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まといものがたり  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之参拾伍話 優の覚醒

「ギギッ……ぐぬぬぬ……言ってはならん事を……ギギギッ……」


しかしすぐに気を取り直したのか背筋を伸ばし……


「しかぁぁぁぁしっ!! 今の儂はぁぁぁッあの時とはぁぁぁ違ぁぁぁうぅぅぅ!!!!」


そう叫ぶと左手に持った羽団扇を高くかざし振り回した。すると天狗の周りに極寒の冷氣が集まり始めると同時に、天狗の体から凄まじい惡氣が湧き立ち始めた。


舞美は、この冷氣に何かを感じた舞美は、驚愕し身構え呟いた。


「この冷氣……そしてこの惡氣……」


そう、この冷氣は、紛れもなく嫗めぐみが放つものと同じ気配の冷氣だった。冷氣の渦が天狗を包み込むと同時に、氷の刃が無数に作られる。


「どははははっ! 舞美、挨拶代わりだぁっこの術、受けてみよっ! 氷裂斬!」


『グゴッジュッババッ!!』


「ふん……」


『ババババババババッ!!』


氷の刃が天狗の巻き起こした風に加速され、目にも留まらぬ速さで放たれた。しかし舞美は、難無くそれを見切り、全て粉々に叩き砕いた。


「くっ……蛇鬼を祓ったその力……伊達ではないな。ならばっ氷獄刀、斬の舞ぃぃ!」


羽団扇を氷の大鉈に変化させ構える、すると天狗の体がゆらっと揺らめきその身が幾人にも分かれ始めた、これは、漫画等の中で忍者が使う分身の術であろうか。そして分身共が舞美を周りを取り囲むように斬りかかる!


「がぁぁはっはっはぁぁぁっ!! 逃げ場はないぞぉぉ舞美ぃぃ!! 死ねぇぇぇっ!!」


『ガキィィィン!!』


本物は、真後ろから斬りつけてきた天狗だった、しかし舞美は、振り向く事なく刀を背後に立てその渾身の一撃を難なく防ぐと天狗に背を向けたまま呟いた。


「貧弱です……悪しき妖者、天狗……。貴方のお遊びに付き合ってはいられない……覚悟なさい

……」


そう言いつつ天狗を振り払うと刀を一度鞘へ戻し再び鯉口を切った舞美だったが何処か様子がおかしい……次第に呼吸が早くなり神氣の息を保てなくなっていった。そして呼吸を荒げながらその場に膝を着き、四つん這いになりながら苦しそうな表情を浮かべ胸を押さえ蹲った。


「はぁはぁはぁ……くっ……いけない……こんな時にぃぃ……」


蛇鬼の片割れ、青鬼。その鬼が身を挺して練り上げた月下の刀……悪しき妖者を祓うその鬼斬りの刀の力は強大であり、老いた舞美の体の限界を遥かに超える力だった……そして周囲の誰にも知らされていなかったがこの時、舞美の体は、既に病に侵されていた。そのせいでもあるが長い時をかけて纏う事が出来なくなっていた。


「ちょっと……遊びすぎたかな……ははっ……。やばいなこれ……やっぱり……年は……取りたくないなぁ……」


恐怖で腰を抜かしていた天狗は、苦しむ舞美を見ると何事もなかったの如く、すくっと立ち上がり狂気乱舞して叫ぶ。


「はは……はっ……はは……うあぁぁははははははぁぁぁっ!!! これは勝機! ざまぁないぞ舞美、そぉぉれ!」


『ドガッッ!』


「きゃぁぁぁ!」


蹲る舞美の脇腹に天狗の強烈な蹴りがまともに入る。舞美の体は、軽々とふっ飛ばされ宙を舞い錐揉みしながら大木に叩きつけられた後、力無く地面に落下した。するとうつ伏せに倒れ込んだその身体から輝きが失せ、元の姿に戻ってしまった。


天狗は、ゆっくりと身動きしない舞美に歩み寄り大鉈を顔面に指し不敵な笑みを浮かべながら言い放った。


「ふっ……この私を散々馬鹿にしやがって…ざまぁないわ、舞美よ。お前の命……そして、その青鬼の力……この私が貰い受けるぞ……」


そう言いながら氷の大鉈を振りかざした、その時!


