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纏物語  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之廿漆話 惡の権化 蛇鬼

洞窟での死闘 半刻前 


 涼介は洞窟の巨岩の上に座り、天井の隙間から差し込む青白い月の光を浴びていた。


「舞美さん……ここにたどり着けるのでしょうか……もしかしたら外の呪木の森で……。そうなる前に僕が呪木の森を焼き掃っておけば……。だめだ、それでは破蛇の剱が強くならない……兄者の破片で作った破蛇の剱が……」


兄者の破片、それは涼介が蛇鬼と対決した時、涼介の体の中に残された蛇鬼の折れた角の事。破蛇の剱はその角から作られた刀だった。この剱は涼介の命と、鬼の力を糧に強く鍛えられるのだった。


「舞美さん、出来る事ならあなたに祓われてあげたい、そしてこの剱を渡してあげたい。でもそれでは駄目なんです。この剱は、僕の悪しき力で鍛え上げられる。そして舞美さんの『清い力』によって僕が祓われる事で……更なる強力な力を持った剱になる……兄者を討ち祓う剱『月下の刀』に……」


そして涼介は立ち上がり何かを決意した顔で呟いた。


「舞美さん、早く来てください。僕は……僕は舞美さんの為に、全力で貴方達を倒しに行きます」

 舞美は大蛇との戦いに勝った。しかし大蛇の正体は鬼の涼介だった。舞美に倒され、煙のように消えていったその後には白く輝く剱と縁日で二人揃えた青い風鈴のキーホルダーが後に残った。


キーホルダーを握り締め、蹲って泣き続けている舞美に嫗が語りかける。


「舞美、まだ終わりではありません、さぁ破邪の剱を取るのです……」


 無表情で冷たく言い放つ嫗。しかし彦一郎との悲しい別れを経験している嫗は舞美の気持ちが痛いほど理解していた。泣きながら剱を手にした舞美。


「涼介君……」


と呟いたその時


『ドドォォォン!ゴゴゴゴゴゴゴドドォンドドドドドドドォォォンゴゴゴゴドドドォン!』


 凄まじい音と共に壁が崩れ落ちてきた。土煙が凄まじい風圧と共に洞窟内に広がり充満する。そしてその中に人影が。『コツコツコツコツコツ……』その靴音が次第に舞美達の元へ近づいてくる。そしてその靴音が聞こえる方から低く不気味な声がこっちに語り掛けて来る。


「私は……月が輝く夜が嫌いでね……。この時を待っていたよ、五珠の力の使い手、舞美……。お前が破蛇の剱を手に入れるこの時を……」


 そして砂煙が晴れ、声の主が現れる。そこに居たのは、黒いヘルメットをかぶりボロボロの服を着た男。どこかで見たことがあるこの男。そう、この男は舞美とバイクでぶつかった男、舞美の目の前でどす黒い煙に包まれて消えた男だ。

 この男はオジイ達から舞美と事故を起こすように利用された男で、本当ならば二人とも同じ病院へ運ばれ、男は軽傷で済むはずだったのだ。しかしその後、行方知れずになってしまっていた。


「私はね……」『ビシビシィビシッドドォォォン!』


と話し始めたと同時に男が凍り付きその辺りが大爆発を起こした。舞美が後ろを振り返ると嫗が怒りの形相で再び術の言の葉を唱えている。


「舞美……、そこをどいてください! 氷裂刃……」『ヒュンヒュンヒュウンヒュン!』


舞い上がった土煙の中に向け更に術を仕掛ける嫗。数えきれない位の氷の刃が土煙の中に放たれた!


『ガキンッッガガキンッ!ガキガキンッガキンッガキガキンッ!ガキンッッガガキンッ!』


土煙の中で金属同士がぶつかるような甲高い音が鳴り響く。そして次第に視界が開け始めその中に何か大きな、とても大きな影が見え始める。


ヒュッと一陣の風が吹き土煙が流される。そこに立っていたのは鬼。頭に生えている大きな角の片方が半分に折れ、全身どす黒い鱗に覆われた巨漢の鬼、蛇鬼が泰然自若と立っていた……そしてゆっくりとした口調で話し始める。


「嫗の子よ……鬼の話は最後まで聞くものぞ……。私はその『破蛇の剣』を発している。舞美それを私に渡してはくれまいか? 私はお前と争いたくはないんだ……。どうだ、その剱を渡してくれたら私はここから立ち去り、お前たちの前には二度と現れない」


 低い声でゆっくりと、しかも丁寧に話してくる蛇鬼。しかしその身からは明らかに凶悪な殺気が感じられている。勿論、舞美達がその言葉を聞き入れる筈がなかった。舞美は、破蛇の剱を握りしめ立ち上がり声を荒げた。


「蛇鬼! 日ノ本を脅かす惡の権化! お前のせいで苦しんだ沢山の人の為に、私はお前を絶対に許さない! そして涼介と約束した! お前を必ず祓うと!」


蛇鬼は、目を閉じ俯いて『フッ』と鼻で笑った。そして……。


「ならば…………ここで死ね!」 


 そう叫びながら右手を上げた。激しい稲光が右手から地面に向かって放たれた。すると蛇鬼の周りの地面から黒い蛇のようなものが無数に湧いて出た。それがグニャグニャと粘土の様に形を変え真っ黒い猿のような獣になった。


「さぁ! お前達、遠慮いらん! その者達を喰らうがよい!」


その声と共に獣の口が蛇のようにグワパッと大きく開き、舞美達に襲い掛かってきた! 嫗が叫ぶ!


「舞美! そいつ等に触れてはいけません! 羅神、雷撃を!」


羅神が舞美達の前に出る! 低く唸りながら構え、そして吠える!


『ワオォォォォォン!』


『ドジャヤァァッァン! バチバチバチバチッドジャヤァァッァン! バチバチバチバチッ!』


無数の雷撃が舞美達を囲むように獣を焼き尽くした。


「舞美! どうやらこいつ等は毒の塊じゃ! 剣で切ったら弾けて毒を浴びてしまうぞ!」


「舞美……一旦下がります」


「はい!」


 舞美と嫗と羅神は一旦、蛇鬼と距離を取るために後方へと下がった。そして舞美は破蛇の剱を腰に戻し赤珠を纏い、嫗は雷珠を纏った。二人は協力して距離を取り毒獣を一掃する戦法を取った。

 舞美が火焔剱を、一振りすれば焔の波が地面を走り毒獣を焼き尽くし、嫗は雷を帯びた氷の刃を雨のように降らせ毒獣を粉々にした。毒獣が一掃されたと同時に嫗は『氷雷の刀』を構え一瞬にして蛇鬼の懐に飛び込んだ。それは舞美に見せた事がない、まさに目に見えないような速さだった。


「えやぁぁぁぁ!!!」


と振り抜いた嫗。しかし手応えがなく逆に蛇鬼に後ろを取られていた。嫗がそれに気付いた時には、蛇鬼の強烈な蹴りが腰を捉えていた。


「残念……!」


とあざ笑うかのように呟く蛇鬼。激しく岩壁に叩きつけられた嫗。その衝撃で纏が解かれ羅神が転がり倒れる。嫗は深手を負ったのか動けない。『ジャリッ……ジャリッ……ジャリ……』ゆっくり嫗の下へ近づいてくる蛇鬼。


「残念だ、嫗の子よ……」


そう言いながら蛇鬼は、長く伸びた鋼鉄のような爪で嫗にとどめを刺そうと右手を振り下ろした。



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