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戦闘メイド

 和哉が広間に戻ると、シュガー四天王たちが険悪な雰囲気を醸し出していた。和哉は近くにいた照美に尋ね掛ける。

「何があった?」

 普段は温厚な佐藤が怒りを露わにし、武藤も厳しい表情をしていた。対して尾藤は呑気にビールを喉の奥へ流し込んでいる。

「もう一度、言ってみろ」

「ああ、何度でも言ってやろう。ユーたちは弱くなった」

「武藤さんが危ういところを佐藤さんが助太刀したと話したら、あの通りですぅ」

 照美は困ったような表情をしていた。しかし遠巻きに見ている兵士たちは違う。三人が喧嘩を始めるよう、けしかけていた。

「お前ら、そういう闘志は戦場で燃やせ」

 和哉が三人の間に割って入ると、乱闘を期待していた兵士たちの気勢を削いだようだった。

「和哉の顔を立てて、ここは納めるが、次は許さないからな」

「自分の娘に手を出すなと言った男のセリフとは思えないな」

「何を!」

 いきり立つ佐藤を武藤が抑え、尾藤に対しては和哉が注意を与える。

「尾藤、その言い方は良くない。お前だって娘がいるだろう?」

「確かにミーにも娘はいる。だが(バット)ミーならキチンと言うことを聞かせてみせる」

 和哉を始め、転生組は絶句する。

「立った、フラグが立った」(注1)

 唯一、照美だけが茶化していた。

 宴を終えて、それぞれが朝稽古に散った後、やはり広間に壁新聞が貼り出される。


『あの戦闘メイドがついに参陣』


 壁新聞の内容を読んだ和哉は溜息を禁じ得ない。山岡の書く記事は虚実入り乱れていて、参考程度にしかならないからだ。

「戦闘メイドでござるか」

 女戦士(アマゾネス)部隊の修復作業を終えたモリモットがそこにいた。

「浩、今日は大丈夫か?」

「拙者なら大丈夫でござるお。修復作業に血液を掛ける(注2)必要はないでござる」

 冗談を言えるぐらいだから大丈夫と和哉は判断する。

「では予定通り、竜也と龍、ジョアンヌは南へ頼む。尾藤と浩、クリスは俺と共に北方だ」

「分かった」

「吉報を待て」

 佐藤ら三人は即座に出陣した。モリモットが少し困り顔だ。

「和やん、申し訳ないでござるが、女戦士(アマゾネス)部隊は出せないでござるお」

「何だと?」

「代わりに今回は松千代を連れて行くでござるお」

 筋肉質の男性に見える不気味な樹木を連れて行くと聞かされ、さしもの尾藤も眉根を寄せた。

何ぃ(ホワッツ)? 枯れ木も山の賑わいではないぞ」

「まあ、尾藤が活躍すれば何とかなるだろう」

 和哉がそう言うと、尾藤はニヤリと笑った。

「ミーに任せろ」

 豪快に笑う尾藤に、和哉たちは一抹の不安を抱くのであった。

「藤井ラジオによる、藤井ラジオの為の、藤井ラジオのオールナイト藤井!」

 昨日同様、留守番を任せた藤井姉弟はラジオの放送を開始する。

「本日、最初のお葉書は大原県辺蘇(へそ)上郡双ツ丘崎(ふたつおかさき)(ちょう)桜井ろ(注3)にお住まいの、谷里(やり)椙代(すぎよ)さんから頂きました」

「……どこだよ?」

 相変わらずどことも知れない住所だった。

「突然ですがクイズです。春、夏、秋、冬、一年の中で最も長い日数はどれでしょうか、という問題がありますが、何でもすぐに投げ出してしまうのは、どの季節生まれの人でしょうか?」(注意4)

「え?」

 和哉は考えたが、答えは思いつかない。

「正解は番組の最後にお伝えします。それでは谷里椙代さんのリクエストで、パンジー・オクトーバー・愛をどうぞ」

 答えが気になるが、一行は進軍を続けた。

 ブリュンヒルデ陣営の砦が見えて来る。いつも通り、既に待ち構えられており、先頭にはメイド姿の女性が佇んでいた。

「あれが山岡の伝えて来た、戦闘メイドか」

「戦闘メイドなら六人はいるはずでござるお」

 モリモットは注意深く周囲を見回す。しかし、メイド姿の女性は一人のみで、更に彼女は右目に眼帯を着用していた。

「こちらでは、肉体的欠損はないはずなのに?」

 クリスが小首を傾げる。

「邪気眼(注5)の持ち主かもしれないでござるお」

「ラノベの読み過ぎだ」

 和哉はそう言って苦笑したものの、そうした荒唐無稽な能力を持っている可能性は高いと警戒心を呼び起こした。

「浩、仮に彼女が戦闘メイドとすると、どういう能力を持っていると思う?」

「眼帯着用の戦闘メイドは銃火器を使う可能性があるでござるお」

「様子見に、松千代を出してくれ」

 人的被害を抑える為、筋肉質の男性に見える樹木を投入する。松千代の木は足元の植木鉢の底から気体を噴射して移動するのだが、どういう仕組みかモリモットは説明しない。その樹木たちに変態を組ませ、失敬、編隊を組ませて前面に押し出す。

