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纏物語  作者: つばき春花
武蔵坊辨慶編
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其之肆拾伍話 新たな妖者 武蔵坊辨慶

 昼休み、武道場の片付けに行った後、教室に帰る優は、朝の事を気にしていた。それは、今朝、橋の上で見た美月の様子の事だった。


 美月のあの表情…今まで見たことがない…何か悩みがあるのなら相談してくれればいいのに…と一人考えていた。


「そうだっ!今日は水曜だから部活ないし、帰りに林檎堂に寄ってりんご飴奢ってやろっかな!うん、そうしよう!」


 そう思いながら気を取り直して急ぎ、美月の元へ行こうと早足になった。


 体育館の角を曲がると白い袴を纏い顔には、面を付けた身体の大きな男が立っていた。どう見ても学校には似つかわしくない装いだ。


 優は、立ち止まって警戒し右手の指輪に手を添えた。


「君が…青井優…さん?」


 顔は見えないが話し方は、丁寧で礼儀正しそうに感じる。


「そうか…まだ年端もゆかぬおなご…若く聡明な子を殺めるとは…気が引ける…私はきっと地獄に堕ちる…しかしっ! 其れを犠牲にしてでも成し遂げなければならない事がある! 鬼弥呼復活という大義名分のもとになっ!」


 そう叫びながら男は、大きく手を広げ、拍を打ち両手を地面に指し付けた。


『キィィィィィィィン…』


 甲高い音と共に男を中心に円形の陣が浮かび上がった、と同時に辺りが夜中のように暗くなり全ての時が止まった。


 そして男は、ゆっくり立ち上がると四歩後に下がり、両手を組みぶつぶつと何かを唱え始めた。そして…。


「はあぁぁぁぁぁっ!!」



 と一際大きな声を上げると眩い閃光が陣の中心を貫いた。それと同時に陣が輝きだし、その中心からにゅぅぅぅぅっと何者かの頭が迫り上がってきた。


 陣から出てきた者…其れは巨体の僧侶、長く太い槍を持ち、腰に数本の刀を差し、背中には、大太刀を背負っていた。


 その大男は、目をゆっくり開けると大きく深呼吸をし、首を大きく回し『ハァァァァ……』と息を吐いた。


 そして辺りを見渡し優の姿を見つけると『ブンブンブンブン』と槍を振り回し、腰を低くして構えた。


 そして……


『ドンッ!!』


 と地面を一蹴りすると一瞬で優の目前に迫った!


(は、速いっ!!)


『ブォンッ!』


 一撃目の左の拳は、躱す事が出来た。


 『ブゥンッ!』


 しかし二撃目の右脚の蹴りは、速すぎて躱せない! 


 『ガシィィィンッ!』


 しかし咄嗟に受身をとり、その威力を受け流した。


『ズサァァァァァァ……』


 だが受け流した蹴りの威力は凄まじく、身体を後方へ弾き飛ばされた。


 その大男は、巨大な槍で地面を突くと野太い声で自身の名を叫んだ。


 『ドズゥゥン‼」


「我が名は、武蔵坊 辨慶! 優、お主の命と『清き力』頂きに参上仕ったっ‼ ついでにお主が持つ妖刀『月下の刀』も頂く‼ いざ尋常に勝負‼」


 地面を突いたその音で、この妖者は、相当の怪力の持ち主という事が即座に分かった。


「なに?辨慶って昔話の人じゃなかったの⁉本当にいたのっ⁉」


と言いつつ…


 (くっそぉ……あの動き、コイツ図体の割には、動きが速い!さっきの蹴りは受け流す事が出来たけど、そのせいで呼吸が乱れてしまった……『神氣の息』が…できていない!)


 優は、妖者にこの状況が悟られない様、必死に誤魔化しながら呼吸を整えようとしていた、がここで辨慶が意外な言葉を投げかけてきた。


「どうした!何をやっておる⁉さっさと青き月の力を纏わんか‼」


「なにっ⁉」


 辨慶のその言葉に驚きの声を出すと……


「ガハハハッ‼ 弱っちい小娘を叩きのめしても皆に笑われるだけだからのぉ‼ 早くお前の真の力、儂に見せて見ろっ!」


 優はニヤリと笑い言い放った!


「はっ! そんな事言っちゃって! 後で後悔しても知らないんだからっ‼」


 優は、立ち上がり姿勢を正し『神氣の息』を始める。


「すぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ……」


 そして大きく手を広げ拍を打ち唱える!


