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赤松千代

 後書きの注1の誤字を修正しました。

「浩、あれは何だ?」

「どれでござる?」

 和哉の問い掛けにモリモットは対象を捉えられない。

「黒松千代の背中に貼り付いている、あの赤い物体だ」

「そんなまさか……」

 モリモットが愕然としたのも束の間、真剣な眼差しで和哉に訴え掛ける。

「和やん、今すぐネギを用意して欲しいでござるお」

「ネギ?」

「黒松千代が全滅する前に、早く!」

「分かった。こんなこともあろうかと、ネギを大量に持って来ていた」

 和哉の言葉に応えるように、兵士たちがネギの山を持って来る。

「これを、どうするんだ?」

「こうするでござるお」

 モリモットはおもむろにネギの山から一本を抜き取ると、空に向けて投げ飛ばした。呆気に取られている和哉が目にしたのは、そのネギに飛び付く赤い影。

「ネギを食べてパワーアップでござるお」

「ホウレンソウ(注1)じゃないのか」

 赤い影がネギを取り込むと、急に輝き出した。

「何だ、これは?」

「CGでござるお」(注2)

 しれっとモリモットは言ってのける。

「さあ、ドンドン食べさせるでござるお。ネッギネギにしてやんよぐらいの気持ちで投げるでござる」

 モリモットに煽られて、和哉と兵士たちは次々とネギを赤松千代に投げ付けた。ネギを摂取する度に輝きが増し、いよいよ直視できないぐらいになる。あまりの眩しさに、敵味方双方の動きが止まった。

「ヲタクの帝王(注3)、赤松ケーン!」(注4)

 松千代の木が赤く輝きながら宙に浮いている。その周囲に複数の少女の幻影が見えた。その少女たちが一斉に戦闘メイドに襲い掛かる。

 戦闘メイドは機関銃を投げ捨て、眼帯を外すと、両手を前に突き出した。

「私の雷撃は宇宙一ぃ!」(注5)

 刹那、轟音と共に閃光が走り、襲い掛かろうとしていた少女たちを一瞬で消し飛ばす。赤松千代の木は空中で耐え切ったようだが、戦闘メイドは顔面を押さえて蹲っていた。

「今でござるお。赤松千代よ、トドメを刺すでござる!」

 モリモットの命令に応じて、赤松千代は急降下する。その拳が戦闘メイドに触れる寸前、赤松千代は急に方向転換して地面に激突した。そう見えたのは戦闘メイドが赤松千代の拳を掴んで巻き込むように投げたからだ。彼女はそのまま赤松千代の腕に関節技、腕ひしぎ逆十字を極めて、あっさりとへし折った。

「躊躇なく折りやがった」

 通常、どのような人物でも関節技を折るまでは固めない。特にレスラーの尾藤は互いの身体を大切に扱うよう訓練されているから尚のことだ。

「軍人のような覚悟だな」

 和哉は戦慄した。銃器の取り扱いといい、躊躇なく関節を折る動きといい、メイドという外見からは想像できない行動だった。

「一筋縄ではいかないようだな」

「和哉、一つ頼みがある」

 前に出ようとした和哉を、尾藤が呼び止める。

「ミーにやらせてくれ」

「どうした、急に?」

「あれは……、あの戦闘メイドは、ミーの娘だ」

 尾藤の告白に、和哉とモリモットは呆気に取られる。

「マジでフラグ回収したでござるお」

「娘は陸上自衛隊ジャパニーズ・アーミーの自衛官、戦闘のプロだ」

「そうか、では頼む」

 尾藤の気持ちも考慮して、和哉はその願いを聞き届けた。戦闘メイドこと、尾藤の娘は赤松千代を相手に戦っており猛牛の勢いで迫る父親には気付いていない様子だ。和哉は好機と捉える。

「浩、クリスを頼んだぞ」

「任されたでござるお」

 二人と部隊一つを置いて、和哉は敵陣に向けて進み出る。

 尾藤はオックスボンバーを仕掛けたが、寸前で察知されて娘に躱された。

「弥生、何て服装をしている?」

父さん(ダディー)?」

 まさか父親に会うと思ってなかったのであろう弥生は、驚いた表情を浮かべたが、すぐに表情を引き締める。

「黙れ、下等生物が」(注6)

