復したのであった。


 回復した白虎の神力は、三神を合わせた神力に匹敵する程強く、その白虎が自分に牙を向けている事に、鬼一は戸惑いを隠せずにいた。


「ぬ…ぬぬぅぅぅぅ……白虎め……しかし儂はここで祓われる訳にはいかぬ!自分より弱き者に負ける訳にはいかんのだぁぁぁ!! ぬおぉぉぉぉぉぉ!!」


 怒号を上げる鬼一法眼、身体からどす黒い氣を激しく沸き立たせながら身体が膨れ上がって行く! 頭には二本の角が生え、顎がバキバキッと割れ、鋭い牙が生え揃う! その姿は正に鬼!鬼一法眼の姿がどす黒い体色の巨体を持つ鬼に変わった。


「ぬおぉぉぉっ!三神共!儂に力をよこせぇぇっ!ガアァァァァァ!!!!」


 鬼と化した鬼一法眼、口からは、激しく炎を吐き散らす…もはや武法曹の欠片もない、只の凶暴な鬼に成り果ててしまった。


 しかし…優は怒濤の様に繰り出される鬼一法眼の攻撃をかわしながら、虜とされた三神をどうやって解放すればいいのか…優は考えていた。


 (鬼一法眼を斬ってしまえば、三神も同時に斬ってしまうかもしれない…迂闊には手が出せない…どうすればいい……)


 そう考えながら激しく吹き付ける鬼一法眼の火炎を避けていた、その時、ほんの一瞬の隙を突かれた優の周りを、水円刃が取り囲んだ!


「しまった!」


『バババンッバババババンッ!!!!』


 激しい爆炎が上がる、がその中には、白虎が優を守るかのように陣を張り巡らせていた。


 そして白虎は、振り返り優に向かって低い声で唸った。


『ウゥゥゥゥゥゥゥゥ…………』


 白虎のその姿を見た嫗めぐみが語りかけてきた。


(優…白虎を纏うのです…)


(えっ?白虎を…神獣を纏えるの!?)


(分からない……でも白虎がそう言っている……気がします……)


(気がしますって…そうじゃなかったらどうするの?)


(その時は……不敬と見なされ末代まで祟られ…………)


(まった! やっぱ聞きたくない! とにかくやってみます!)


優はゆっくり手を広げ……呟いた…


「白虎様……お願いします……」


そして勢いよく拍を打つ!


『パァァァン!』


纏っ!!!!」


 その拍音と共に白虎の姿が光の珠となり、優と交わって一際眩く輝く、その光の中から現れたのは、白銀の纏に黒髪と黒いまなこ、腰には純白の刀、神々しい光を放つ神獣、白虎を纏った優の姿だ。


「これが白虎の力……神に仕えし神獣の力……すごい…力が漲ってくる」


 その姿目の当たりにした鬼一法眼は、焦りの表情に一変した。


「そ、そ、そんなもの儂は恐れんぞぉぉぉ!!!!絶力亀剛拳ンンン!!!!」


 何倍にも膨れ上がった亀の甲羅の様に硬い拳が優に向って放たれた!


『ドゴゴォォォン!!』


 低く鈍い音が辺りに響く! 鬼一法眼が放った拳を、優も同じ右の拳で迎え撃ったのだった。


 優の小さい拳に激しく跳ね返される鬼一法眼、渾身の一撃!


 余りの衝撃に蹌踉めく鬼一法眼。その力に驚く鬼一法眼に向って、優が言い放つ。


 「鬼一法眼……三神の力に溺れ、武人の心を失い、妖者に落ちぶれたお前に……勝機はありません……………あなたを祓います……」


「な、なにをぉぉ!お前の刀に玄武の身体を持つ儂を斬れはせん!!白虎諸共潰してくれるわぁ!!絶力亀剛拳!!」


「愚かです……愚かで貧弱です…」


 そう言いながら腰の刀に手をかけ、一閃する! 


「グギャァァァァ!!」


 繰り出された鬼一法眼の右腕が宙を舞った!


「月下の刀……元は蛇鬼を祓う為に…涼介おじいちゃんが命を賭して作った刀……いわば鬼斬りの刀……鬼と化したお前は、この刀の前では……無力です」


「おのれぇぇ……やられはせんぞ…やられはせん!!儂は、お前なんぞにやられはせんぞっっ!!!!」


「愚かな……」


 優はそう呟くと刀を鞘に戻し、体を斜めに低く構え、抜刀の姿勢を取った。


 怒り我を忘れ『ドスッドスッドスッドスッ!』と地響きをさせながら我武者羅に突っ込んでくる鬼一法眼、もう既に勝負は決していた。


「白虎様が宿られた刀……悪しき者だけを祓う清なる刀…………虎爪惡魂斬…………生殺与奪……」


『シャキィィィィィィィィンンンン……』


 優の抜刀が鬼一法眼の魂を一閃する!


 「ぐあぁ……………があお…あぁぁぁぁぁ!!」


 鬼一法眼の断末魔が市房山上空に木霊する、と同時に三神が呪縛から解放され夜空に解き放たれた。


 力無く落ち行く鬼一法眼……。


『ドズウゥゥゥンンンン…………』


 山頂付近の林の中に落下した。魂を斬られ、惡氣が抜けたその体は元に戻り、生気がなく、その魂も風前の灯だった。


 優は、横たわる鬼一法眼の傍に降り立ち、ゆっくりと歩み寄った。


「見事よのぉ……優……欲に溺れ…妖者になった時……既に…儂は………お前に…敗れていた…こんな醜い……姿になってまで……勝つ事に……拘るとは……実に情けない……情けない……なさ…け……な……」


 そう呟きながら涙を流し、鬼一法眼の身体は少しづつ泡となって崩れ、風に飛ばされ消えていった、そしてその後に黄珠の力を持つ東城又次郎が現れた。鬼一法眼に神力を喰われ、その姿は殆ど薄れ、消え行く寸前だった。


「又次郎……」


『おぉぉ……千里乃守……そのような悲しい顔をするでない。青井優……舞美の孫よ……有り難う……あの強力な妖者を見事祓われた…………どれどれ…儂も寝床に帰るとするかなぁ…………さら…ば…』


 又次郎は、そう言って辺りが明るくなってきた空へ昇っていき、そしてすぐに時の流れが戻ってきた。

 

 刀を鞘に戻しながら、又次郎を見送る優……ふと、後を振り返ると白虎、朱雀、玄武、青龍の四神が佇んでいた。


 「四神……様。あ、有難うございました白虎様! 貴方のお陰で鬼一法眼を祓う事が出来ました!」


 そう言って深々と頭を下げお礼を言ったその後、頭をあげると四神の姿は既にそこには無かった…しかし代わりにその場所には、銀赤緑青の四つの珠が浮かんでいた。


『これなんだろう?』と思い近ずくと、その珠が優の左腕に有る五珠の腕輪に吸い込まれ、四個の珠が輝き始めた。


 それは、舞美から譲り受けた空っぽの五珠の腕輪。五珠の力と同じ様に四神の力がこの腕輪に宿ったのだった。


「優……四神が貴方に力を分けてくれたようです……」


「四神の力……私に使えるのかなぁ……めぐみさん…」


「さぁ……私には…分かりませんが……あなたの修練次第でしょうね……」


 無表情でそう言い放った嫗めぐみだったが、初めて纏った神獣、白虎の力を難なく使っていた優の事を、少し見直した嫗めぐみであった。



            つづく……


 つばき春花です、『纏物語』お読み頂き有難うございます。次話にもご期待下さい…。

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