『ドガッ!』


「ぐあっ?!」


鈍い音と共に天狗の頭が前に飛んだ、思いがけない事に叫び声をあげる天狗。そこに飛び込んできたのは、優だった、優が木剣で天狗の頭を後ろからぶっ叩いたのだった。

 

「いつも……いつも私を助けてくれてた舞美ばあちゃんを……今度は……今度は私が守るんだから! 助けてあげるんだから!」


身動きが取れない舞美の前立ちはだかり、剣先を天狗に指し向けて叫ぶ優、しかし足も手も、体中が恐怖でガタガタ震えている、だが天狗の目を睨みしっかりとした口調で叫んでいた。


「小娘……お前のこの気配……そうか! お前があの方が言われていた二人目の『清き力を持つ者』かっ! ここで忌まわしき東城二人の命と清き力が手に入る! あの方もさぞや、お喜びになるであろう! おい、お前達この小娘は、好きにしていいぞ、だが殺すな。私は舞美に引導を渡さなければいかんのでなぁ……くっくっ」


「優……だめ……逃げ……て」


舞美は、起き上がり優を助けようとするがどうにもできない。


「ギャァァァ!コムスメ!ハンゴロシダッギャァァァ!」


妖者共が優目掛け空から襲い掛かる。優は、余りの恐怖に目を閉じてしまった。それでも突っ込んでくる妖者目掛け思いっきり木剣を振り斬った。


「来るなぁぁぁぁっ!! こんにゃろぉぉぉ!!」


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!」


どういう事か辺りに妖者の断末魔が響き渡った。


その叫び声と同時に妖者共の動きが止まり叫び声をあげた妖者の周りが開け、一斉に視線が集まる。その視線の先には、優が木剣で斬った妖者が身動き取れず固まっている姿があった。斬られた妖者は、白目をむきふるふると震え次第に体が真っ二つに崩れ落ち砂の様に崩れ去った。


それを目の当たりにした妖者達が一斉に慌てふためく。


「ナンダイマノハ?! ナンダイマノハ?! ギャアギャア!」


優自身も目の前で起きた事に驚いていた。仲間を消された妖者共は、怒り狂い次々優に襲い掛かってきた。


「えっ?えっ?えっ?なになになに?!私がやっつけたの?!えっえっえっやれるの私?!」


落ち着きを取り戻した優は、木剣を振りかざし向かってくる妖者を次々に倒していく。


「このやろ、来るな、あっち行けっ!」


まるで薄く張った氷の様に次々に崩れていく妖者共。その光景を見ていた天狗が驚き唸る。


「ううぅぅむ……小娘のこの力……この力は……宮司みやつかさの力か?……いや……そんなはずはない何故なら……」


舞美は、天狗が優の方へ気を取られているその隙に人差し指にある指輪を外し、両手で包み込み胸に当て呟いた。


「お願い……涼介君。優に……優にその力を貸して……」


そう呟くと……


「優ぅぅ!」

 

と、名を叫び指輪を優の方へ投げ渡した。その声に反応した優は、指輪を左手で受け取った。

そして舞美が叫ぶ!


「その指輪を右手の人差し指へ!」


優は、何もわからないまま舞美に言われた通り右手の人差し指にその指輪を通した。


すると……指輪を通したと同時に自分の周りの時が……止まった。辺りの色が抜け白黒の視界に変わる。そして静寂に包まれた空間の遥か奥から一点の光が優めがけて迫ってくる。あまりの眩しさに目をつむる優、すると頭の中に誰かが語りかけるように、ある出来事が映画のワンシーンの様に流れ始めた。


それは涼介との出会いから始まり、あの洞窟での非情な別れ、そして最愛の人との運命の出会いの場面。時にすると一瞬の出来事だったが舞美と青鬼との出会いを知るには、十分過ぎる時間だった。


