其之肆拾参話 地獄の掛かり稽古 青井優編
嫗めぐみから指輪を譲受け、数日が過ぎた。
「おっはよぉぉ!」
「おはよう! 遅いぞ優!」
「おはようございます……」
青井家には、いつもの日常が戻っていた。
優より先に起きた嫗めぐみは、既に学校の用意を済ませ、朝食の味噌汁を啜っている。
優は、自分で食パンを出しトースターで焼き始めた。これが青井家、毎朝の光景だった。
急ぎで朝食を済ませた優は……。
「じゃぁ、私は朝練があるからもう行くけど、めぐみさんは?」
「私の部活……には、朝練と言うモノはありませんので……もう暫くしてから……行かせていただきます」
「そうなの! それじゃおさきにっ! いってきまぁぁす!」
「いってらっしゃい、気を付けてねっ!」
バタバタと騒がしく家を出た。
後ろ姿を見送った母親が、椅子に腰掛けながら、めぐみに語りかけるように話す。
「よかった……あの子最近元気が無くて心配してたんだけど、ここ最近、やっと元のあの子に戻ったって感じで……本当よかった……」
母親のその言葉に
『ズズズッ……』
「そうですね……」
『ズズズズズッ……』
と味噌汁を啜りながら返答した。因みにめぐみは何故か、弓道部に入部した。
【掛り稽古で半殺し……】
そして……夜更け……。優は遥か上空、星が幾万も輝く空中に佇んでいた。そこは、静寂で時折吹き抜ける優風の音だけが聞こえていた。
既に月の力を纏い、右手には、月下の刀を握っている。何かを待っているのだろうか?
『シュッ……シュッ……シュッ……シュンッ!! カキィィィィィン!!』
鋭い風切音が聞こえたと同時に甲高い金属音が響く、常人には到底捉えられない疾風のような動き! その正体は、嫗めぐみだった。
電光石火の剣を、優は難なく月下の刀で受け止め、続け様に繰り出された回し蹴りを後ろに跳ねっ跳んで交わした。
優は刀を構え直し、めぐみに突っ込んでいく。
「蛇頭の舞っ!!」
嫗めぐみを悪霊と思い、戦った時に使った技、めぐみの目前で優が幾人にも分身する。一斉に斬りつける優の分身、ところが斬っためぐみもまた幻、めぐみが優の後を取り、鳩尾に膝蹴りを食らわせる。
「私に……同じ技を……貧弱です優……」
しかしめぐみの膝蹴りが空を切ったと同時に上から優が刀を振りかざしめぐみを斬る!
「今度こそ貰ったあぁぁ!!」
思い切り振り切ったが……何故か手応えがない。またしても幻を斬らされた!『ヤバい!ヤバい!』と思ったが時すでに遅し!
『ドゴオッッッ!!』
「グエッ!!」
またしても強烈な膝蹴りが優の鳩尾に食い込み、体がくの字に折れ曲がる!
『ドゴッ!バキッ!ドガッ!バシッ!ドゴッ!バキッッッ!!』
容赦ない拳が優を捉える。
「グエッ!グハッ!ガハッ!ギエッ!……」
抵抗するまもなく打ちのめされる優。そしてめぐみは、優の腕を掴み、手加減なしに捻り上げた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ! 痛ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃ!」
「貧弱です……優……貧弱すぎます……」
そう言うと手を勢いよく離し、背中に飛び蹴りを喰らわせる。
『ドゴッ‼』
「キャァァァァァァァァッ!」
勢いよく吹っ飛ばされる優、無表情だがまさに痛ぶって楽しんでいるように見える……いや確実に痛ぶって楽しんでいる。
『シャンッ……シャンッ……』
めぐみは、神楽鈴を打ち鳴らしながら華麗な舞い始めた。
「優……『神氣の息』はどうしたの?……本気を出さないと……本当に死んでしまいますよ……」
『シャンッ!』
「氷刃裂雷破……」
右手に持つ神楽鈴を頭上に掲げ、クルッと手首を一回転させる。すると嫗めぐみの周りに冷たい空氣が集まりそれが渦となりつつ、その中で発生させた水蒸気が氷塊となる。
そしてその渦の中で氷塊が互いにぶつかり、その摩擦で氷塊が帯電を始める。
粉々に砕け、高電圧を帯びた氷刃が乾いた音を立て、優に向けて放たれようとしている。
『パリッパリッパリッ……』
「優……お覚悟を……」
『シャンッ!』
神楽鈴が乾いた音を立て優めがけて振り翳された。
すると爆音と共に雷電を帯びた無数の氷刃が優めがけて放たれた!
