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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
168/324

167話

 準決勝を前日に控えた本日。

 俺は今日も30球の投球と、フォークの練習を少しして、その後は、軽くランニングをして汗を掻いてから打撃練習に専念する。


 佐和ちゃんは、俺と入れ替わりでブルペンに入った亮輔と松見の様子を見ている。

 明日、明後日で準決勝と決勝が行われる。天気予報を見ても雨の予報はなく、二日連続の試合になることはほぼ確実だ。

 なので、どちらかで亮輔と松見を投入できたらと、佐和ちゃんは考えているのかもしれない。


 

 バッティングでは大輔がやはり一際目立っている。

 今大会はまだ1本しかホームランを打っていないが、打撃自体は好調だ。明日の試合もこいつに期待するしかない。


 だが大輔だけじゃない。チーム自体打撃は上向きだ。

 龍ヶ崎、恭平、中村っち、秀平、耕平君、そして俺。

 この調子なら、明日の試合も俺が崩れない限りは厳しい戦いにはならないだろう。


 この後、守備では重点的に俺のバント処理練習がおこなわれた。

 佐和ちゃん曰く、相手チームはどこかしらでセーフティバントを試みるだろうとのこと。

 だから入念に練習を行うこととなった。

 案の定、練習時には俺のトラウマは発生しない。もうあれから何ヶ月も経っているし、いい加減克服できただろうと思う。

 それでも不安なので納得するまでこなすのだった。



 夜、いつものように部員たちはひと部屋に集まり、テレビを使っての作戦会議が行われる。


 「理大付属は去年の秋に敗れた相手だ。二三年生はあの日の悔しさは忘れていないな?」

 そういって選手を見渡した佐和ちゃんは、最後に俺へと向けた。

 おっしゃるとおりだぜ佐和ちゃん。あの日の屈辱、悔しさは今でも忘れていない。


 「だからこそ明日は昨秋のリベンジだ。5点差以上つけて勝たないと、グラウンド百周させるからな」

 冗談交じりの声でえげつないことを口にする佐和ちゃん。

 おそらく冗談だとは思うが、佐和ちゃんだとマジでやりそうだから、俺たちは安易に笑うことができなかった。


 「さて、相手チームの分析と行こうか」

 そういって佐和ちゃんはテレビ画面に映っていた一時停止していた映像を再生する。


 「理大付属で一番警戒すべきはクリーンナップだろうな」

 佐和ちゃんがテレビを見ながら呟く。

 三番内藤、四番鳥越、五番土井。ここまで理大付属を牽引してきた打撃陣。


 「クリーンナップ三人の平均打率は4割1分。長打率が6割9分3厘。出塁率が4割9分1厘。OPSが1.184」

 打撃の指標において定番の指標を口にする佐和ちゃん。

 高い指標だな。さすがは選抜甲子園で1勝しているだけはある。


 「さらに連打率は内藤が2割5分。鳥越が5割。土井が6割6分6厘と、四番鳥越、五番土井が高く、内藤にヒットを打たれたら警戒するように」

 そこまで調べたのか佐和ちゃん。

 だが、誰ひとりとして油断してはいけないのは分かった。


 「ただし、三人は顕著な長所と短所が見える。攻めるならそこだろう」

 そういって映像を早送りして、内藤の打席の所で再生する。


 「まずは内藤。この打席が特に分かりやすい。内藤はストレートの対応力こそ高いものの、カーブはてんで駄目だ。見ろ、タイミングがかなりずれている」

 なるほど佐和ちゃんの言うとおり、佐々岡商業エース風早のカーブにタイミングがあっていない。

 いやでも風早ってカーブが武器って言われてるピッチャーじゃなかったか?


 「二球目のカーブも大きく空振り、これでツーストライク。三球目もカーブにするかと思いきや、相手バッテリーはストレートを選択した。完璧にタイミングが崩れたと思ったんだろう。だが…」

 三球目、先ほどまでずれたスイングをしていたとは思えないほどの鋭いスイングで、レフト前にボールを弾き返した。


 「このとおり、ストレートにはかなりの対応力がある。他の変化球も空振りしているが、カーブが特に苦手のようだ」

 「待て佐和ちゃん。俺、カーブ投げれないんですけど?」

 ここで俺が手をあげて佐和ちゃんに告げた。


 「だから代替品を考えておけ」

 いや考えとけじゃなくて、そこは監督らしいアドバイスしてくださいよ。

 ってか代替品とか、俺の投げれる緩急のあるボールはチェンジアップぐらいしかないんですが?

