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纏物語  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之卅玖話 不穏な氣

前回までの『纏物語』は……。



 ゆっくりと目を開ける優、すると周りの景色が灰色になり、すべての時が止まって見えた。優は、意を決して娘の懐に飛び込み刀を振るった! 


 娘は優のその動きに一瞬驚愕する。


 しかし!


『パァァァァァァァァン‼』


 優の刀が娘に切り入る寸前に、一筋の雷撃が優を真艫に捕らえた!


「キャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!…………」


 カウンターの様な真上からの強烈な雷撃、優はなすすべなくそのまま地面に激しく叩きつけられ……意識を失った。





舞美が気が付くと自宅のリビングにあるソファーに横になっていた。


「うっ……うううん……ああれ? ここは……?」


 ゆっくり起き上がる優。自分が自宅のリビングのソファーに寝ている事に気付くのに暫く時間がかかった。


「私……確か女の子と戦って……雷みたいのを受けて……」


 辺りを見渡すとキッチンで夕食を作っている母の後ろ姿と、リビングのテーブルに座っている制服姿の女性に気付いた。優は、暫くその制服姿の女の子を見つめていると、何かを思い出したの如く大きな声を出した。


「お、お前はっ! ななな! 何でお前がここに居るのよっ‼」


 その声に驚いた母親が振り向き、怒りながら向かってきた。


「こら! 優もうあんたって子はっ! 何急に大きな声出してんのよっ!」


「だ、だってこ、こいつはっ!」


 優は、娘に向かって指をさし言い訳を始めた。


 しかし強く母親が優を諭した。


「こいつとは何ですかっ、失礼なっ!このお嬢さんは、嫗めぐみさん! 涼介おじちゃんの奥さんの弟さんの娘さんよ! 今日からからここで一緒に暮らすからって前々から言ってたでしょっ!」


「えっ?えっ?えぇぇ⁈ だって! だってさっき私この子に……」


 と言いかけ言葉を飲み込んだ。そしてその言葉の続きは、『ボコボコにされたばっかりなのに!』だ。



 「めぐみさんは体が弱くてね……療養の為に暫く人吉地域医療センターに入院していたけど、体調も良くなってそのまま人吉商業高校に編入する事になったの。うちの家、部屋が沢山空いてるからそこを使ってもらうから、優、色々と教えてあげてね!」


「よろしくね……優さん……」


 優しく微笑む嫗めぐみ。でもそこで、彼女の後姿を見ながら優は考えた。


「おうな……めぐみ……どこかで聞いたことがあるような気がぁ……嫗……めぐ……み……。嫗、めぐみ?! ああああっっっ‼ あ、あの蛇鬼! 舞美ばあちゃんと! じゃき!蛇鬼と戦った、あの嫗めぐみ!!」


 何かを思い出したように大声で叫びながら嫗めぐみを指さす優、それを聞きた母親がぼそっと言いながら優を見て首を傾げながら問いかける。


「じゃっき? おばあちゃん? 戦った? 何それ?」


「あのねっ! 舞美おばあちゃんと、ぉぉぉ…」


 そう言いかけた優、すると後ろから鋭い殺気が……振り向くと、嫗めぐみの目が据わり、身体中から殺気が発せられ始めた。その目はまさに『喋るな!』と言わんばかりだった。


 その殺気に気づいた優は……。


「おお、おばあちゃんとジャッキ……ジョッキでかんぱぁぁい! なんちゃって……」


 とか言って母親を白けさせ、何とかその場を誤魔化した。


「じゃあめぐみさん、お部屋に案内するから一緒に来てくれるかな」


「はい……お願いします」


 そう言いながら母親の後ろを静々とついていった嫗めぐみ。その後ろ姿をあっけにとられた表情で見送る優。すると優の視線に気づいたのか一旦立ち止まって振り向き、にっこり笑って浅く会釈をした。それにひきつった笑顔で手を振って応えた優。


 夕食を済ませた優が自分の部屋にいるとドアを叩く音が。


「コンコン……」


「あっは、はい!」


「めぐみです……入ってもいいかしら……」


「は、はいどうぞ」


 優は、急いでベッドから起き上がり身の回りをささっと片づけた。『ガチャ』っとドアを開けて入ってきた嫗めぐみは、まだ見慣れぬ制服のままだった。


「めぐみさん、まだ着替えてなかったの? でもその制服、可愛いね! どこの高校の制服なの?」


すると嫗めぐみは、自分が来ている制服を眺めながら答えた。


「この制服は……舞美の通っていた高校の制服よ……。着心地が良くて……色も黒で目立たないし……気に入ってるの」


「でも家の中や休みの日に制服じゃやばいよっ! 着替えは?」


「き……がえ?」


「その制服以外の着物の事だよ、私が着ているようなスエットのズボンとパーカーみたいなの」


「すぅぅえっと? ぱあかぁ? あぁぁ……着物の事ね……あなたみたいな着物を纏えばいいのね……」


 そう言いながら嫗めぐみは、バレリーナのように、その場でくるっと体を一回転させた。すると黒の制服から一瞬で優と同じグレーのスエットのズボンとパーカー姿に変わった。


「これで……いいかしら……」


 驚きのあまり床にずっこけた優が言った。


「は……はい……。それで……結構ですぅ……」



 其れから嫗めぐみは、ゆっくりと椅子に腰掛け、話を始めた。 


「ここに来る前に……舞美……おばあちゃんに会ったの……。蛇鬼との戦いの後、もう二度と……会う事はないと思っていたけど。舞美は……すっかり年老いていた……そして私を見て言ったの。


『めぐみさん! あなたは変わらないね!!』


 って。私が『御魂は、年を取らない』と言ったら……笑ってた。昔と同じ、変わらない笑顔で。でも……もうあの頃の……満ち溢れる『清い力』の……微塵も……感じられなかった……。私達の……恩人おんひと。人の命は……短く……そして儚い……」


 そう言いながら俯き……嫗めぐみは……涙を流した……。そして、しばらく沈黙した後、話を続けた。


             

                                  つづく……




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