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Dear.1102〜咎人と赦しの聖女〜  作者: 座良 あかね


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第四章BAD GIRL〜クリスマス特別編IV〜

この作品はフィクションです。

作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。

This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.

アリアたちが楽しそうに『Sir Roger de Coverleyサー・ロジャー・デ・カバリー』を踊っている、その頃――。


修道院長室では、マザー・ドリスとヘイズ刑事軍曹という奇妙な組み合わせの二人が対峙していた。


「ところで、マザー・ドリスはクリスマスもお仕事なのですね⋯。」


「ああいう華やかな場所が苦手なだけですので、お気になさらず。……それで、御用というのは?」


単刀直入に訊ねられ、ヘイズ刑事軍曹の肩がピクリと跳ね上がった。


「あー⋯その、用といいますか。前回、嬢ちゃ⋯いえ、シスター・アリアの身柄を預かっていたにもかかわらず、連絡が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。」


彼は椅子から立ち上がり、深く頭を下げたーー。


「やめてください。誰にでもミスはあるものです。⋯それに、貴方のせいではないのでしょう?」


図星だった。

だが、言葉にしていない事実を⋯なぜ彼女が知っているのか。

ヘイズ刑事軍曹は隠しきれない困惑を瞳に浮かべ、純粋な疑問を投げかけた。


「⋯どうして、そう思われるのですか」


すると、マザーは「ふぅ」と短く息を吐いた。


「あのパトリシアの側に居続けられる人のことです。大体の性格や考え方なんて察しがつきます。⋯私も、"同じ側"ですから」


「あー、ハハ⋯そうでしたね。」


破天荒な彼女に振り回される者同士の妙な連帯感を感じ、ヘイズ刑事軍曹は院長に親近感を覚えて表情を緩ませた。


「それと、これを⋯」


ヘイズ刑事軍曹は、手に提げていた三つの手提げ袋をテーブルの上に置いた。


「お口に合うか分かりませんが⋯お菓子持ってきました。よかったらどうぞ⋯。で、⋯これはシスター・アリアと、あの少年に渡してください。」


まるでサンタクロースのように贈り物の中身を説明していると――背後から聞き慣れた、いや、なるべくならば出逢いたくなかった人物の声が響いたーー。


「なんだ、お前ここに居たのか」


「げっ……!」


振り返ると、そこには上司が立っていた。パーティー用なのか、普段は見せない女性らしいラインを大胆に強調した赤のドレスを纏っている。だが、そんなことよりも、ヘイズ刑事軍曹は明らさまに面倒臭そうに顔を顰めて見せたーー。


「丁度いい、私と一曲付き合え」


「なっ! ……嫌っすよ、俺、この後予定が……っ!」


逃げようとする部下の首元を、獲物を捕らえた猛獣のような、あるいは無邪気な子供のようなキラキラとした目でがっちりとホールドする。そしてパトリシアは、友人にと用意した手提げ袋をさっと彼女に手渡した。


