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第2章 解放 第1話 『鼠作戦』

西暦2012年8月。

夏休みで賑わう筈の海に観光客はいなかった。

いるのは、プレハブ小屋にもたれかかり、暇そうに煙草を吸っているデザート(砂漠)迷彩の戦闘服を着た男が2人だけ。


……人がいないのはどこでも同じだった。

東京のオフィス街でも、軽井沢のログハウス群でも、大阪の繁華街でも。

実際に人がいない訳では無く、ただ、出てこないだけ。

この年の6月を境に人が見えなくなった。

外にいるのは中国軍の兵士か公安、中国政府から許可を出された輸送業者だけだ。

6月に戒厳令が出され、午前6時から9時、午後6時から8時以外の外出は特例を除いて禁止されていた。

それ以外の時間に外出していれば即座に逮捕される。


日本政府は消滅し、現在は中華人民共和国・日本人民解放政府と名を変えていた。

天皇家は『救国連合』の助けによって皇居を脱出した。

皇居は中国の戦車によって踏み潰され、哀れな姿を曝している。

すなわち、日本は崩壊した。


『救国連合』は3人の理事を失い、1人の理事は全治3ヶ月の重傷を負った。

とてもでは無いが新たな作戦を実行する事は困難だった。

あの日から約2ヶ月。

『救国連合』は小規模作戦の実行を決定する。

その作戦とは、日本各地に設置された中国軍の通信局襲撃である。

その中で最も重要なのが東京付近に存在する3つの通信局だ。

それらは日本に駐屯する中国軍の情報を統括するネットワークであり、占領すれば一時的ながら混乱状態に追い込む事が出来る。

ただし、重要なだけあって警備も凄まじく、10キロ以上離れたこの砂浜でさえ警備員が警戒を行っている。

冒頭に出て来た煙草を吸っている男の事である。

確かに油断しているが、殺す訳にはいかなかった。

通信機が心拍計と連動しており、死亡した場合、即座に警報が通信局に流れる。

警報が流れれば近くの中国軍部隊が飛んで来て防備を固められてしまう。

あくまでも隠密に事を運ばなければ意味がない。

「……」

少し前に『救国連合』の第11理事となり、今回の作戦の前線指揮官に任命された永田祐樹は沈黙していた。

彼が理事となった理由は簡単で、秋菜のような若い人間が必要と言う理事長の思惑による物である。

実際、祐樹は自分を救ってくれた『救国連合』に感謝していた。

あの後で『救国連合』が掴んだ情報によると、公安は永田孝一郎が1週間以内に出頭しなかった場合祐樹を惨殺して見せしめにしようと目論んでいたらしい。

その恩返しのために今回の理事就任を引き受けた。

ちなみに、理事長もただ若いから祐樹を選んだのでは無い。

祐樹は秋菜と同じく咄嗟の判断に優れ、近接戦闘では秋菜を上回る能力を示した。

しかし、秋菜のように射撃能力に優れていない上、感情が昂ぶり易いと言う問題点があった。

しかし、これ以上の人材はいない。

そして、今回の小規模反撃作戦『鼠(隠密)作戦』

の指揮官に抜擢される事となった。

小規模作戦だが難易度は大規模攻勢作戦のそれに等しい。

隠密作戦は精神的疲労が非常に大きく、実行者の士気低下を招く。


「麻酔銃で撃ってくれ」

祐樹は味方のスナイパーに命令する。

スナイパーはそれに頷き、対獣用の麻酔銃を取り出し、歩哨を狙う。

獣用と言うことで連射は困難なため2人のスナイパーが狙う事になる。

いくら油断していても仲間が突然倒れれば非常警報くらい発する筈だ。

スナイパーが準備完了のサインを出す。

「射撃」

それに応じ、祐樹は射撃命令を下す。

同時に銃から麻酔弾が射出される。

それは狙いと寸分違わぬ腕の静脈へと吸い込まれていった。

歩哨2人が同時に痙攣し、浜辺へと倒れ込んだ。

「進行」

祐樹が命令を出すと20人以上の隊員たちが一斉に動き出し、歩哨がもたれかかっていた建物を制圧する。

制圧が終わると近くの建物を徹底的に調査し、砂浜を後にした。




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