第17話 『救国連合』半壊と混迷の日本
「ん……?」
秋菜が目を開けると、そこは消毒の匂いがする部屋だった。
身体を持ち上げようとすると、全身に鋭い痛みが走る。
前に倒れた時とは比べ物にならない程の激痛。
そして気付いた。
ここが集中治療室である事に。
秋菜の身体には、大量のコードが取り付けられ、それは傍らにある計器類に伸びている。
そうか。
自分は、撃たれたんだ。
秋菜はあの光景を思い出す。
ヘリにグレネードを撃って、横から中国軍兵士に撃たれて……
……?
その後が思い出せない。
確か、誰かに助けられた筈だが、その前後に何があったのかが分からない。
「目が覚めたみたいね」
少し遠くから声が掛けられる。
その方向に目を向けると、そこにいたのは前に気を失って目が覚めた時にも近くにいた、秋月加奈子だった。
「まだ動いては駄目よ。貴方の怪我、一歩間違えば死んでた……と言うより、ここに着くまで生きてたのが奇跡のようなものなんだから。右上腕骨複雑骨折、左肺損傷、肋骨2本骨折、右腎臓損傷。ざっと見て全治3ヶ月の大怪我よ。得に肺はまずかったわ。1センチずれてたら心臓だったし」
それは、秋菜としても衝撃だった。
そこまで酷いとは思わなかったのだ。
この状況で全治3ヶ月は致命的なロスだ。
リハビリなども考慮すれば最悪半年以上かかるかもしれない。
そんなこと、ありえない。
そんなに時間が経てば、日本の国旗は真っ赤に染まってしまう。
『救国連合』は自分がいなくても動いて行く。
しかし、その戦いを見届けるだけなんて、苦痛だけしか残らない。
だが、負傷した自分は足手まといだ。
ならば、見ているだけのほうがいいのかもしれない。
「秋菜」
しばらくして、加奈子が呼んだ。
秋菜が加奈子の方向に向くと、苦しそうな顔で切り出した。
「貴方に言っておかないといけない事があるの」
その言葉は、これから言う事の深刻さを物語っているようだった。
秋菜にとてつもない不安感が襲い掛かる。
それにも構わず、加奈子は切り出した。
「高橋さんは、死んだわ」
コノヒトハ、イッタイナニヲイッテイルンダ?
「貴方を助けに行って、逃げる途中、頭を撃ち抜かれて」
キキタクナイ。ソンナコト、シンジラレナイ。
「即死だったわ」
チガウ。アリエナイ。アノヒトガ、シヌハズナイ。
秋菜に浮かぶ言葉は否定の言葉だけだった。
だって、あの人は……
その瞬間、あの光景がフラッシュバックする。
自分が撃たれて、必死で助けに来た人物。
逃げる途中、倒れ込んだあの光景。
そう、あの人物が誰かなど、分かりきっている。
そして、加奈子は嘘をつかない。
残酷であろうとも、純粋に真実を突き付けて来る。
つまり、嘉弘がもう二度と秋菜に向かって笑いかける事は無い。
話しかけて来る事も無い。
「そう、ですか」
長い沈黙の後、秋菜は言った。
「それと、第5理事の大村さんが意識不明の重体。まあ、助かる可能性はゼロね。弾が肝臓やら脾臓やらをぐしゃぐしゃにしてくれたし、右の肺は機能停止状態で脊髄、鎖骨肋骨を骨折。あと、第9理事の浅野くんが行方不明。どうやら裏切りが起きたみたい。と、言うかそもそもスパイだったんでしょうね。実行犯は」
つまり、理事の死者2名と行方不明者1名、議会出席不能者が1名、理事の3分の1がいなくなってしまったのだ。
『救国連合』がまともに機能出来なくなってしまった。
「今回の作戦、戦術的には大勝だけど戦略的には大敗ね。中国は無尽蔵の兵力を持っているのに対してこちらは3万人で12人の幹部の内3人が機能不全に陥った。しばらくは大規模な作戦を実行するのは困難ね」
そう。
『救国連合』の理事は理事であると同時に将軍の役目も持っているのだ。
軍に例えれば将軍3人が殺されたに等しい。
大規模作戦の発動はしばらく不可能になるだろう。
それまでに。
「それまでに、中国が国家権力を握る可能性は99パーセント以上。万事休す、と言った所かしら」
今後、日本はますます混迷の度合いを深めて行く事となる。
日本の崩壊は、まだ始まったばかりだった。
第1章 完
これで一応第1章は完結です。これから少しプロットの書き直しなどを行うため最低3日最大6日程度時間を頂きます。誤字・脱字の指摘や評価・感想もお待ちしております。