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まといものがたり  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之参拾肆話 舞い降りた月下の刀 

『ピピピッピピピッ』


枕元のあるスマホの目覚ましが鳴り目を開ける優。隣を見ると既に舞美の姿はなく布団が畳まれ高くこずんであった。急いで制服に着替えると教科書をカバンに入れ鏡を見た後リビングに降りる。昼食のいい匂いが二階まで香ってくる。


「おはよー!」


リビングのドアを開けつつ声をかけると母親と舞美の二人が朝食を食べている、父親は、早番で既に出勤していた。


「舞美ばあちゃん早いね! 昨夜遅くまで起きてたのに!」


「何だか眠れなくてね、でも年寄りは、基本早起きなの。それより優こそ今から部活の朝練でしょ? この時間で大丈夫? 間に合うの?」


「全然大丈夫! いつもよりちょっと早いくらいだよ」

 

「そうなんだ……ねぇ優、私も散歩がてら学校まで一緒に歩いていいかな?」


「え!勿論! 私の学校までちょっと遠いけどいいの?」


「なぁに言ってんの? 毎朝、二時間位歩いてるからそのくらい全然大丈夫よ!」


「じゃあ舞美ばあちゃん行きまふか! お母さん行ってきまふ!」


優は、食パンをくわえたまま返事をして鞄を持った。そして玄関においてあった桜柄の竹刀袋を担ぎ舞美と一緒に玄関を出た。そして歩きながら親友、神酒美月の事を話した。


「舞美ばあちゃん、あのね毎朝一緒に行く友達がいるんだ。名前は神酒美月、みづきじゃないよ、みつきだからね!」


優は、まるで間違えてくれと言わんばかりの突っ込みを入れながら話した。


舞美が言う。


「神酒さんかぁ……なんか神的な名前だね。熊本も多いけど宮崎でもよく聞く苗字らしいよ」


「ふぅぅん、そうなんだ……あっ来た! おーい!」


商店街の向こうから手を振りながら美月が走ってくる。美月は吹奏楽部に所属し、剣道部と同じく毎日の様に朝練があった。


「おはよう、優! うぅん……こちらの……方はぁ? ひょっとして、あの噂の……」


「紹介するね! この前話していた噂の舞美おばあちゃんです!」


「祖母の神谷舞美です、宜しくね!」


「初めまして、神酒美月です! お噂は、優さんからお聞きしています、どうぞ宜しくお願いします!」


「あのね、美月ん家、とても大きな神社なんだよ! お父さんがねその神社の神主さんだよね、美月!」


「そんなに大きくないよ、私が跡継ぎでもないし! それに私、神や術師になんて興味もないしね……そんな事より早く行こう!」


二人の会話を微笑ましく聞いていた舞美。しかし美月に何かを感じたのだろうか……歩く美月の後ろ姿を三歩離れた所からじっと見つめる舞美。


「じゃあ優、帰りはお母さんから車を借りるようになってるからその頃にまた来るね」


「えっいいの? じゃあさ舞美おばあちゃん、やたけさんの新作シェイク、テイクアウトで買ってきてよ! 美月も飲むでしょ? やたけさんの新作シェイク!」


「分かった! 買って来るよ。私もやたけさんのシェイク楽しみにしてたんだ! 美月ちゃんもいいでしょ?! 飲みながらさっきの話の続きを聞かせてよ!」


優と舞美がそう言って誘うと美月は、申し訳無さそうな顔をしながら答えた。


「御免なさい、今日塾の日なんで部活を休んで帰宅するんです。本当、御免なさい、また今度誘って下さい!」


「えぇぇ! ただでさえ頭良いのにこれ以上勉強してどうすんの! 私と勉強どっちが大事なの! みづき!」


「馬鹿! 勉強に決まってるでしょ! 御免ねぇみづきちゃん、無理言って」


「あのぉ……私みづきじゃありません……みつきです……」


二人のツッコミを遠慮気味に返した美月、それを見た舞美は大笑いしながら叫んだ!


「美月ちゃん! いいっすっごくいい! 超可愛いぃぃ!」


美月は、顔を赤らめて俯き笑っていた。




『襲来』


 度々お伝えするが優は、剣道部に所属している。中学校の時に仲の良かった友達に誘われ入部したがその友達は早々と辞め、優は続けていると言うまぁよくある話である。優自身決して強くはなかったが素質はまぁまぁあった。


そして稽古が終わり急いで着替えて……


「お先に失礼しますっ!」


先輩達に深々と頭を下げ、急ぎ駐車場へ向かった。すると既に駐車場の一番隅に青井家の赤い車が停まっていた。舞美は、車の外で優の帰りを待っていた、そして優を見つけると大きく手を振りながら叫んだ。


「おおおい! 優! こっちこっちだよっ!」


他に迎えに来ている保護者が居る中、甲高い大きな声が駐車場中に響く。大好きな舞美に名前を呼ばれ、嬉しく感じるもあまりの声の大きさにかなり恥ずかしかった。


「お疲れ様、優! はい、やたけの期間限定のシェイク! 今の時期は紫芋だってさ!」


「うわぁ~冷たい! いただきまぁす! 美味しいぃぃ最高です! ありがとう舞美おばあちゃん! 美月も飲みたかっただろうなぁ新作シェイク……まぁすぐにまた二人でお店に行くけどね!」


そして車は、そのまま学校前の道を上って行き、山の頂上にある村山公園の展望所へ向かった。展望所近くの駐車場に他に車は、なかった。


車を降りると二人は展望所の階段を昇った。すっかり日も暮れて空の色は紫色、吹く風は冷たく、展望所から見える街の灯りがキラキラ煌めいてとても綺麗だった。そしてしばらくの沈黙の後、舞美が静かに語り始めた。


