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まといものがたり  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之弐拾話 秘事  

塾に通い始めて数か月が過ぎた頃。あれだけ落ち込んでいた成績も、神谷涼介の協力もあってか徐々にその成果が出始め、どうにか母親を一安心させる所まで持ち直してきた。それと同時に週三日の塾通いで涼介と会える事がとても楽しみになっていた。動機は不純だったがそのお陰で成績は上がったので結果良しだろう。


一方でオジイ達と嫗めぐみによる蛇鬼とその片割れの捜索活動は続いていた。しかしその姿どころか気配すら感じられていない。


当初、舞美は早く自分も捜索に加わりたい……そう思っていたが、何時しか涼介と過ごす時間の方が自分にとって大切なものと感じられるようになり、その事を余り考えない様になっていた。


そしてその中でいつしか舞美は、自分が涼介の一番近くに居る女の子……と思い始めていた。そう思う事は、涼介の舞美に対する態度や優しさなどから必然の事だった。


だが時々、ほんの少しだけ……涼介の事が心配で不安になる時があった。それは、舞美が『これは気のせいだ』と自分に言い聞かせる程だった。例えば、講義が終わり二人で居残り今日の予習をしていた時の事。


ノートに書かれた問題を解いているとふっと……何かしら……視線を感じる。何気に顔を上げると涼介が片手で頬杖を突き自分を見つめている……舞美の顔は、瞬で赤らみ思わず声が出る。


「なあぁに涼介君! そそ、そんなに見ないでよ! 恥ずかしい……」


目が合った涼介に自分では無く、今解いている数学の数式が間違っていないか、それを見ているかの如く照れながら言い放った舞美。しかし……舞美のその声に表情一つ変えず唯……一点を見つめている涼介。


「涼……介君?……どうしたの?……具合でも悪いの?」


「えっ? ああっご、ごめん……な、なんでもないん……だ……」 


涼介は、慌ててその場を取り繕う。時々見せ始めたその表情に舞美は、戸惑いを隠せなかった。その目を見る度に舞美は思った……


『この人は、心の奥底に誰にも言えない何かを隠しているのではないだろうか……」


そして塾の帰り、駅で別れた後見送る彼を見て……


『次も会えるよね……このまま居なくならないよね……』


そう考えながら胸の内が不安でしょうがなくなる。そして決して口には出せないが、こうも思った……


『私に……私にだけは……隠さないで話して欲しい……』




【縁日】


木々の葉が赤く染まり始めた秋口の頃。舞美と涼介は、久しぶりに日曜日の自習をする約束をしていた。当初毎週のように行っていた自習だったが舞美の成績も落ち着き、涼介から『僕が教えなくても舞美さんは、もう大丈夫だよ』と太鼓判を押された為暫く行っていなかった。舞美としては、一日中涼介と居れる日曜日の自習をずっと続けたかったが、涼介からそう言われ泣く泣く諦めていた。


その日の自習は、涼介から誘いがあった。しかし丁度その日曜日、舞美の従兄弟が家に尋ねてくる予定が先に入っていて本来なら外出する事が出来なかったが当然の様に自習を優先したい舞美。母親との口論の末、午後から行く事でどうにか許可が下りた。


そして当日、昼食の用意をするばたばたとしたその隙に急いで制服に着替え、おにぎりを一個口に詰め込み、挨拶もそこそこに急いで駅へ向かった。


そして午後一時十分の汽車がホームに入って来ると通り過ぎた三両目に小走りで追いつきドアが開いたと同時に乗り込む。客車に入ると前の席の外側に座っていた涼介が立ち上がり待ちに手を上げそのまま手招きをする。


「はぁはぁはぁ……良かったっ間に合った! もう従兄弟の子どもがなかなか離してくれなかったから汽車に間に合わないと思ったよ!」


「ごめん舞美さん……急がせてしまって……」


「うううん! 全然っ私には、こっちの方が大……事だか……ら……」


思わず本音が出てしまい次第に声が小さくなりながら顔を赤らめて俯く舞美。涼介は、そんな舞美を愛おしく見つめる。


(良かった……今日の涼介君、いつもと変わらない涼介君だ!)


