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怪物は一日にして成らず  作者: ランナー
5章 春眠、怪物は目覚める
117/324

116話

 翌日、春の中国地方大会が始まった。

 開幕ゲームは我が校と如来館の一戦。

 試合は現在四回の表、如来館高校の攻撃。


 「亮輔! 落ち着けよ!」

 ツーアウト一三塁のピンチの中、ファーストを守る俺が亮輔に一声かけた。

 現在我が校は1点のビハインド。1対0で如来館高校がリードしている。

 いくら広島県四位の学校といえど、さすが地方大会に出場するだけの力はある。


 ピンチの場面だが、亮輔は強気にボールを投じていく。

 小さく変化するボール、大きく変化するボール、横に、下に、斜めに変化するボールと、多種多様な変化球を駆使して、相手バッターに的を絞らせない。

 そうして最後はセカンド正面のゴロ。これを石村が捌いてファーストに転送。俺がキャッチしてスリーアウトだ。


 さて、この回はピンチになってしまったが、今日の亮輔のピッチングは安定している。

 確かに初回に先制点を取られたが、それでも毎回のようにランナーを背負うことはないし、変化球もキレがあって相手バッターも打ちづらそうにしている。

 なんとか亮輔のピッチングに応えてやりたいところだが…。


 亮輔と入れ替わる形でマウンドに上がるピッチャーを一瞥する。

 右投げのスリークォーター。広島県下屈指の好投手と評判の狩野(かのう)君だ。

 準決勝では選抜帰りの承徳に競り負けたが、低めに決まる最速138キロの速球は、プロのスカウトからも将来有望と評価されている。

 今日はこのピッチャーにとことん抑え込まれている。

 初回に恭平と耕平君が三振に取られてしまい、そこから試合の主導権を相手に持って行かれた。

 二回には大輔がサードライナーで終わるなど、序盤三回は無得点で終わっている。


 「さぁ四回だ。ここで点を入れなきゃ、優勝なんかできないぞ!」

 「はい!」

 佐和ちゃんの鼓舞に選手たちが力強く返事をする。

 確かに広島四位で苦戦していたら、それこそ優勝は難しいだろう。


 この回の先頭は二番の耕平君。

 前の打席では空振り三振したからか、先ほどの佐和ちゃんの鼓舞が効いたからなのか、普段以上に真剣な面持ちで打席へと入った。


 狩野は低めへのストレートが目立つが、その他の変化球はまだまだ。

 十分攻略できるピッチャーだ。


 初球、二球目とボールが続いてからの三球目。

 低めへのストレートを耕平君が打ち抜いた。

 快音が鳴り響き、打球は右中間を切り裂いた。思わずベンチから歓声が上がる中、耕平君は二塁まで進む。

 序盤三回抑え込まれていたのに、いきなりの得点圏のチャンス。そしてバッターは三番の龍ヶ崎。


 同点打はあっという間に決まった。

 初球、甘く入った変化球を龍ヶ崎がバットの真芯で捉えた。

 打球はレフトの頭上を越える長打コース。

 ベンチからの大歓声の中、耕平君がホームベースを踏み、龍ヶ崎も二塁まで陥れた。

 あっという間の同点劇。今まで勢いも流れも相手に掴まれていたが、こっちにも勢いが出始めたな。


 この場面で迎えるのは四番大輔。否応なしに期待してしまう。

 勝負は初球で決まった。まるで相手に息つく間を与えないかのように、大輔が豪快な一撃を決めた。

 爆音が鳴り響き、打球はセンター方向へと飛んでいく。打った瞬間から分かる当たりに自然とベンチからは歓声が沸き、スタンドからは驚嘆の声がどよめいた。

 センターにある電光掲示板に打球をぶち当たった。


 あっという間の勝ち越し。

 大輔の一発にスタンドからも拍手が起きた。

 一試合やる事に、どんどんと大輔の評判が広まっている気がする。大輔に負けないよう、俺も頑張っていかねばな。



 試合はその後、我が校優勢に転じた。

 五回にはツーアウトからの恭平、耕平君、龍ヶ崎、大輔の四連打で3点をあげ、リードを広げると、打ってくれた打線に応えるように亮輔が力投。

 八回に2失点こそしたが、なんとか踏ん張り、後続を抑えて、マウンドを降りた。


 「九回から松見で行く。セカンドは石村から誉に交代。永島はブルペンにいる松見に声をかけてこい」

 「はい!」

 それぞれに指示を出していく佐和ちゃん。

 どうやら今日の試合は俺の登板は無さそうだ。


 「亮輔お疲れ」

 俺は亮輔にタオルを手渡した。


 「ありがとうございます!」

 「あとは松見に任せといて、ゆっくりベンチで休んでろ」

 「はい!」

 最悪松見が打たれても、俺が投げれば行けるだろう。

 今日の試合を見てて、この打線なら余裕で抑えられると思ったし、急遽登板でもなんとかなるだろう。



 そうして最終回、マウンドに上がった松見は、早速挨拶がわりのフォアボールでランナーを出塁させると、続くバッターはデッドボール。二者連続の四死球でいきなりノーアウト一二塁。

 相変わらずコントロールがクソ悪いな。だが、松見は落ち着いている。


 続くバッターへの初球、ストライクと入れようとしたのか、甘いボールがストライクゾーンに入った。

 案の定、それを打ち抜かれた。

 打球は二遊間への強烈なゴロ。

 外野に抜けてもおかしく打球だったが、この回からセカンドに入った誉が打球へと飛び込みキャッチすると、地面に倒れた状態のまま、すぐそばに走ってきた恭平へとボールをクラブトス。これを恭平がキャッチし、二塁を踏んで一塁へスローイング。そのボールをファースト俺がキャッチしツーアウト。