「優……私がね、熊本に来たのは、あなたに話さないといけない事があったからなの……」


いつもと違う、今まで見た事が無い舞美のその表情に優は、緊張し体が強張った。


「あのね、私が貴方位の……歳の頃……事故に遭ってね……その時……」


その話の途中……


『ゴォッ……ゴォォォォオオオオオオオッ!!』


突然轟音と共に凄まじい旋風が二人を巻き込んだ。舞美は、咄嗟に優を抱き寄せ頭から庇うように抱き絞めた。意味不明な出来事に恐怖を感じた優は、舞美の胸に顔を埋め目をぎゅっと目を閉じた。


そして風が止み辺りが静まりゆっくりと目を開けると舞美は、何かを睨見つけるように視線は、木々の方向を向いていた。その視線の先には、あの背中に大きな黒い羽がある嘴がとがった鴉の様な者達。その怪しげな者が無数、今まで見た事がない位の数が二人を取り囲んでいた。その中で一際体の大きな鴉が二人の目前に降り立ち人の言葉で叫んだ。


「ギャァァァァ! トウジョウマミ オマエラトウジョウノニンゲンハコロスッ! ヒトリノコラズコロス ミナゴロシダッ! オマエタチハホロビルノダ トウジョウ!」


舞美は、その言葉を聞き鼻で笑いながら余裕の表情でその者達に向かいこう叫んだ。


「ふんっ雑魚が……お前らが幾ら束でこようがどおって事ないんだよ! そんなに私とやりたいっていうなら……相手をしてあげる!」


そう言い終わると奴らを見据えながら優に向かい小さな声で呟いた。


「優……あいつ等は、妖者と言う者達よ……いい? 私が合図をするからその時、車に乗って隠れていなさい……」


そう言うと舞美は優、を背後に隠し大きく手を広げながら深く息を吸い始めた、そして胸の前で拍を打ち鳴す。


『パァァァァン!』


心地良い乾いた音が辺りに鳴り響き、続けて独り言のように唱える。


「纏……」


『ビカッ!!』


稲光の様に舞美の体が輝きその余りの眩しさに顔を背け目を閉じた優。そしてゆっくり眼を開けるとそこに立っていたのは、長い白髪に真っ白い緋袴の女性……そう……幼少の頃に見ていた怖い夢に出てくるあの女性と同じ後ろ姿だった。


「舞美……おばあ……ちゃん?」


優は、その女性が舞美であった事に驚愕し、言葉を失った。白髪と思っていた長い髪は、銀髪であって、柔らかく吹く風に靡きとても美しい。


立ち竦む優の目の前で舞美は、腰の刀をすらっと抜き両手を添えて脇構えを取るとそのまま真横一文字に振り抜いた。


「ギャァァァァァァァァ!!!!!!」


『シュバッ!!』


目の前に群れていた妖者が一瞬にして真っ二つになり蒸発するように消えて行き、その抜刀の余りの速さに音が遅れて聞こえてきた。優が、舞美の後ろから顔を覗かせて見ると正面に居た妖者が消え去り大きく開けていた。


「すごい…………」


優が驚嘆し呟く。


「優……今です、車へ行きなさい……」


「はっ……はい」


舞美の声にはっと我に返った優、すぐに車の方へ走りドアを開けて飛び乗り、鍵をロックした。そして後部座席から少しだけ頭を出して舞美の様子を眺めた。それは、不思議な光景だった。ふわりと中に浮かんだその体は、青白く輝き右手に持つ妖しい光を放つ刀を一振りすると妖者が次々に薙ぎ払われ、泡となって消え失せていった。そして妖者の数が半分以下に減ると流石に知能が低いと思われる鴉共でも舞美に恐怖を感じ始めていた。


そしてたじろいながら後退りする妖者の群れに舞美は、落ち着いた口調で言い放った。


「どうしたの……? もう……終わりなの……?」


そう言いつつ刀を鞘へ戻すと妖者共の動きがピタリと止まった。そして群れの後ろの方からざわついた声が聞こえると中心から群れが割れ一本の道が作られ、奥のから身体がその辺の妖者よりふた周り以上体の大きな異形の妖者がゆっくりと歩み出てきた。そして舞美の前まで歩み出ると不敵な笑みを浮かべ言い放った。


「久しぶりだなぁ舞美よぉ。儂の事、よもや忘れた訳ではあるまいなぁ……」


その台詞に呆れた笑みを浮かべ、鼻で笑いながら言い返した。


「ふんっ……忘れてたけど……思い出したわ。その異形の顔……お前は、天狗……」


「フハッハハハハ! そうか思い出したか!」


嬉しそうに笑みを浮かべ高笑いをした天狗、しかし……


「ええ……確か……蛇鬼に取り入りおこぼれを貰おうとしたけど喰われそうになり尻尾を巻いて逃げ出した馬鹿な妖者……その後、めぐみさんから祓われそうになったけど土下座して情けを乞い見逃して頂いたそうね……」


と、小馬鹿にするように言い放った舞美。すると真っ赤な顔が益々赤く染まり歯軋りを鳴らしながら小声で唸る天狗。


「ギギッ……ぐぬぬぬ……言ってはならん事を……ギギギッ……」


しかしすぐに気を取り直したのか背筋を伸ばし……


「しかぁぁぁぁしっ!! 今の儂はぁぁぁッあの時とはぁぁぁ違ぁぁぁうぅぅぅ!!!!」


そう叫ぶと左手に持った羽団扇を高くかざし振り回した。すると天狗の周りに極寒の冷氣が集まり始めると同時に、天狗の体から凄まじい惡氣が湧き立ち始めた。


舞美は、この冷氣に何かを感じた舞美は、驚愕し身構え呟いた。


「この冷氣……そしてこの惡氣は……?」


つづく……


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