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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
6章 怪腕夏に唸る
142/324

141話

 バスに乗り、7時24分には丘城スタジアムに到着。

 まだ城東は来ていないようだ。俺達は三塁側のダグアウト近くに自分達のバッグを置いて、アップを始める。


 まぁグラウンドではないので、大きな声を出せないが、軽くまとまってランニングして、いつも通りの塁間のアップをし終えたら、ストレッチをする。キャッチボールはしない。

 肩、肘、腕のストレッチを終えたら、首から足首まで、様々なストレッチをし終える頃、我が校の応援団が到着する。


 ちょうどアップも終わったので、話しに行く。

 っと言うよりも、哲也が今、オーダー表の交換と先攻後攻を決めに行っているので、結果が気になって、ストレッチどころではないのだ。


 「おぅ英雄! 今日は投げんのか?」

 「さぁな。佐和ちゃんの話しだと、僅差の試合になったら登板予定だってさ」

 応援団長を務める友人が話しかけてくる。大柄な体格のせいか、応援団長の姿が様になっている。

 我が校はブレザーなのだが、こいつの姿は学ラン…。


 「お前、どこから学ラン盗んできたんだよ!」

 「盗んでねぇよ! 特注だ特注!」

 素晴らしいタイミングと、ナイスなツッコミを入れる。こういうツッコミ技術を哲也に教えたいくらいだ。


 「特注って、高いんだろう?」

 「いいや。俺らの県って、学生服生産日本一だろ?」

 「初めて聞いた」

 いや初耳でございます。なんで知ってるだろみたいな言い方なんだお前? ってかやめろ、その俺知ってるぜみたいなしたり顔やめろ。目を潰すぞこの野郎。


 「そうかぁ。まぁそんで、俺の親戚が酒敷市で学生服専門店の店長やっててな、そこから安く作ってもらったんだよ」

 「ほぉ~」

 まぁなんにしても、盗んでないようだし良いか。

 応援団が不祥事なんか起こしたら、面倒くさそうだもんなぁ。



 「野球部集合!」

 ここで哲也の集合の合図。

 俺達は哲也を囲むようにして、哲也の周りに集まった。


 「えっと、まず最初に、先攻を見事取りました!」

 嬉しそうな顔で哲也が言う。

 先攻なら先取点取って、相手の出鼻をくじけるからな。


 「先攻だろうと後攻だろうと構わん。それよりオーダーは?」

 中村っちがせかすように、哲也に聞いた。


 「あぁ! それじゃ、今日のオーダーを発表するね。一番ショート恭平」

 「あーらいやあああああああ!!!!」

 急に恭平が叫んだ。なんだこの雄たけびは。

 よっぽど目立ちたいようだな。だが残念。千春は今日の試合だけ用があるから来れないんだ。


 「恭平、返事は?」

 「…はい」

 哲也の諭すような口調に、恭平はしゅんっと俯きがちにボソッと返事をする。

 なんだこの流れは、思わず笑ってしまった。俺以外にも数名笑っている。


 「…それじゃ二番。センター耕平君」

 「はい!」

 どこかの馬鹿と違って、耕平君はしっかりと返事をする。


 「三番ライト龍ヶ崎」

 「おぅ!」

 龍ヶ崎もやる気満々と言った表情で、いつもより少し大きな声で返事をする。


 「んで四番はレフト大輔」

 「うっす」

 どこか不満げな表情をしながらも返事をする大輔。お前、まだ四番に不満あるのかよ。

 大輔曰く「あまり目立つ打順に入りたくない。ってか出来れば九番が良い」そうだ。マジで何ほざいてんだと思う。パカスカホームラン打つ九番って、もう恐怖の九番ってレベルじゃねぇよ。


 「五番ファースト秀平」

 「は、はい!」

 秀平は緊張しながらも、しっかりと返事をする。

 中村っちを差し置いての五番だぞ! 頑張れよ!


 「六番サード修一」

 「おぅ!」

 中村っちは、いつも通りの六番打者。

 まぁ一発あるけど、三振も多いからクリーンナップは任せられないわな。


 「七番ピッチャー亮輔」

 「はい!」

 亮輔の目が活き活きとしている。

 去年の夏打ち込まれた因縁の相手だからな。借りを返したいのだろう。

 はたして、どんなピッチングをするのだろうか?