「舞美おばあちゃん……悲しすぎるよ……。こんな……こんな別れ方……」


俯き肩を震わす優の身体から青い光が放たれ始めた。この光は優自身の悲の光か……それとも怒の光か」


「舞美おばあちゃん……涼介おじいちゃんが教えてくれたよ……私も東城の人間なんだね……だから……だから舞美おばあちゃんを助ける力を……纏うよ……」


そう呟くとゆっくり両手を広げ、胸の前で拍を打ち静かに唱えた。


てん……」


更に眩い光が優を包み込む、純白の緋袴を纏い右腕を眼前に指し示せば、背中から現れた青い蛇が肩から手のひらに向ってしゅるっと巻き付く。青い瞳に銀色の髪、それは青き月の光を纏う者、青鬼の力を纏う者であった。


その姿を見た舞美が呟く。


「綺麗よ、優……。ありがとう……涼介くん……優を受け入れてくれて……」


舞美は、涙ながらにそう口にした。


青き月の力を纏った優。たじろぐ妖者共に向け刀を一振り、そしてまた一振り。見えない力が大気と同時に妖者を切り裂く。


「ギャァァァ!! ダダダダァァァダズゥゥゥゲデェェェェェェェェッ!!!!!」


命乞いをする妖者共。しかし容赦ない優の二太刀で、ほぼ全ての妖者が粉々に砕け散った。


「ギギギリッ……おのれぇぇ小娘ぇぇぇよくも私の可愛い鴉達を!」


歯軋りする天狗に構う事無く懐に一瞬して潜り込み、刀を振るう優。天狗の右腕が切り落とされ宙に舞う。


「ギャァァァ!」


天狗の悲鳴が辺りに響く。右腕を抑え、のた打ち回る天狗の背中を左足で抑えつけ、ぐりぐりと捻りながら言い放つ。


「このク◯天狗野郎 !今からてめぇをぎったぎたに切り刻んで祓ってやるから覚悟しろっ!」


優らしからぬ、いや、女の子の言葉使いとは思えない程の口の悪さである。


「いや、その前にお前……持ってる面白い術技を持ってるなぁ……」


「うげぇぇえ?! 術、技? 貰う? ななななな何の事でしょうか? げぇぇぇ!」


「よし! その力技、私が貰うぞ! その後にじっくり切り刻んでやる!」


そう言うと足を上げ天狗を放した。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!たた、助けてぇぇ!」


動けるようになった天狗は、大きく翼を広げ全速力で飛び立った。優は、刀の柄を握り抜刀の構えを取ると一蹴りだけで天狗の背後に追いついた。そして抜刀すると刀を背中に突き立てた。


「ギャァァァァァァァァァァァァァッ!」


天狗の筆な叫び声が辺りに木霊する。そして優が言い放つ。


「お前は、逃さないぃ! 舞美ばあちゃんに酷い事をしたお前はっ! 絶対にっ絶対にっ! ここで私が祓う!」 


優は、刀を行った鞘へ戻し再び抜刀の構えを取った。


「生殺与奪っ!!!」


瞬速の抜刀術! 刀を抜くと瞬で天狗を細切れに切り刻んだ。切られた天狗は声を上げる事なく真っ白い砂の様になって崩れていった。すべてが終り地上に降り立った優は、刀を鞘に納め『ふうぅぅぅ』と息を吐くと元の姿に戻っていった。そして急いで舞美の元に駆け付けた。


「舞美ばあちゃん、大丈夫?!」


「痛ててて……大丈夫よ優、やっぱりもう年よねぇ……あんな奴に負けちゃうんだから……」


そう答えながら遠くを見る舞美。しかし次の瞬間『キッ』と険しい顔になり優を睨みながら強い口調で怒鳴った。


「そうそう! 優なんですか! さっきの優のあの言葉遣いはっ! 女の子があんな汚い言葉を使ってはいけませんっ!」


怒って怒鳴る舞美を見て優は、しどろもどろになり慌てて言い訳をした。


「あっあっあああれはぁぁ……纏った後、ちょっと気持ちが大きくなったというかぁ……ハイになったというかぁぁ……とにかく今度から気を付けますぅ……ごめんなさぁぁぁい!」


確かに舞美が纏った時は、逆に物言いが非常に落ち着いたというかお上品になっていた。纏う者によってその特性が変わるのであろうか。



つづく……

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