其之弐拾㭭話 捨身
振り下ろされる蛇鬼の凶器。身体に力が入らず、立ち上がる事さえままならぬめぐみに、成す術はなかった……だがっ!
『キィィィィィィィンッ!!』
そこに間一髪で割って入った舞美。破蛇の剱で蛇鬼の爪を受け止め振り切るとその爪が宙を舞った。
通常の刀であれば棒切れのように真っ二つであっただろう。
離れた距離から一瞬にして間合いに入ってきた……その動きに驚嘆した蛇鬼は、一旦素早く後ろへ飛び、大きく間合いを取った。その隙に舞美は、白珠を纏い生命の指嵌でめぐみの傷を癒した。しかし傷を癒やす事は出来たが直ぐには立ち上がれない程、神氣を消耗していた。
「舞美……ありがとう……ごめんなさい」
「うん……大丈夫だよ、めぐみさん……後は任せて下さい」
舞美は、立ち上がり蛇鬼と対峙すると剱に手を掛け、鯉口を切り抜刀の構えを取るとジリっ……ジリっと間合いを詰めていった。そして……
(行きます……)
意を決して舞美が蛇鬼の懐へ飛び込み、電光石火で太刀を抜く。しかし蛇鬼は微笑しながら舞美の抜刀を軽々しく避けた。だが、何かしらの異変に気付いた蛇鬼は、素早く間合いを取り視線を落とした。
するとその視線の先、蛇鬼の腹が皮一枚パックリと割れ、どす黒い血がたらりと流れ出ていた。邪鬼は、予想外の出来事に驚きの表情を浮かべ舞美を睨みつけた。しかし直ぐに落ち着きを取り戻しその流れる血を指で掬い、ペロッと舐めると不気味な薄ら笑みを浮かべ何故か高笑いを始めると共に言い放った。
「フッフッフッ……ハアァァァッッ! ハハハハハハハッァァァァ!! 素晴らしいぃ素晴らしいぞその破蛇の剣、我が弟にして我が分身、鬼の力が宿る破蛇の剱、気に入った! そして東城舞美やはりお前は、我鬼の嫁として最も相応しい女子。やはり剱も舞美、お前も我物にするぞっ!」
そう言い放つと拳を作り腰に当て何やらブツブツと唱えながら気合を溜め始めた。
(何だこれはっ?!凄まじい……凄まじいぃ惡氣だっ!!)
(ほれっ彼奴の体がみるみる膨れて行くぞっ!)
(蛇鬼めっ何をするつもりじゃぁ?!)
蛇鬼の身体が背中から割れ始めると胴が伸び行きみるみる巨大に膨れ上がって行く。頭が二つに裂け割れ、体は、更に太く長くなりきると蛇鬼の本来の姿が完成した。
それは巨大な大蛇。涼介よりもさらに太く、更に長い大蛇となった。しかも蛇鬼の大蛇は、双頭の大蛇。片方は、どす黒く光る頭。その口からは、墨の様に真っ黒い煙が……もう片方は、血色の様に濁った赤い頭、口からは、真っ赤な炎が漏れ出ている。
(舞美、あの炎は危険じゃ。先の戦いで片割れの炎ですら耐え切れず纏が焼き崩れようとした……)
(黒い奴……あれはおそらく毒……毒の息じゃ)
(火炎の息と毒の息……これは、厄介だ……)
「くっ……」
オジイ達が策を練っているとめぐみが羅神を伴なって舞美の元へ歩み寄ってきた。そして羅神
の頭を撫でながら……
「私がこの子を纏い盾となりましょう、何とか蛇鬼の術を封じます。舞美はその隙に懐へ入るのです」
と、提案した。
「でもめぐみさん……」
舞美が心配そうに呟く。其れもそのはず……めぐみは、神氣が十分に回復していなかった。其れは、その表情から見ても分かり得る事だった。だがめぐみは、力強く語った。
「どちらにしても……ここで蛇鬼を倒せなかったら……同じ事です。だからこの身を賭してでも全力で彼奴を……蛇鬼を祓いに行きます。そして父と母……彼奴に殺められたすべての同胞の敵をここで……討ちます」
舞美は、めぐみの決意に唇を嚙みしめ涙を堪えながら大きく頷いた。そして颯爽と大蛇の方へ振り向くと……
「行きますよ……舞美、羅神……雷……纏」
雷珠を纏い、大蛇へ勇猛果敢に突っ込んでいった。舞美も後れを取らぬよう自分の出せる限界の速さでめぐみに続いた。
めぐみの動きを悟った大蛇の黒い頭が擡げると、口を大きく開きどす黒い煙を激しく吐き出した。
『カァァァァァァァァァァァッ!!』
「神の渦凍風……氷極壁」
『シャンシャン!』
「氷雷結晶刃……」