 「八番は僕で、九番はセカンド石村君」

 「はい!」

 石村君は少し声が上ずっていた。

 やっぱり緊張しているようだ。


 さて、俺は控えスタート。控えスタートだ。

 大事な事だから二回言った。分かってはいたことだが、スタメン落ちはやはり気分が悪い。

 これならファーストでも外野でも良いからスタメンになりたかった。

 うーん、しかし佐和ちゃんの命令だ。悔しい。悔しいが…くそう、やっぱり悔しい!


 「おぅオーダー発表終わったか?」

 オーダー発表も終わった所で、ユニフォーム姿の佐和ちゃんと、いつも通りの佐伯っちがやってくる。


 「はい」

 哲也が返事をする。


 「そうかぁ、んじゃ一発気合入れに、声だしやるかぁ?」

 「スタメンから外された俺は断固拒否する」

 佐和ちゃんにささやかな反抗心を見せる俺。


 「英雄が拒否するから、決定!」

 嬉しそうに笑う佐和ちゃん。この人、サディスティックすぎだろう。

 ってか、周りには応援団がいる。こんな人前で声出しとか、マジで恥ずかしいんですけど?


 「声出しリーダーは英雄だ。これは命令だからな?」

 「嫌です。いつまでも監督の言うことを聞くと思わないでください。下克上しますからね」

 「そんな事言ってると、一生スタメンで使ってやらねーからな」

 にやりと笑う佐和ちゃん。

 やっぱりこの人Sっ気あるんじゃないか? 人をいたぶって楽しいか? クソが。


 「っち! くそっ! やりゃあ良いんだろ!」

 舌打ちをしながら、諦める俺。そらスタメンで使わないと言われたらやるしかない。

 声出しリーダーは、あまり声を出さなくても、周りに声を出せと言えるので、楽だ。

 しかしその反面、一人で叫ぶ場面や、声出しを止める合図もしないといけないので、面倒でもある。


 ちなみに声出しとは、円陣を組んで、肩組んで、前屈みになり、「しゃああああ」とか「うらああああ」とか、とにかく地面に大声を叫ぶって奴だ。

 大声を出すことで、緊張による体の強張りをなくし、リラックスしようって言う狙い。

 ちなみに前に一度、練習試合で恭平の馬鹿が「ヤリてえええええ」と叫んだせいで、ほとんどの奴が笑って駄目になったと言う事件もある。その時は恭平が、佐和ちゃんにコッテリと締められている。



 俺らは、人前…ってか、我が校の生徒達が見ている中で、円陣を組み、肩を組んで前屈みになった。


 「良いか? 俺が右手を振ったら、叫ぶのを止めろよ。止めなかったら覚悟しとけよ」

 俺は肩を組みながら、仲間を見渡して説明する。


 「任せろ!」

 満面の笑みで言う恭平。てめぇが一番危ねぇんだよ!


 「…んじゃ行きますよぉ」

 って事で、一人演説の部分を言わないとねぇ…。



 「しゃあ! 今日も勝ってこぉー!」

 「オゥ!!」

 俺の掛け声に乗るアホな19名。


 「んじゃ…元気に声出してくぞ!! せぇーのぉ!!」

 俺の声と共に、叫び出す一同。地面に反響しているのか、思いのほかうるさい。


 「オラオラ哲也! 声が出てないぞぉ! キャッチャーがそれで良いのかぁ!」

 みんなが声出すなかで、小さい奴らの声を聞き当て、鼓舞する俺。


 「龍ヶ崎ぃ! そんな声で試合で聞こえると思ってんのかぁ!! お見合い願望でもあるんかぁ!」

 「うっせぇ!」

 俺の声に反論する龍ヶ崎。なんで「うっせぇ!」って言った声のほうが大きいんだお前?


 およそ十数秒後、俺は右手を円陣の真ん中で振って、声出しを止める。

 ピタッと止まる辺り、俺らの連携というか絆というか、そういうのはしっかりしているなって思う。


 「絶対勝つぞぉ!」

 「おぅ!!!!!」

 俺の声に返事をする一同。

 自然と応援団から拍手が起きた。息切れする部員たちはその声援に表情を崩した。


 これで、試合の準備は整った。

 あとは勝つだけだ!

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