曲芸師の戦い方
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曲芸師ギルドに臨時休業の張り紙をして、リン、ケン、ユミの三人は、食事に出掛けた。ユミの薦めるイタリアンなお店は賑わっていた。そして店主はNPCのようだった。
「おや、貴女は曲芸師ギルド長じゃありませんか?」
と珍しそうにリンに言う。
「ああ、そうだ。この二人に誘われてな。このお店に来たんだよ」
「それは、それは。ごゆっくりどうぞ」
「ギルド長が食事に来ることが、そんなに珍しいことなのか?」
「うむ、普段はどのギルド長も、自分のギルドの中で食事を摂る」
「それなら一緒にお食事が出来て、ハッピーですね。リンさん」
「ああ、その通りだな、ユミ」
俺達はピザとパスタを頼んだ。三人でシェアするためだ。ピザは二枚頼んだ。
十分後、料理が運ばれてくる。一品目はチーズとトマトのピザ。二品目は魚介類のピザ。三品目はオリーブオイルとニンニクのペペロンチーノだ。
取り皿を貰って、みんなで取り分ける。
「美味しそうですね」
「ああ、美味そうだ」
ユミとリンが言っている。
チーズとトマトのピザを一口食べて、
「美味い」
と俺が一言。
「どれどれ?」
「あー、ずるいです。私も一切れいただきます」
わいわい言いながら、食べ進めていく。
すると横から男が
「なんであんたたち、銀髪なんだ?チュートリアルでも出来なかったぞ」
「それは秘密だ」
リンが毅然とした態度で受け答えする。
「なんか気に入らねーな。お前」
男は不機嫌になる。
「PvPで決着つけようぜ、お姉さん」
「リンさん、ここは穏便に済ませましょう。早く謝りましょうよ」
と、ユミが心配するが
「良いだろう。コロシアムでPvPを受けよう。ただし、昼食を食べたばかりだから少し時間をおいてからが良いな」
「それはこっちも同じだ。良いだろう。三十分後にコロシアムでPvPだ」
リンは血気盛んにPvPを受けた。
俺は心配になって、
「大丈夫なのか?」
と小声で聞いた。もちろん勝算はあるのかという意味でだ。
「案ずるな、余裕だ」
とリンは言ってのけた。
三十分かけて作戦会議をした。主に喋っていたのは、俺とユミだけれど。
「あの喧嘩っぱやさは、PvP慣れしているぜ」
「そうですね。最初はやはり様子見でしょうか?」
「いや、意外と先手必勝かもしれないぜ」
「そうでしょうか?作戦負けするかもしれませんよ?」
「ああ、それなら様子見の方が良いだろうな」
「二人とも静かにし」
とリンは言ってから
「どうせ余裕で勝てるんだ。曲芸師の戦いってやつを見せてやるよ」
と啖呵を切った。
三十分後、三人はコロシアムに来ていた。
「逃げずに来たか。褒めてやるぜ」
「それはこっちのセリフだ」
「なんだと!?」
相手は相当頭にきやすいタイプらしい。
「お前なんか瞬殺してやるからな」
「口の聞き方も知らないボウズが、ほざくな」
相当ヒートアップしているようだ。
そしてリンと男の戦いが始まった。
「速攻!」
男が剣を振り上げてリンに斬りかかる。
それをサラリと避けると、リンは首もとをポンとチョップした。それだけで男はへなへなと座り込む。
「てめえ、何をした」
「別に何も、貴様が勝手に倒れただけだろう」
コロシアムは盛り上がっている。リンの手刀に魅了されたのだろう。
立ち上がって向かってきた男に、火吹きをするリン。あえて、当たらないギリギリのところで火吹きをする。びびって男は腰を抜かす。
「うわぁぁぁ」
「どうした?もう終わりか?」
「ふざけるな!火を吹いてくる奴があるか!」
「それが曲芸師の戦い方だからな」
リンが余裕を見せている。男は腰を抜かしたまま、立ち上がることが出来ないでいる。
「それじゃあ、これで終わりだな」
ダガーをクルクルと回すと、男の心臓に突き立てた。
リンはガッツポーズを上げていた。