『パンッ!』


「纏‼」


『カッ!』


 眩い光が優を包み込み…その光の中で純白の着物を一瞬で纏った、そして腰に差した細身の刀を右腕で『シュラッ』と抜き、眼前に指し示せば、肩から手の甲に向って青い蛇の入れ墨がシュルっと巻き付く。


 青瞳に銀髪、惡を祓う力を纏った、青き月の力を纏った優の姿が現れた。


「フ、フフッ……フハハハハハッ‼ いいぞっいいぞっ優‼ その力、儂には分かる! お前は強いっ! 強すぎるほど強いっ‼……だがぁ……儂はぁそれよりもぉ強いぃ‼ はるかに強いぃ‼ 行くぞ優‼」


 辨慶は、一旦低く構え、槍を振りかざし『ドンッ』と再び優へ突っ込んできた。


『ガキィィィン!キンキンキンキンガキンッ‼キンキンキンキンッ!」


(や、やばっ?!はっ速いぃっ!すごい連撃!)


『ガキンッ!ギリッギギギギッギリッギギギギギギギィッ……」


 槍と刀の鍔迫り合いになり、気色の悪い金属音が響く。そこへ辨慶が余裕しゃくしゃくの顔で言い放った。


「ふはははっ!どうした優?!お前の力はそんなもんかっ!蛇鬼を払ったその力!儂に見せて見ろっ!」


 この台詞に『カチンッ』ときた優。


「ここのぉぉ調子に乗るなよっ!破あああああっ!おりゃぁぁぁぁ!」


『ブォォォォォォォンッ!!』


 優は、気合いで辨慶の巨体を振り払い、後ろへ退けた!そして刀を鞘に納め抜刀の構えを取った。


「ほおぉ…抜刀術を使うのか……」


「行くぞっ、でかいおっさん!! でやぁぁっ!」


 優の身体が青い一筋の閃光となり、辨慶に向かい放たれた!


「月光閃、十文字斬っ!!!!」


 そして優が辨慶の目前で十の形、すなわち五人に分身し、辨慶を取り囲み其々に抜刀する!!


「むぅおおおおおお!!」


 その速さに圧倒された辨慶、思わず仰け反り後ろに下がり槍でその剣を受け止める!


『ガキンッ!!』

『ガキンッ!!』

『ガゴンッ!!』

『ガキッ!!』

『バキッッッ!!』


 電光石火の太刀筋! 速いだけではない!その力も辨慶に引けを取らない力、五斬目で辨慶の槍を叩き折った!


「どうだっ!おっさん!!次は、お前を祓ってやる!!」


 辨慶は、折れた槍をじっと見た後それを投げ捨て、不敵に笑った。


「ふっ…ふっふっふっ…はははははははっ!いいぞ、青井優!そうだ、其れでこそ倒し甲斐があると言うもの…しからば…儂も…本気でいかせてもらうぞ…」


 そう言いながらゆっくりと背負った大太刀に手を伸ばし、鞘から『シュラッ』とその身を取り出した。その剱を翳し、眺めながら辨慶は、語った。


「この剣は、遠い異国の悪しき剣士から狩った曰く付きの剱『斬首の剱』……それに儂が授かった赤珠の力が加われば……こうなる!!ハァァァァァ!!」


『ドゴォォォォンッ!!』


 爆音と共に辨慶の体が激しく燃え盛り剱がどす黒い氣を発し始めた!


「ハァァァァァァァァァァァァァ!!」


 更に気合を入れる辨慶、すると背後からどす黒い何かが湧き出る。それは剱に宿る怨霊…何体もの悪しき怨霊が辨慶の周りに現れた。


「呪爆斬…炎舞…」


 そう唱えると、火焔に包まれた怨霊達が辨慶の周りを舞い踊る、いや、苦しみ足掻いてるようにも見える。そして大太刀を脇構えにすると腰を低く落とし、優に向かって叫んだ。


「行くぞっ優ぅぅ‼ 呪焔斬‼ 破あぁぁっ!」


 重い大太刀をものともせず、軽々と脇構えから真横へ振り抜いた!


『バァァァァァァァン!』


 爆音と共に灼熱の炎に包まれた怨霊の斬撃波が優を襲う!


        つづく…

 つばき春花です、『纏物語』最新話、お読み頂き有難うございました。2体目から強い妖者を出してしまい後悔してます。今後の展開どうしましょう?ご期待下さい!


次回予告……


『其之肆拾陸話 武人の魂』


 赤珠の力を得た辨慶は、青き月の力を纏った優の力を遥かに凌駕していた。


 これまで嫗めぐみの神力…氷雷の力を纏う事が一度も出来ていない。未熟な優は、その強大な力に耐えられず雷撃によって気を失ってしまうのがオチだった。


 しかしここで失敗すれば優の敗北を意味する。


「お願い…涼介じいちゃん…舞美ばぁちゃん…力を…力をかして!」


 優は、口元で両手を組み願うように呟いた。


 そして両腕を大きく広げ胸の前で拍を打つ!



ご一読よろしくお願い致します。


      つばき春花

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