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タイムマシンは恋心の果てへ



 視界明転。寒さが身体を包み、足が震えた。

 二回目だからか、あまり強い酔いは感じなかった。ゆっくりと眼を開くと、そこには、何処かバツが悪そうな表情を浮かべた星井がいた。


「ただいま、星井」


「お、おかえり。は……篠崎」星井は珍しく、いや今の彼にしては珍しく喋りにくそうな様子であった。「その、どうだった?」


「星井、全部知ってたんでしょ」ワタシの言葉に星井はビクリと肩を揺らした。動揺が目に見えて分かった。「何で知っていて、それでも、ワタシを『あの日』に送ろうとしたの?」


「言い逃れは」


「できればしないでほしい」


「……分かった」星井はそういうと、椅子を勧めてきた。ワタシは黙って椅子に座る。ワタシが怒っていると思っているのだろうか、星井は少し震えていた。「何から話そうか」


「多分、キミの話はきっと長くなると思う。だから、今ワタシが聞きたいのは一つだけ。『聡は何をさせたかったの?』」


「それは……」星井は少し言葉を詰まらせた。「……いや、もうハッキリと言ってしまおうか。もういい。話す。その前に篠崎」


「何?」


「また、遥と呼んでもいいか」


「いいよ」


「そうか、ありがとう」


 星井は……うん。

 『聡』は、ワタシの許諾に柔らかく微笑んだ。その笑顔にワタシは……。


「簡単に言ってしまえば、遥に踏ん切りをつけて欲しかった。私と同じように」星井は淀みなく話し始めた。


「踏ん切り?」


「そうだ。私も『あの日』に飛んで、そこで遥が体験したことと同じ事を体験した。そのときに今日のことを思いついた」


 そこで言葉が、躊躇われたように切れた。


「私は言いたかった言葉を結局言えなかった。なのに何故か晴れやかで、そして『これからのこと』を考えられるようになった。だから、もしかしたら遥も同じように感じるのではないかと思ったんだ」


「……聡は、ワタシに踏ん切りをつけさせてどうしたかったの?」


「そうだな……『これからの話』が出来ればと、そう思った」


「そっか」


 ワタシはそこまで聞いて、それだけ言って立ち上がった。聡はそんなワタシを、不思議二割、不安八割といった様子で見上げていた。少し、可愛いと思った。


「今日はそこまで聞いて満足するね」


 ワタシは持ってきていた鞄から一枚、カードを取り出した。コンタクト可能な連絡先を粗方書き込んだ、友人用の名刺。それを聡に差し出した。


「これにワタシの連絡先がほとんど載ってる。もし、ワタシを『この部屋に呼ぶ気になったら』コンタクトして」


「あ、あぁ……」聡は戸惑いがちにカードを受け取った。「えっと、いつでもいいんだな?」


「いいよ。会社には『アメリカに旅行に行くから』有休をくれって、そう言ってきたから、一週間くらい暇だし」


 それだけ言って、扉の方へ向かった。ワタシが過去にいる間に片づけたのだろうか? 床に散らばっていた聡のこれまでの論文たちは、どこかへ消えていた。まるで最初から無かったかのように。


「それじゃ、聡、今日はその……ありがとうね」


「あぁ。その何だ……急ですまなかったな。また、後でちゃんと説明をする。そうしてから、絶対に大事な話をしよう」


「うん。待ってるから。すぐそこの未来で」


 ワタシはそうして、聡の部屋を出た。すぐさま、目を赤光が覆った。




 あの日の様に綺麗な夕焼けが、あの時とは別の場所にいた。

このような拙作を読んでいただき、ありがとうございました。

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