第24話「電子レンジが残り3秒になると分かる男、再び」
「来る」
三浦が立ち上がった。
西野はもう箸を止めなかった。
「はいはい、三秒ですね」
三、二、一。
ピーピーピー。
給湯室に終了音が響く。
三浦はレンジを開けた。
「お前、最近反応が雑じゃない?」
「半年も見てたら慣れますよ」
「特殊能力だぞ」
「電子レンジ限定の」
三浦は冷凍チャーハンを持って席へ戻った。
あれから半年。
職場では、三浦の能力は完全に知られていた。
最初こそ面白がられたが、人間は何にでも慣れる。
今では誰も驚かない。
むしろ給湯室でレンジを使っていると、たまに声が飛んでくる。
「三浦さん、あと何秒?」
「三秒になるまで分かりません」
「使えないなあ」
「最初からそう言ってるだろ」
ある日の午後、部署のメンバーが集められた。
部長が言う。
「来月、フロアの改装をする。給湯室も新しくなる」
西野が三浦を見る。
三浦も西野を見る。
「何だよ」
「いや。レンジも変わるのかなって」
「変わっても分かる」
「自信あります?」
「機種は関係ない」
なぜか少し誇らしかった。
改装の日。
新しい電子レンジが設置された。
黒いボディ。液晶も大きい。加熱時間が秒単位ではっきり見える。
西野が腕を組む。
「これ、先輩の能力いらなくないですか」
「前のだって表示はあった」
「壊れてただけですもんね」
三浦は聞かなかったことにした。
試運転で弁当を入れる。
二分。
表示が減っていく。
00:10。
00:09。
00:08。
誰でも見える。
00:04。
00:03。
胸の奥がざわつく。
「来た」
西野が言う。
「画面に出てますよ」
「分かってる」
00:02。
00:01。
ピーピーピー。
「完璧ですね」
「何が」
「機械と同じです」
「人間に対する褒め方じゃないだろ」
その夜、部署の歓迎会があった。
一次会が終わり、数人でコンビニへ寄る。
店内のレンジでは、店員が誰かの弁当を温めている。
三浦の胸がざわついた。
「来る」
西野が横で笑う。
「仕事以外でも発動するんですね」
三、二、一。
終了音。
そのとき、少し離れた棚の前にいた女性が振り返った。
「今、三秒前って分かったんですか?」
三浦が固まる。
知らない人だった。
「え、まあ」
「すごい」
女性は素直に笑った。
三浦は返事に困った。
西野が隣でにやにやしている。
店を出てから、三浦は言った。
「何笑ってんだ」
「いや。半年ぶりに先輩の能力にちゃんと驚く人見たなって」
「普通は驚くんだよ」
「連絡先聞けばよかったのに」
三浦は言った。
「なんでだよ」
「能力、初めて人生に役立ったかもしれないのに」
三浦は振り返った。
コンビニの自動ドアが閉まる。
少し考える。
「……戻るのは変だろ」
「じゃあ終わりですね」
「言い方」
二人で駅へ向かう。
途中のスーパーの入口で、電子レンジの終了音が聞こえた。
三浦は眉を寄せる。
「今の、三秒前分からなかった」
「そりゃ使ってるの見てないからじゃないですか?」
「いや、近くでも毎回分かるわけじゃない。でも胸がざわついたら、三秒で間違いない」
「設定、細かくないですか」
「俺に言うな」
西野が笑った。
三浦も少しだけ笑った。
世界は今日も、三浦の能力がなくても何の問題もなく回っている。
それでも明日の昼になれば、きっとまた胸の奥がざわつく。
三秒前に。