『ドバアァァァァァァァァァァァン‼バチ……バチバチ……バチバチバチ!」
「う……噓でしょ⁉ あんなの真艫に食らったら死んじゃうぅぅ‼」
成すすべなく、ギリギリ限界まで追い込まれた優。
その時、頭の中に誰かの囁くような声が聞こえた。
(優……落ち着いて……神氣の息よ……)
ハッとする優は、刀を鞘に戻し抜刀の構えをとった。そして目をつむり、呼吸を整え静かに目を開けると……向かって来る氷刃の動きがまるでスローモーションの様に見えていた。
(見える……見えるぞっ!)
それを期に優は、抜刀しながらめぐみに突っ込んで行く!
『パンッパンッパパパパパパパパンッパパパパンパパパパパンッッ!』
無数の氷刃を全て斬り壊し、刀を鞘に戻しつつ、めぐみの懐に入った!
「めぐみさん! お覚悟ぉぉぉぉ!」
優が抜刀した瞬間!
『バキッッッ!!』
嫗めぐみの右拳が優の右頬を捕らえた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『どぉぉぉぉぉぉん……』
カウンターを食らった優はふっ飛ばされ、錐揉みしながら村山の斜面に激しく叩きつけられた……。
「いったぁぁぁい……めぐみさん……ちょっとは手加減してよねぇ……」
土にめり込んだ体を起こしながら、そう呟いていると嫗めぐみが静かに降りてきた。
「今の……感じを忘れないで下さい……でも……私に抜刀術など……百年早いです……やはり貴方には、お仕置きが………」
と言いかけた時、めぐみは、何か思いついたのだろう、こう言い始めた。
「優……私を……纏ってみる?」
「えっ!? めぐみさんを!? 纏えるの?」
「えぇ……私を纏えるかもしれないけど……それが出来れば、優のその青き月の力も……格段に強くなる……はずです……」
「纏う!纏う!やらせて下さい、めぐみさん!」
「クスクス……いいわ……私の属性は………氷と雷……どっちでもいいわよ……」
「わかった! お願いします!」
何故か口元から笑みのようなものが感じられたが何の疑いもなく優は、手を広げ拍を打ち称えた。
『パンッ!』
「纏!」
するとめぐみの体がパンッと光り輝き一筋の雷閃となって優と交わった、その途端!
『バァァァァン!!バリッバリバリバリバリバリッ!!ドォォォォォォン!!』
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
激しい雷撃に打ちのめされた優の意識は、遥か彼方に飛んでいってしまった……まさに調子に乗ったあの頃の舞美と同じだった。
「あらあら……大丈夫ですか……やはりまだ無理があったようです。でも……私言ったはずです……纏える『かもしれない』と……」
そう言い訳をした嫗めぐみだったが、気を失ってピクピクしている優の耳に……入るはずか無かった。
つばき春花です。『纏物語 其之肆拾参話』いかがでしたでしょうか? 沢山の方々にお読みいただき感謝感謝でございます。『其之肆拾肆話』も只今絶賛執筆中でございます。次作も宜しくお願いします。
次回予告『其之肆拾肆話 親友』
息も絶えだえ話しかけると何故か美月は、そのまま川下をじっと見つめたままだった。
「美……月……?」
名前を呼びながら顔を覗き込むと川下を見つめるその目は、虚ろでとてもいつもの美月の眼差しとは違っていた。それでも優の事に気付かなかったので、そっと肩に手を乗せると……
「えっ?あっ!?ゆ、優!? おはよう!ごめん、ごめん気付かなかったよ、早く声をかけてよ!」
びっくりした様子で優の方を振り返った。その眼差しはいつもの美月だった。
ご一読よろしくお願い致します。
つばき春花