 戦闘メイドの役柄になりきっての台詞だったが、父親の尾藤は本気で怒った。

「お前をそんな娘に育てた覚えはない!」

「だ、黙れ!」

 流石に照れ臭くなって弥生は動揺していた。

「躾し直してやる!」

「バイソン尾藤の実力、見せて貰うぞ!」

 親子対決は尾藤の体当たりから始まった。低い姿勢から両脚を刈ると見せ掛けて、上体を急激に起こして肩から体を当ててゆく。

 両脚への警戒から、やや前傾姿勢になっていた弥生は、その体当たりを不意打ちに近い形で食らう。まともに顎へ尾藤の右肩が当たって、彼女は派手に吹き飛んだ。

「だ、大丈夫か?」

 思ったよりも遠くへ飛んでいった娘に、尾藤は思わず安否確認を行った。弥生は受身を取っていたので負傷はしていないが、心配されたのが自衛官としての誇りを傷つける。

「真剣勝負の最中に、随分と余裕ですね」

 弥生の雰囲気が変わる。鋭利な刃物のような視線の先には、娘に対する葛藤で苦しむ中年男性の姿があった。

父さん(ダディー)甘いのよイッツ・ノッ・インナフ」(注7)

 立ち上がった彼女に向けて掴み掛かって来る父親の腕を掻い潜り、その右腕を掴む。そのままクルリと背中を向けて、肩越しに梃子の要領で腕を引っ張れば簡単に大男が宙を舞った。背負い投げである。

 尾藤は地面に叩きつけられた衝撃よりも、娘に投げ飛ばされた衝撃の方が深刻な打撃となっていた。茫然自失として立ち上がれない。

「勝負あったわね」

 弥生はニヤリと笑うと、尾藤に背を向けた。彼女の視界には迫り来る男子高校生が映っている。

「可愛い坊や、お姉さんが優しくしてあげる」

 弥生はショタコン(注8)ではないが、年下男子が好物だった。だが彼女は知らない、目の前の男子高校生の中身が四十五歳のオッサン、つまり自身の父親と同級生という事実を。

声の想定(ボイスイメージ)

・桐下  和哉  鈴木達央さん

・聖女クリス   小林ゆうさん

・ジョアンヌ   河瀬茉希さん

・モリモット   関智一さん

・武藤   龍  玄田哲章さん

・尾藤  大輔  稲田徹さん

・佐藤  竜也  櫻井孝宏さん

・山岡  次郎  下野紘さん

・藤井  照美  伊藤かな恵さん

・藤井  羅二夫 うえだゆうじさん

・佐藤  由貴  芹澤優さん

・ペンテシレイア 日笠陽子さん

・樋口  鞆絵  喜多村英梨さん

・井ノ元 喜久代 丹下桜さん

・尾藤  弥生  沼倉愛美さん



注1 ホウレンソウ

 西アジア原産の葉菜類である。西洋ではごく一般的な野菜で、海兵隊員を主人公にしたアメリカのアニメ『ポパイ』では、主人公のポパイがホウレンソウを食べることで超人的な能力を発揮している。

 この事例を元に、野菜嫌いの子供たちにホウレンソウを食べさせる親や、ホウレンソウを使った料理に「ポパイ」の名を付けるなどの事象がある。

 栄養素としては鉄分とその吸収効率を上げる葉酸の含有が豊富なので、貧血予防に摂取したい野菜である。


注2 CGでござるお

 赤松健さんの漫画『魔法先生ネギま!』で、魔法を堂々と使ったネギ・スプリングフィールドが言い訳として使用した。

 コンピュータ・グラフィックスの略である。


注3 ヲタクの帝王

 漫画家赤松健さんは自らを「オタク」と認めている。


注4 赤松ケーン

 元ネタは克☆亜樹さんの漫画『星くずパラダイス』に登場する主人公の父親にして演歌の帝王・宝生健の登場場面。


注5 私の雷撃は宇宙一ぃ!

 この台詞を茨城弁で表現すると「ウチの雷撃は宇宙一だっちゃ」となる。


注6 下等生物

 ゲジゲジでもナメクジでも、好きな振り仮名を振ろう。


注7 甘い

 「It’s not enough」=充分ではない。

 甘いという英単語には「sweet」もあるが、こちらの意味合いでは優しい、恋人関係の意味も含めるので、上記表現にした。


注8 ショタコン

 「正太郎コンプレックス」と呼ばれる、少年を偏愛する女性を表現する言葉。幼女趣味を持つ男性を表現した「ロリータコンプレックス」の対義語である。

 尊いらしい。

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