第2話 前進・撤退
あれから1時間が経過した。
しかし、進んだ距離は1キロにも満たない。
まだ施設まで9キロ以上あると言うのに、祐樹たちの眼前にあるのは、戦車2台と装甲車3台、そして50人以上の兵士だった。
「聞いてないぞ、こんなの……」
聞いている訳が無い。
こんな重防御ならばこんな作戦が承認されることなど有り得ない。
警備にあたっているのは1個大隊(約500人)と聞いていたが、この距離で50人も警備がいるのならば警備にあたっているのは連隊クラス、悪ければ旅団クラスだろう。
最悪の場合、師団クラスである可能性すら考えなければならないだろう。
既に祐樹たちの小隊のキャパシティを越えている。
大隊クラスの警備ならば上手く検問や警備所をすりぬければ侵入可能だが、連隊、旅団クラスになれば発見されずに侵入出来る可能性は10パーセント未満、師団クラスならば皆無だ。
戻るのならば見つかったとしても犠牲を出来る限り減らす事が出来るだろう。
「……行こう。5人分隊編成に変更して、茂みに隠れながら少しずつ前進して、夜に本格的な移動を開始しよう」
どちらにせよ、これしか道は残っていなかった。
戻ることなど出来ない。
他の部隊が2つの施設を制圧しても、自分たちが制圧できなければ混乱に追い込む事は出来ない。
作戦成功の条件は全通信局の制圧であって、1つか2つなら作戦は失敗だ。
これは確かに小規模で、大局に与える影響は僅かだろう。
しかし、それでも時間稼ぎにはなる。
「了解しました」
副官はただそれだけ言うと、隊員たちに手で信号を送った。
隊員たちは指示に従い、音を立てないようにゆっくりと隊形を整える。
5人編成に変更した後は散開し、それぞれがそれぞれの援護を出来る位置まで移動し、動いているのか分からない程の遅い動作で前進して行く。
そして、中国軍の部隊から完全に死角となる位置に到達した部隊は一時的に休息の時間を得た。
それから5時間。
完全に日が暮れた。
中国軍部隊は僅かな見張りを残して晩餐へと入っている。
移動には絶好の時間だ。
祐樹は無線機を3回叩いて移動開始の指示を出す。
一斉に動くと音でばれるため5人ずつ移動する。
晩餐を楽しむ中国軍兵士の声が聞こえてくる。
この様子なら多少音を出しても問題はなさそうだが、細心の注意を払って前進する。
全ての部隊が中国軍の監視範囲から抜け出せたのはそれから1時間が経過した頃だった。
無線連絡を聞く限り、どの部隊も同じような状況らしい。
どうやら情報部が誤翻訳をしたようだ。
旅団とすべき所を大隊と表記してしまったらしい。
つまり、作戦中止レベルの失敗だった。
作戦中止の通達は出ているが、どの部隊も戻る場合相当の損害を受ける可能性が高いため現場指揮官が拒否したのである。
そのため、『救国連合』日本奪還軍総司令部は救出部隊の派遣を決定した。
だが、救出の指定ポイントはここから2キロ以上離れた公園だ。
無事にそこまで到着出来るかは微妙だった。
それよりも通信局を制圧して脱出予定ルートの部隊を退かせた方がいいかもしれない。
どうする?
祐樹は悩んだ。
通信局を制圧すれば機密情報も奪取出来る上、確実に脱出出来る。
救出部隊による救出の場合、恐らくヘリを使うだろうから、撃ち落とされる危険性もある。
「指定ポイントに向かおう。通信局に到着するまでに食料が尽きる可能性は高いし、通信局の近くにとてつもない数の敵がいるかもしれない。出来る限り早く、此処を脱出した方がいい」
副官らも賛成した。
これ以上、ここにいることは得策では無い。
折角、あの部隊の監視の目をすり抜けられたのに、中止は残念だが、犠牲は出来る限り少なくしたほうがいい。
そう言う判断だった。
「軽機(軽機関銃)持ちを最前線に配置して、グレネード付きの小銃持ちは1番後ろに配置。それ以外は中間に入ってくれ」
撤退の場合は別に見付かっても問題ない。
それよりも、ヘリの到着とほぼ同時にポイントへ到着する方が重要だ。
早過ぎれば追撃部隊に殲滅されるし、遅すぎればヘリが撃ち落とされる。
到着予定は20分後。
走れば丁度いい時間となるだろう。
隊形を整えた後、部隊は一斉に公園へと走り出した。
えー、完全にスランプです。これまではクオリティは落ちるけど何とか書ける程度のスランプだったのですが、全く書けなくなってしまいました。どうやら新しい連載の準備のせいでこうなったみたいです。出来る限り早く更新する予定ですが、1週間程度更新出来ないかもしれません。これからは二重連載となるので、これから更新スピードがほぼ確実に落ちます。こちらを優先して更新していく予定ですが、遅くても恨まないで下さい。誤字・脱字や文法的におかしい表現の指摘や評価・感想もお待ちしています。……やっぱり、現代戦記と異世界ファンタジーの同時連載は無謀だったかな……