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纏物語  作者: つばき春花
鬼一法眼編
52/126

其之伍拾弐話 真・月下の刀

 無情にも鬼一法眼の刀が振り下ろされた、その時!


『優っ!』


頭の中に響く舞美の声!


(舞美……ばあちゃん⁈)


『ガキンッ‼』


 その声に優は『カッ』っと目を見開き、仰向けになりながら短刀の鞘を抜き取り、鬼一の刃筋を受け止めた!


 そして下方から鬼一の腹を力の限り蹴り飛ばし、後によろけた隙に、地面に突き立つ『平野藤四郎』に這い寄り抜き、よろけながらも立膝をついて、刀で鬼一法眼を指し、戦意を示した。


 だが、刀を手にする事は出来ても、形勢が転じた訳ではない。とにかく神氣の息で神力を高める事に集中した。


 鬼一は、体制を立て直しゆっくりと優に歩み寄り、そして語りかけた。


「往生際が悪いぞ……青井優……」


 優は、鞘で身体を支えながら刀を鬼一に指し示し、睨みつけながら言い放った。


「わ…私は諦めないっ…悪霊なんかに……妖者なんかにっ……ま…負ける訳にはいかないっ!」


「ぬぅぅぅ……その目、その意気込みや良し……しかし言った筈……儂には慈悲も情もないと……」


 その言葉通り鬼一法眼は、立つ事も出来ない優を下に見下ろし、上段に大きく刀を振り上げ、全力で斬り掛かるつもりだった。


 幾ら『平野藤四郎』でも『この一撃を受け止める事は出来ない』……と鬼一法眼を睨みながらも二度目の覚悟を決めた………。


 その時! 


『パンッ……バァァァァァァンッ!!!!』


 凄まじい爆音と共に、辺りが土煙に包まれる。


 それは頭上からの雷撃だった。雷撃が二人の間に落ち……というよりその雷撃は、鬼一を狙って放たれたがよけられた……と言っていいだろう。


 そして土煙が晴れると、そこには一本の矢が刺さっており、それを避けた鬼一は、大きく後方へ下がっていた。


 ゆっくり眼を開けると、目の前に嫗めぐみが佇んでいた。その手には一振りの刀が握られ、神楽鈴を鬼一法眼に指し示しながら優の目の前に差し出していた。


「当たったと思ったのですが……うまくよけられてしまいましたね……」


「ぬぅぅぅ…………。お主……嫗……嫗千里乃守……」


 鬼一方眼は、めぐみの事を知っているらしく、その名を呼んだ。そして嫗めぐみは、鬼一方眼から目を逸らさぬよう前を見据えたまま、優に語り掛けた。


「優……早く受け取りなさい」


「えっ?…めぐみさん…こ…これは……月下の刀?」


 そう言われて、ゆっくり月下の刀に手を伸ばした。そして刀を握った……その瞬間、身体が青い神氣に包まれ、優の神力が著しく回復した。優しく青い光を放つ月下の刀……


 優は、刀を頬に当て、呟いた。


「お帰り……私の翼……なんちゃって……」


「優……感傷に浸っている場合ではありません……行きますよ……」


『はいっ! めぐみさん、お願いします!」


 そう言いながら二振りの刀を鞘に戻し、大きく手を広げ拍を打ち、氷雷の纏を纏った。


 そして腰の刀を『シュラッ』と抜き、鬼一法眼を指し示し呟いた。


「真……月下の刀…」


 鬼一法眼は、青白く輝く神氣を纏う優を見据えながら、刀を一旦鞘に戻した。


「そうか……その刀が…月下の刀。蛇鬼……鬼の力が宿りし刀か……。そして千里之守を纏ったお前のその力……篤と見せて貰おうか……」


 そう言いながら腰の刀に手を掛け、腰を低く構えた。


 (あの構え……抜刀……術?)

 

 そう思った瞬間、鬼一の身体があっという間に優の眼前に飛び込んできた!


 横一閃で振り抜く鬼一法眼、優は臆する事なく其の抜刀を迎え撃つ! しかし其の太刀筋は、横からでは無く真下から繰り出されてきた!


 だが其の太刀筋を見切っていた優! 右腰の平野藤四郎を抜き、左へ打ち流し、返しで反撃の太刀を打ち込んだ! がっ!


『カキィィィィィン!』


 またしても鬼一法眼の陣に阻まれた優は、一足一刀の間合いを取りつつ、刀を構えた。


「儂の陣は、主の刀で斬る事は出来ぬ…従ってこの陣がある限り、お主に勝機はないものと思え!」


 勝ち誇ったように言い放つ鬼一法眼、その言葉を静かに聞いた優は…


「そう。この陣……斬る事が出来ないの? でも……果たして…そうかしら……」


 と言いつつ、ゆっくりと月下の刀を上段に構えた、すると刀から青い神氣がユラユラと沸き立ち、素早くシャッシャッと✕状に刀を振った。


『シュパパッ……………………ガッシャァァァン!』


 斬れないと豪語していた刀さばき一足一刀の間合いから繰り出された太刀捌きにより、紙の様に斬れた後、硝子の様に粉々に飛び散った! これには、鬼一法眼も驚嘆の声を上げざるを得なかった。


「ぬうおぉぉぉぉぉぉおっ?!」


「真・月下の刀の前では、お前の陣など無力……妖者…鬼一法眼……覚悟…」


 静かに語る優に対し、不敵に笑みを浮かべる鬼一法眼。


「ふっふっふっふっ……なかなか楽しめそうではないか……青井優…そして千里之守……」


 そう言いつつ大きく手を広げ、胸の前で拍を打ち何かしら呪文の様な言の葉を唱え始めた。


「ブツ…ブツブツ……ブツブツ…ブツ」


 そして……


「朱青玄!出でよ、そして我に従え!」


『ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………』


 不気味な地響きが唸る…


『ギヤァァァァァァォォォォ!』


 けたたましい鳴き声と共に東の蓮池から真っ赤に燃え盛る巨大な火鳥、


『ゴガアァァァァァ!』


 北の村山の地中からは、頭は蛇、体が亀の獣、


『ギャォォォォォォォォォン!』


 そして球磨川と山田川が交わる付近から青い龍が出現した。


 其れは人吉の東西南北を護る神獣、四神の内の三神、朱雀、玄武、青龍であった。


 しかし…神獣でありながらその眼は白目を剥き、身体からはどす黒い氣を撒き散らしていた。


 嫗めぐみが優に忠告をする。


(優……神獣に直接手を掛けてはいけません……荒ぶる神獣には、世を滅ぼす程の神力があります……しかも現世に生きる者が神獣に手を出してしまったら、末代まで祟られる呪いを受けてしまう……)


(ではどうすればいいの?)


(三神にかけられた呪縛を解き放つ事。それにはその主、目の前の妖者を祓うそれしか道はありません)


 そう言いつつ俯く嫗めぐみ……そして続けて呟いた。


(祓うしかありません…………妖者として甦りし者……我が師……鬼一法眼を……)


                                 

                           つづく……


 つばき春花です、私著『纏物語』へお越し頂き有難うございます。『鬼一法眼編』いかがでしょうか?投稿が遅れ気味になっていますが最後までお付き合いの程、宜しくお願い致します。


次回予告……『其之伍拾参話 剣術神 鬼一法眼』    


                        ご期待ください……

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