氷の壁がめぐみを守る。と共に神速の風壁が巻き起こり毒の息を凍らせると同時に無力化していった。その息の間中に大蛇までの空洞を作り雷撃を帯びた無数の氷の結晶刃が大蛇目がけて放たれた。さらに毒の息を吹き飛ばしたところに破蛇の剱を構えた舞美が突っ込んでいく。
「まずは、漆黒の頭を切り落とす!」
舞美は、抜刀の構えを取り黒い大蛇の首めがけて思いっきり斬り込んだ! しかし……
『ドゴガッッッ!』
「ぐえぇっ?!」
一瞬何が起きたのか分からなかった。真下から赤蛇頭が舞美の体を激しく跳ね上げたのだ。舞美は、凄まじい衝撃を受け、天井に激しく叩きつけられそのまま地面に落下した。
「舞美っ!」
舞美の元へ駆け付けようとしためぐみは、真横から飛んできた大蛇の尻尾を真面に受け、めぐみもまた、岩壁に叩きつけられ力なく地面に倒れた。そして大蛇は……ズルッ……ズルズルズルズルッ……その巨体を舞美の方へ向け徐々に近づいてきた。
「ヴガワゥッ!!!……ウウウウウゥゥゥ…………」
舞美の前に立ちはだかる羅神。自らめぐみの纏を解き、舞美に近づく大蛇を睨み低く構えて唸る。舞美は、力なく上体を起こし出せる限りの声で羅神に呼び掛けた。
「羅……神……だめよ……下がって……に……に逃げて……」
舞美の横たわる方を振り向いた羅神。その目を見た舞美は……悟った……羅神は、何かを決意したのだと。そして涙ながらに羅神に懇願する。
「だめ……だめ……だめよっ羅神……止めて…………お願いだから……止めて……羅神……」
再び大蛇を見据える羅神は、体勢を低くし唸りながら帯電を始めた。
「ウウゥゥゥゥゥッ……」
『パリッ……パリッパリッパリパリパリッバリバリバリバリッ………ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!』
それは今まで見た事の無いような激しく凄まじい帯電だった。そして……。
「らしぃぃぃぃぃぃぃぃんっっ!!!!」
「ガアアォウゥ!!!」
舞美の叫び声と羅神の雄叫びが重なった時一筋の稲妻が黒蛇頭に直撃し
『バアアァァァァァァァァン!!!!』
まるで洞窟内の空気が圧縮爆発を起こしたよな凄まじい音と衝撃波が洞窟内に響き渡る。それにより岩壁が割れ天井が剥がれ落ち洞窟内が土煙に包まれる。そして……辺りが静まり返ると舞美は、よろける身体を支えつつ上体を起こし立ち上がった。
「羅……神……羅神?!」
羅神の名を呼びながら辺りを見渡す舞美……次第に土煙が流れ、周りの視界が開けてきた。転がる岩塊、その中の一つの下敷きになっている羅神を見つけた。舞美は、立っている力が抜けその場に膝を付いた。しかし自分が負傷しているのも忘れ這いつくばりながらも羅津の傍らにたどり着き被さる岩を身体全体を使いどかした。そして羅神の顔を優しく撫でながら大粒の涙を流した。羅神は、舞美の涙をペロッと一舐めした後、力が抜けて行くようにゆっくりと頭を下ろし目を閉じた。そして徐々に小さな子犬の姿になり……初めて出会った時のような白い珠になり……小さく……小さく……小さくなって……消えていった。
「うっうっ……羅神……羅神……うううっうっ……ごめんね……羅神私が……私がっ!ううううっ……」
手を地面に着き、涙をこぼし謝りながら泣きじゃくる舞美。そこへ暗闇の向こうから何かが近づいて来る。
『ドスッ……ドスッ……ドスッ……ドスッ』
其れは、蛇鬼、蛇鬼がゆっくり舞美に向かって歩み寄って来ていた。しかしその姿は、深い傷が体全体に有り、焼けただれた体の所々に大きな穴が開きその傷からは、臓物が垂れ下がり大量のどす黒い血が吹き出ている。そして顔の半分ほどが吹き飛び目玉が剥き出しになっていた。羅神の渾身の……命を賭しての雷撃は、蛇鬼に相当な傷を追わせていたが致命傷ではなかった。しかもその傷は、見る見る間に再生している。
そして、蛇鬼がすぐ傍まで来ると舞美を見下ろし、ゆっくりと語り掛ける。
「そうだ……舞美。羅神は……お前の力が未熟なばかりに……今……ここで死んだのだ……」
つづく……