「お昼ご飯食べたばかりだから眠くならない様にしないとね!」


「うん!」


涼介が満面の笑みで語り掛ける、舞美もそれに応えるように笑みを浮かべ頷く。それから二人自習室に入り今日の課題を始めた。


そして夕方、閉館ぎりぎりの時間まで課題に取り組んだ二人は、いつもの様に汽車に乗り帰路に着いた。車窓からの景色は、辺りが夕暮れを迎え空が紫色に染まり街の街灯がポツポツ点き始める頃だった。


二人並んで座っていると外を眺めていた涼介。すると突然何かを見つけたのか涼介が興奮しながら舞美の肩を叩き早口で話しかけてきた。


「舞美さんっ、ほら、あそこっ! お祭りだっお祭りやってるよお祭りっ!!ねぇ、次の駅で降りて行ってみない?行こうよ、舞美さん!」


涼介は、そう言うや否や了承する前の舞美の手をぎゅっと握りそのまま手を引いて乗降口の方へ歩き出した。降りた駅の目の前には、下町風の商店街で駅前から一直線に伸びた道に沢山の店が並び、その直線の終わりに小高い山があってそこに神社へ登る階段があった。商店街を抜け大きな鳥居を潜り階段を昇って行くにつれ、縁日特有の美味しそうな匂いが漂って来る。そして神社の境内に入ると露店が右に左に軒並み連なり、何処からともなく祭囃子の音が流れ沢山の人々であふれかえっていた。


その光景をまるで小さな子どものように目をきらきらさせながら辺りを見回している涼介。


「涼介君すっごい楽しそう! そんなにお祭りが好きなの?」 


その問いに涼介は、屈託のない笑顔を浮かべながら答えた。


「昔、ここら辺の村には、人も少なくてとても寂しい村だったんだ。でもお祭りの時には、周りの村から、いや遠くからもいっぱい人が集まって来てとても賑やかになるんだ!神社の境内には、沢山のお店が並んでねっ! そこで普段は食べられなかったお団子やほおずきをそのお祭りの日だけは、沢山食べる事が出来たんだ!」



(昔? 村人? ほおずきって何?)


舞美はこの時、涼介が何を言っているのか理解できなかった。ただ、涼介が余りにも興奮しすぎて早口で話すので言い方が間違っているのではと思った。そうして二人で境内を歩いていると……


『チリーン……チリーンチリーン……』


と、乾いた音色が幾つも重なった音が聞こえてきた。その音にだんだん近づいて行くとその音の出所は、風鈴が沢山吊り下げられている風鈴売りの露店だった。しかし、風鈴売りなのに何故か射的が置いてあった。その可愛らしい音色につられてそのお店の前で足が止まった。


「可愛い音色だね、ほら、これなんて金魚が泳いでる!」


ぶら下がっている数々の風鈴を見ていると奥から露店の主人が出てきた。


「よっお二人さん! 射的やってくかい? 一回二百円! 的を倒したら好きな風鈴持ってっていいよ!」


どう見ても倒れそうにない的がずらりと並んでいたが舞美は、荷物を涼介に渡し腕をまくりをしながら一歩前へ出た。


「よぉぉしっ! 私やってみる!」


「舞美さん、頑張れっ!」


二百円を払い、貰った弾を鉄砲に込め身を乗り出して的を狙う。


(見てなさいっ神氣の息で集中して……)


『パンッ!』


しかし弾は、的に当たるどころか掠りもせず、後ろの紅白幕に力なく跳ね返され落ちた。


「あぁぁ残念っ! 残念賞は、風鈴のキーホルダーだよっ、お嬢ちゃん可愛いから彼氏の分まで持ってっていいよっ!」


「えっ? いいんですか! やったぁ!」


指し出された箱の中を見ると色どり鮮やかな風鈴の形をしたキーホルダーが沢山並んでいた。一つ、舞美が手に持って上に掲げてみるとゆらゆらと揺れながら『チリリンチリリン』と可愛い音色が聞こえた。


「可愛い! 私これっ、ピンク、桜柄のこれにする! 涼介君は、どれがいい?」



「ぼくはぁ……えっとぉ……どれも綺麗で選べないなぁ……舞美さんが選んで下さい」


そう言われて箱の中を再びのぞき込むと……


「じゃあぁこれっ! 青い月の模様が入ったこれ! なんだか涼介君の色って感じがする!」


「僕って青色なのかぁ……舞美さん、選んでくれてありがとう!」


そして神社を着た時と反対側に降りると大きな公園の中に出た。その中を通り抜け駅に向かって歩いていた二人。舞美は、歩きながら景品の桜色のキーホルダーを嬉しそうに頭上に掲げ、鼻歌交じりで眺めながら歩いていた。すると、舞美の後ろを歩いていた涼介がゆっくりと歩みを止めた。先を歩いていた舞美は、涼介が立ち止まった事に気付かず歩みを止めないまま前へ進む。そして……


「舞美さん!」


涼介は、少し距離が離れた舞美に聞こえるように声を荒げ呼び止めた。


舞美は、その声にゆっくり振り返り問うた。


「えっ?…………どうしたの、涼介君……」


舞美が振り返ると涼介は、俯いていた。そしてゆっくり顔を上げるとゆっくり舞美の元へ歩み寄った。そして目の前まで近づくと顔を上げ舞美の目を見つめながら口を開き始めた……。


「舞美さん……あのね……実は…………僕は……」



つづく……


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