 スタンドがどよめいた。レベルの高い守備を高校野球の、しかも一地方大会の初戦で見られるとは思っていなかったからだろう。

 恭平が誉に手を差し出し、それを掴んで立ち上がる誉。両者とも笑顔を浮かべて、手にはめたグラブでハイタッチした。


 これでツーアウト。とはいえ二塁ランナーはゲッツーの間に三塁に進んでおり、ツーアウト三塁だ。

 バッターは三番。これは打たれるなと思ったら、案の定打たれた。打球は三遊間を抜けてレフト前へと転がっていくヒット。

 これで三塁ランナーがホームインして6対4。


 「オーケー! 守りやすくなった!」

 松見を擁護するように恭平がハイテイションな声で発言する。


 「松見! 気負わず行こうぜ! 同点になったら英雄がいる!」

 誉からの松見へとエールを送る。

 こんな頼りになる先輩が後ろで守っているんだ。松見も思い切ってボールを投げれば良い。


 二人の声援が効いたのか、はたまた失点して何かが吹っ切れたのか、続く四番バッターには強気なピッチングをしてみせて、最後はカウントスリーボールツーストライクから、低めへのストレートをストライクゾーンに決めて見逃し三振に奪い、ゲームセット。


 最終回でちょっと危なさはあったが、6対4で勝利。準決勝へコマを進めた。



 試合終了後の反省会。

 初戦突破はしたが、ゲームの内容に不満が残る佐和ちゃんは、満足そうな顔はしていない。


 「早速だが、今日の試合はナイスゲームとは言えない。大輔の3打点を引くと、3対4でゲーム自体負けていた。これはもう…罰ゲーム確定だな」

 ここで、嬉しそうにニヤリと笑う佐和ちゃん。

 その不気味な笑みに、一同は寒気を感じた。正直佐和ちゃんの考える罰ゲームは、マジで罰って感じだからな。嫌だなぁ…。


 「さて反省点だが、まずピッチング。亮輔は慎重になりすぎて、球数が増えた。その上フォアボールも5つと多すぎる。打たれた球はどれも、スリーボールワンストライクや、フルカウントからの球だ」

 確かに今日の亮輔のピッチングは、ボール球が多くてテンポが悪かったな。

 これで普段のように毎回ランナーを置くようなものだったら、今でも試合をしていただろう。


 「哲也の考えは、変化球を多めに投げて、相手を翻弄しようとしていたらしいが、ボール先行になれば、相手も次第に球種に予測が付けられるようになる。時にはストレートなどで攻めろ。ストレートあってこその変化球だ」

 「はい!」「はい!!」

 佐和ちゃんの苦言とアドバイスに、哲也と亮輔が同時に返事を返した。


 「続いて松見の方だが、逆に松見は積極的過ぎだ。打たれても良いから、まずはコントロールを重視して投げろ。球速なんてのは、制球力が身に付けば次第に上がっていく。思いっきり投げるだけが速い球を投げる秘訣じゃないぞ」

 「はい!」

 松見へのアドバイスを忘れない佐和ちゃん。

 一人三振に打ち取ってテンションの高かった松見は笑顔で返事をした。



 「続いて打線だが、フライが多い。あれだけ叩きつけろと言ってるのにな。良いか。叩きつければ、ゴロばっかになると思ってるが、力強く叩きつければ、強烈なライナーにもなる。クリーンナップは、フライでもしょうがないとしても、出来るだけ転がすイメージで打て」

 「はい!!」

 今度は一同が返事を返した。


 「守備は無失策だが、三回の三番へのショートへの内野安打に関してだが、恭平、お前はもう少し速く投げろ」

 「俺のスーパーダイナミックストロンガーボールをけなすつもりか!」

 監督に向かってなんて口の利き方だ恭平。

 ってか、なんだそのクソみたいなネーミングセンスは。

 恭平の意味不明な発言に、一同首を傾げている。


 「そんな事を考えてるから、初動が遅くなるんだ。今日の相手は優しかったぞ。えげつないチームなんか、あんなプレーしてたら、あの後もお前を狙うからな」

 そう冗談交じりに話す佐和ちゃんだが、確かにその通りだ。

 野球名門校なんて言われてる所は、相手の穴を突く打撃が出来たりしちゃう。例えばセカンドがミスすれば、そのミスしたセカンドが狙われる。

 だからこそ、ミスは最小限に少なくしないといけない。


 「えっ狙われる!? いや、いくら俺でも、さすがに男には興味ないから。でも、まぁ、男でも俺の事が好きってのは嬉しいが…」

 恭平、お前はどこをどう聞き間違えれば、そんな回答が出るんだ?

 そもそも話の流れ的に、そういう発想にはならないだろう。

 ってか照れるな。


 恭平の馬鹿っぷりに、佐和ちゃんは呆れたようにため息を吐いて頭を抱えている。


 「まぁ何にしても、次の相手からは、英雄で行く。明日はこんな反省会をしないようにするぞ」

 「はい!」

 これで反省会は終了。

 俺達はスタンドに向かい、第二試合の観戦へと向かう。

 第二試合の勝者は、明日の対戦相手になる。

 広島覇者の承徳と、鳥取覇者の西条学園の試合だ。

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