其之卅話 プロローグ(私が小学生の頃の話)
私が小学生の頃に時々見ていた怖い夢……。お化け?……妖怪?……何か人みたいで……人じゃない……。それは顔が赤鬼の様に真っ赤で耳まで裂けた口、瞳が蛇の様に縦になってて……その化物が私の足を掴み、暗闇に引きずり込もうとするの。物凄く怖くて身体も動かないし声も出ない、だから心の中で泣きながらこう叫ぶの……。
(おばあちゃん……舞美ばあちゃん、助けて……怖いよう……助けて舞美ばあちゃん!)
すると窓の外が一瞬昼間の様に明るくなったかと思うと蒼い光の玉が部屋に入って来ると、その玉が私の目の前でピカッと眩しいくらいに光り輝いた。私はあまりの眩しさに顔を手で覆った。指の隙間からそっと目を開けて見ると体が青く光る髪の長い女の人が私の前に立っていた。そして振り向いて話しかけてきた。
「優……もう大丈夫よ」
この声……舞美ばあちゃん? ううん……違う……舞美ばあちゃんじゃない。 だってその女の人は白髪で透き通るような白い肌だっもん。長い髪は部屋の中なのに風に靡き、白い袴、そして化物に向けて差出した刀を持った右腕には青い蛇が巻き付いていた。その白髪の女の人は私を鬼の化物から取り返すと胸元に抱きよせて耳元で静かに呟いた。
「優……目を閉じていなさい……」
私は言われた通りその人の胸に顔をうずめ目を閉じた。すると次の瞬間『ピカッ!』とまぶしい光が部屋の中に広がったのを感じた。そして……。
「ギャァァァ!」
大きな叫び声が聞こえ、辺りが静まり返る。そして恐る恐るそっと目を開けて後ろを見ると鬼の化物は居なくなっていた。私は安心して女の人の方へ振り返りながらお礼を言った。
「お姉さん、ありがとう……あれ? 居ない……」
振り向くと白髪の女の人もいつの間にか居なくなっていた。私はその後、何事も無かったかのように眠りについた。そして次の日の朝、目を覚ますと昨夜あった事が……現実だったのか……夢だったのか……。その頃の私にはよく分からなかった。
だけどそんな夢を見たその日から、必ず変な者が見え始める。お化けや妖怪、他の人には見えない得体のしれない者が昼夜を問わず見えてとても怖かった。本当はこの事を誰かに聞いて欲しかったけど自分が見える事を他の人に話す事が……見える事以上に怖くて……。お父さんお母さんにさえ言う事ができなかった。でも何故か遠く離れた舞美ばあちゃんには何でも話せた。
「大丈夫よ、優!」
舞美おばちゃんのその言葉を聞くだけでとても安心できたんだ。だからいつも辛い時は両親に内緒で、こっそり舞美ばあちゃんに電話をして話を聞いてもらっていた。
舞美ばあちゃんは私のお母さんのお母さんで遠く離れた榊市の広い家に一人で住んでいる。涼介おじいちゃんは私が生まれてすぐ、天国に行っちゃったから私は写真でしか見た事がない。でもとても優しそうなお顔をしていた。一人で暮らす舞美ばあちゃんにお父さんとお母さんが人吉で一緒に住もうと言うといつも……
『私が居なくなると涼介おじいちゃんが寂しがるからハハハッ!』
と明かるく笑いながら言うらしい。舞美ばあちゃんと一緒に住めるなんて私はとても楽しみなのになぁ。