「さて、どうなる?」

 和哉が見守る目の前で、先頭の松千代の木が弾け飛んだ。目を見張ると戦闘メイドの手元に拳銃が握られている。続け様に連射する戦闘メイド、狙いは正確に先頭に立つ松千代の木を撃ち抜いている。

「松千代のインベーダーゲーム(注6)ではないでござるお!」

 珍しく激昂するモリモット。対して、こちらも珍しく静かな尾藤に、和哉は違和感を覚えた。

「チェンジ、ブラックパイン、トランスフォーム!」

 胸の辺りを軽く両手で叩きながら発声(注7)したモリモットの絶叫はビブラートが掛かっていた。その命令に応じて、松千代の木は姿勢を変化させると、黒く変貌する。

「あれは?」

「黒松千代の木でござるお。黒松はより太く、より逞しくなって攻撃を防ぐでござるお!」

 腰に手を当て、誇らしく胸を張るように見える松千代の木は確かに銃弾を跳ね返した。すると戦闘メイドは拳銃を投げ捨て、細長く鈍色に光る筒を持ち出す。

何てこった(オーマイガッ)!」

 尾藤が頭を抱えた。腰溜で戦闘メイドは機関銃を扱っている。

「機関銃にはセーラー服(注8)でござろう」

 モリモットが何か呟いているが、次々と砕け散る黒松千代の姿に現実逃避しているのかもしれない。

「マズイな」

 黒松千代が全滅すれば、次は和哉たちの番だろう。流石に銃弾を避けるとか弾き返すなんて芸当は無理だ。圧倒的不利を悟り、和哉は歯噛みする。

「あれは?」

 和哉は黒松千代の背中に、チラリと赤い物体が見えた気がした。

声の想定(ボイスイメージ)

・桐下  和哉  鈴木達央さん

・聖女クリス   小林ゆうさん

・ジョアンヌ   河瀬茉希さん

・モリモット   関智一さん

・武藤   龍  玄田哲章さん

・尾藤  大輔  稲田徹さん

・佐藤  竜也  櫻井孝宏さん

・山岡  次郎  下野紘さん

・藤井  照美  伊藤かな恵さん

・藤井  羅二夫 うえだゆうじさん

・佐藤  由貴  芹澤優さん

・ペンテシレイア 日笠陽子さん

・樋口  鞆絵  喜多村英梨さん

・井ノ元 喜久代 丹下桜さん

・戦闘メイド   ????



注1 立った、フラグが立った

 アニメ『アルプスの少女ハイジ』で、病弱のクララ・ゼーゼマンが車椅子から自力で立ち上がり、数歩進んだ時に、ハイジが「立った、クララが立った」と叫んだ場面を原典とする。

 感動的場面であり、強い印象を残したことで、様々なパロディが創作されるに至る。

 なお大正時代の翻訳では『楓物語』とされる。


注2 修復作業に血液を掛ける

 車田正美さんの漫画『聖闘士(セイント)星矢』で、傷ついた「聖衣(クロス)」を修復するには聖闘士の血液が必要だったことを意識した発言。


注3 大原県辺蘇上郡双ツ丘崎町桜井ろ

 架空地名ではあるが、番地に「いろは」を使う地名は実在する。


注4 春、夏、秋、冬、一年の中で最も長い日数はどれでしょうか、という問題がありますが、何でもすぐに投げ出してしまうのは、どの季節生まれの人でしょうか?

 「秋っぽい歌ですね」と言われ、「飽きっぽいですか?」と困惑したアーティストのやり取りを元ネタとする。

 これも何十年前のネタなんだか……。


注5 邪気眼

 「くっ……、鎮まれ、オレの腕……!」

 思春期特有の自己陶酔、自意識過剰が生み出した第三の目、それが邪気眼だ。

 その能力は持ち主により千変万化であり、明確な定義はない。

 眼帯をしている場合は、この第三の目の力が両眼のどちらかで発動している場合で、それを封印する為に装着している。

 決してファッションではない、ファッションではないのだ。


注6 松千代のインベーダーゲーム

 拙著『四十五歳の負け組オッサンが異世界転移して目指すのは勝ち組人生・第一幕』第九部分の後書きで紹介した、『ボディビルのかけ声辞典』を出典とする。


注7 胸の辺りを軽く両手で叩きながら発声

 アニメ『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』の登場生命体が変形時に発する「トランスフォーム」という掛け声を再現できる。

 やり過ぎは気管支や声帯を傷める可能性があるので、くれぐれも注意して欲しい。例によって、君、もしくは君の友人知人が傷つき、あるいは入院しても、当方は一切関知しないからそのつもりで。


注8 機関銃にはセーラー服

 赤川次郎さんの小説でもあり、同名の映画、歌が存在するのが『セーラー服と機関銃』である。

 なお楽曲を手掛けた来生たかおさんは同じ曲で歌詞に異同のある『夢の途中』を、映画主演の薬師丸ひろ子さんの『セーラー服と機関銃』が発売される十日前に発売したばかりだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・石川県には「いろは」を字(あざ)用いた地名があります。 他の都道府県は存じません。 少なくとも岡山市では「いろは」を用いる字(あざ)を見掛けた事はありません。 ・昔は「セー○ー○と一晩中…
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