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纏物語  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之廿㭭話 悲しい別れと自省の念

『ガキィン!』


 そこに間一髪で舞美が間に入り、破蛇の剱で蛇鬼の爪を受け止めそして振り払った! 普通の剱であれば棒切れのように真っ二つであっただろう。舞美の動きの速さに驚嘆した蛇鬼は一旦後ろへ大きく退いた。そして舞美は、白珠を纏い生命の指嵌で嫗の傷を癒した。傷が癒えたとはいえ嫗は、直ぐには立ち上がれない程、霊気を消耗していた。


「舞美……ありがとう。ごめんなさい」


力なく言葉を発する嫗に舞美が応える。


「うん、大丈夫だよ、めぐみさん! 後は任せて!」


舞美は、剱を鞘からシュラッと抜き脇構えで対峙した。


「やぁぁぁぁ!!!」


 疾風の如く舞美が切りかかる、しかし蛇鬼は微笑しながら舞美の一振りを軽々しく避けた……はずだった。しかし避けた筈の剱が少しかすったのか胸の部分がぱっくりと裂け、そしてその傷が黒く焼け焦げた。邪鬼は驚きのあまり少し、ほんの少し動揺した。しかしその傷は直に塞がれ蛇鬼は、落ち着きを取り戻しニヤニヤと笑い始め、何故か高笑いをした。


「フッフッフッ……ハアァァァッッ! ハハハハハハハッ!! 素晴らしいぃ! 素晴らしいぞ東城舞美! そしてその破蛇の剣、呪われし鬼の力が宿る剱! 気に入った! 気に入ったぞ舞美!

やはり剱も舞美、お前も我物にするぞ!」


 そう言い放つと何やらブツブツと呪文のようなものを唱え始めた。すると蛇鬼の身体が背中から割れ始めみるみる巨大になっていく。割れた体は更に、更に太く長くなり頭が三つに分かれた。それは巨大な大蛇涼介の時よりもさらに太く長い大蛇となった。しかもこの大蛇には頭が二つあり黒光りする頭と赤黒い頭だ。そして赤黒い頭の口からは炎が漏れ出ていて漆黒の頭の口からはどす黒い煙が漏れ出ている。


「舞美、あの炎は危険じゃ。先の戦いで纏すらあの火に耐え切れずに崩れようとしたからのぉ!」


「黒い奴は、おそらく毒じゃ。毒の煙、これは厄介じゃどう防ぐ?」


「緑じゃ緑珠で風を纏うのじゃ」


「いやそれでは毒まで纏った風に巻き込んでしまう」


「私が羅神を纏い盾となりましょう、何とか蛇鬼の術を封じます。舞美はその隙に懐へ入るのです」


 そう嫗が提案した。しかし嫗は先ほど受けた傷が十分に癒えていない。無表情でも体はフラフラだったが力強く嫗は語った。


「ここで蛇鬼を倒せなかったら……どちらにしても……私達は消えてしまいます。だからこの身を賭してでも全力で奴を倒しに行きます。そしてすべての同胞の敵をここで……討ちます」


舞美は嫗の言葉を聞いて唇を嚙み、剱をぎゅっと握り涙を堪えながら頷いた。


「行きますよ……舞美、羅神……」「雷……纏」


 嫗は雷珠を纏い、蛇鬼の方向へ疾風のごとく突っ込んでいった。舞美も嫗に後れを取らぬよう自分の出せる限界の速さで嫗に続いた。嫗の動きを悟った蛇鬼の黒い頭が擡げ始め、どす黒い煙を吐き出した。そこに嫗は臆することなく突っ込んでいく。


「神の風……氷雪」『シャンシャン!』「氷雷結晶刃……」


 嫗の前に凄まじい風が巻き起こり黒い煙を巻き上げる、そこに無数の氷の結晶刃が、高速回転しながら四方に飛び散り、さらに黒い煙を分散させ吹き飛ばした。猛毒の煙を吹き飛ばしたところに破蛇の剱を構えた舞美が突っ込んでいく! まずは漆黒の頭を切り落とす! 舞美は剱を振りかざし、黒蛇頭の首めがけて思いっきり切り込んだ! しかし!


「甘い! 甘いわっ、人間!!」


 そう聞こえたと同時に真下から赤蛇頭が舞美を跳ね上げた。舞美は錐揉みしながら天井の岩に激しく叩きつけられそのまま地面に『ドサリッ』と力なく落下した。


「舞美!」


 嫗が叫び、舞美の元へ駆け付けようとするが真横から蛇鬼の尻尾が嫗を真面まともに捉え、嫗は壁に叩きつけられ倒れた。そして蛇鬼は巨体を舞美の方へ向け、ズル……ズル……と舞美方へ近づいてきた。


 すると羅神が自ら嫗との纏を解き、舞美に近づく蛇鬼の前に立ちはだかり低く構えて唸る。

それを見た舞美が力なく起き上がり、出せる限りの声で叫んだ。


「羅……神……だめ……。下がって……に、逃げて……」


羅神は舞美の方を一度振り向き頷いた。舞美は悟った、羅神は何かを決意したと。


そして『ウウゥゥゥゥゥッ……』と唸り帯電する、そして……。


「羅神! だめぇぇぇ!!!」


「ガアアォウゥ!!!』と唸るとともに一筋の稲妻が黒蛇頭に直撃した!


『バアアァァァァァァァァン!!!!』


 凄まじい閃光、そして轟音が洞窟に響き渡り衝撃波により所々の岩が崩れ落ち洞窟内が土煙に包まれる。やがて土煙が流れ辺りが見えてくる。舞美の目の前には、力なく横たわる羅神がいた。舞美は傍によろけながらもたどり着き羅神の顔を撫でながら涙を流した。羅神は舞美の涙をペロッと舐めた後ゆっくりと頭を下ろし目を閉じた。そしてすうぅぅっと小さな子犬の姿になり、初めて出会った時のような白い珠になって……次第に消えていった……。


「羅神……羅神……ごめんね……羅神。私のせいで……」


 手を地面に着き謝りながら泣きじゃくる舞美。そこへ土煙の中から蛇鬼が元の姿でゆっくり歩み寄ってくる。羅神の渾身の……命を賭しての雷撃は……蛇鬼には全く効いていなかった……。


「そうだ……舞美。羅神はお前のせいで今、ここで死んだ……。お前は羅神が飼い犬だった頃、父親があんなに可愛がっていた犬を……一度死んでしまったラッシーを再び、お前は殺してしまったんだよ、舞美。そればかりかお前は、涼介も殺した……。お前が恋心を抱いていた涼介。あんなに優しくしてくれた涼介を……お前を好いていた涼介を……お前は……殺した……」


蛇鬼は舞美の目を見つめながら語り掛けてきた。



 

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