「ドリス、これは君のだ。目利きの私が選んだんだ。⋯きっと似合うぞ。」


言いたいことだけ言い残すと、彼女は部下を引きずりながら、嵐のように騒がしく院長室を後にしたーー。


「⋯⋯。」


パトリシアから渡された手提げ袋の中身は、星空を布に閉じ込めたような紺青色のドレスと、銀色のストラップパンプスだった。


「⋯⋯。」


静まり返った院長室。ドリスはドレスを手に取り、姿見の前でそっと自分の体に当ててみる。鏡に映る無愛想な自分の顔にはあまりに不釣り合いで⋯思わず、プッと吹き出した。


「⋯どこが"似合う"よ、全く⋯」


その時。閉め切っているはずの窓から不自然な風がぴゅーっと吹き抜けた。ドリスは深く溜息をつく。


「今度は、貴方ですか⋯」


視線を向けた先には、いかにも怪しげな手品師のような男が一人。

手をヒラヒラ振って佇んでいた。


「やぁ、ドリス。メリークリスマス!」


「何の用かしら、ヨーゼフ。」


「え〜、つれないなぁ。用がなきゃ会いに来ちゃダメなのかい?」


「そもそも、用がある時にしか現れないのは貴方の方でしょう。」


「あはは、それもそっか。」


すると、ヨーゼフは珍しいものでも見を見るように、ドリスが手にしたドレスと靴を眺めた。


「着ないのかい?」


「こんな綺麗なドレス、私に似合うわけがないでしょう」


「ん〜、そうかなぁ」


ヨーゼフは軽快な足取りで、ドリスの元へと歩み寄るーー。


「!」


「じゃあさ、試してみようよ」


「⋯結構です」


「今から目隠しをするけど、僕がいいよって言うまで外さないでね〜」


「⋯何をするつもりですか」


「いいから、ほら⋯」


「ちょ⋯」


「ほら、まーだだよ〜」


「⋯⋯」


何だかんだ言いながらも従ってしまう彼女の生真面目さに、ヨーゼフはクスリと口元を綻ばせると、パチンと大きく指を鳴らした。


「⋯はい、どうぞ! 目を開けてみて!」


促されるまま、ドリスはゆっくりと瞼を持ち上げたーー。


「ね、どう? これが君本来の美しさだよ?」


姿見の中に映っていたのは、先ほど手に持っていた紺青のドレスと銀の靴を完璧に纏い、髪もメイクも華やかに施された自分自身の姿だったーー。


「⋯見えてる」


だが、彼女が真っ先に漏らした驚きは、その変貌ぶりに対してではなかった。眼鏡を外しているはずなのに、視界が驚くほど良好であること――。

あまりに期待外れなその第一声に、ヨーゼフは大袈裟にガクッと肩を落としてみせた。


「え〜⋯、そこぉ?」


「⋯何のつもりですか」


いつもの威厳を取り戻し、刺すような眼光をヨーゼフに向ける。


「ん〜、何って。だって考えてもみなよ? 綺麗な宝石がさ、『私は岩石です!』なんて意地を張ってそこら辺に転がっていたら⋯綺麗に磨いて、『違うんだよ、君の居場所はこっち』って、立派なショーケースに飾りたくなるじゃない?」


「また、そんな意味の分からないことを⋯」


刹那、聖堂から流れる旋律がマザーの言葉を遮ったーー。


「"The Way You Look Tonight"かぁ、いい曲だね!」


ヨーゼフはドレスを纏った彼女の前で、恭しくひざまずいた。


「僕と一曲、踊っていただけますか? 綺麗なお嬢さん」


「⋯⋯。」


手を取らない限り、この男の遊びは終わらない。ドリスは観念したように、渋々その誘いに乗ることにしたーー。


「わぉ。君がこれほど踊れるとは思わなかったよ。格好良くリードしてみせようと思ってたのに⋯」


ダンスのステップの中、ドリスの顔がヨーゼフの肩に近づいた瞬間。彼女にしては珍しく、揶揄からかうように彼の耳元へ唇を寄せ、そっと囁いた。


「あら、十分お上手よ?」


普段、感情をあまり表に出さない男の耳が、わずかに赤く染まる。ドリスは日頃の仕返しと言わんばかりに、悪戯っぽく微笑んでみせた。


そして、曲の終盤――。


「来年、『七つの美徳』が揃う。ここからは未知のシナリオだ。君の知識でも、僕の経験でも、もう予測はできない⋯」


抱きしめるように彼女の体を引き寄せ、耳元でそう告げると――彼はいつものように、風と共にどこかへ消えてしまった。


「⋯本当、ずるい人」


独り残されたドリスは、肌に残る淡い余韻に浸るように、窓の外に広がる星空をじっと見つめ⋯そっと目を閉じた。


+++++++++++++++++++++++

※登場人物紹介※

本作に登場する人物の簡単な紹介です。

本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。


アリア・ゴールデンベリル

サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。


レヴィ・ラルド

サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。


アレクサンダー・オブシディアン

サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた(ポゼスト)悪霊(フィーンド)の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。


パトリシア・オブシディアン

CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。


ドリス・ブラウン

サザーク聖十字架修道院の修道院長(マザー・アベス)。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。


ウィリアムズ・ヘイズ

CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。


ヨーゼフ

マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。

アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を操り武器や道具を提供する。

その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。

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