 文句ある視線を佐和ちゃんに向けるが、彼はそれを無視して、四番の鳥越へと話を変えた。


 「こいつは、これといって苦手なものはなさそうだ。さすがは四番。バッティングの主軸なだけあるか。しいてあげるなら、アウトコースのボールの見極めが甘いといった所か。多少ボールっぽいコースでも手を出してくる」

 なるほど、それなら外中心の配球が良さげという事か。


 「ただし、外一辺倒なリードでもダメだ。鳥越はアウトコースだけの打率だと7割を越してる。見極めが甘いからという安易な理由だけで、外中心のリードは厳しいだろうな」

 まるで俺の心を読んでいるかのように佐和ちゃんが言葉を継ぎ足した。

 なるほど、特に警戒すべきは四番の鳥越か。さすが守備度外視で起用されているだけはあるな。


 「最後に五番の土井。こいつはぱっと見た感じ、苦手な球はない。どの球種にも上手く合わせている。だが、低めのコースのボールが苦手なようだ」

 そういって映像は土井の打席へと変わる。

 この映像は確かに分かりやすい。高めに浮いたボールは打ちに来たが、低めはまったく打ちに行かない。結果フォアボールを選んだが、やはり高めが好きなようだ。


 「こいつは低めに集めれば良いと?」

 「英雄の言うとおりだ。だが、少しでも浮けば狙ってくる。コントロールはしっかりと意識して投げろよ」

 「りょーかい」

 という事で三人の説明が終わる。

 説明を聞いた感じ、分かりやすい欠点あるし、案外行けるかもしれんな。


 「あとは明日の英雄の状態だな。疲れもそろそろあるだろ?」

 「いや全然」

 俺の言葉に佐和ちゃんは訝しげに見てくる。

 ここまで二試合連続先発完投をしている俺だが、疲れは全くない。

 おそらく佐伯っちのマッサージのおかげだ。あれでだいぶ疲労が取れている。明日明後日と連投しても余裕だろう。


 「まぁ無理はするな。最悪亮輔と松見がお前の後ろに控えている。安心して投げろ」

 「うぃっす」

 佐和ちゃんの言葉に俺は短く頷いた。


 「それじゃあ、次はピッチャーの方だ」

 そういって佐和ちゃんは相手ピッチャーへと話題を変えた。


 「エースナンバーをつける松尾は、前の試合で1イニング投げた。最速はセンバツ甲子園で記録した137キロ。スライダーとカーブを投げ分ける。ピッチングスタイルとしてはストレート中心で低めにボールを集めるピッチング。今年の夏前に肉離れを起こして戦線を離脱していた」

 佐和ちゃんが一つずつ情報を口にしていく。

 見た感じ、凄みはあまりない。普通の高校レベルのピッチャーといった感じか。


 「それで今大会の主戦投手は二年生の吉岡。右のサイドハンド。最速は131キロだが、普段は120キロ前半ぐらいだろう。球速よりもコントロールを武器にしている」

 そういって映像はマウンドで投じる吉岡へと映像が切り替わる。


 「ピッチングスタイルはアウトコース一辺倒。アウトコースでの出し入れをしたピッチングだ。変化球はスライダーとシンカー。基本は外中心の配球だが、時折インコースにもストレートやシンカーを投げ込んでくるから頭の片隅は入れておけ」

 佐和ちゃんの説明を聞きながら映像を見る。

 確かにアウトコースばかりにボールを投げ込んでいる。

 それから彼の投じるスライダーは中々変化が大きいな。


 「攻略法としては、しっかりとボールを見極め、甘い球は確実に打つ。これに限る」

 まぁ妥当な作戦だな。


 「左バッターの耕平、英雄、秀平のみ積極的に振っていけ」

 右のサイドスローと左バッターの相性はいい。

 なので、俺たちは積極的に打っていいらしい。


 「それから狙えるならサードを狙え。サードは見た限り守備が下手だ。崩すならサードが一番だろう。ただしアウトコースへのボールをばかり投げてくる。無理して引っ張らないといけないなら、無理しなくて構わない。無理してサードを狙うのもアホらしいからな」

 そう佐和ちゃんは言って、今回の作戦会議を終えた。

 明日は準決勝、明後日は決勝線。

 もう県大会も大詰めか。


 さて、俺は明日に備えてちゃちゃっと寝るか!

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