第四章BAD GIRL〜クリスマス特別編Ⅲ〜
※登場人物紹介※
本作に登場する人物の簡単な紹介です。
本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
アリア・ゴールデンベリル
サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。
レヴィ・ラルド
サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。
アレクサンダー・オブシディアン
サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた人や悪霊の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。
パトリシア・オブシディアン
CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。
ドリス・ブラウン
サザーク聖十字架修道院の修道院長。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。
ウィリアムズ・ヘイズ
CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。
ヨーゼフ
マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。
アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を操り武器や道具を提供する。
その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。
「おー、よかったなぁ、ルーシー。愛しのハムレット様に褒めてもらえて〜。」
アリアたちには聞こえない絶妙な声量で、カイルはルーシーの背後からニヤニヤと茶化すように言葉を投げかけた。
「……ふふ」
ーー刹那。
普段の彼女からは想像もつかないほど、静かで、かつ正確な肘打ちがカイルの脇腹に見事に直撃した。
「ぅぐっ、……」
冷ややかな微笑を浮かべ、「あら、忘れてた?」ーーそう言いたげな鋭い視線を、ルーシーは悶絶するカイルへと向ける。
その姿は、普段大人しい彼女からは想像もつかないほど凛とした佇まいでーー、自分もまたアリアやカイルと同じくあの修練長から戦う術を教わった"第一期生"なのだと、彼女は言葉を介さずにそう語ってみせた。
久しぶりに見る、彼女の鮮やかな身のこなしにアリアとレヴィも思わず息を呑んでいると、ルーシーはさらに畳み掛けるように、カイルに言葉を投げかけた。
「それより、カイル。あなた、アリアに何か言うことがあったんじゃないの?」
カイルが自分にした時とは違って、わざとアリアたちに聞こえるような声量で言葉を放ったルーシー。そして、ルーシーはカイルにだけ見えるようにニヤリと意地悪な笑みを浮かべてみせた。
「この…っ」
「余計なことを〜」と言いたげなカイルの顔を見るやいなや、ルーシーは彼の背後にくるりと回り込んだ。そして、アリアの元へ近づけるように「よいしょぉ!」と彼の背中を力強く押し出す。
「おい、やめろっ、て……わっ!」
背後から聞こえた可愛い掛け声とは裏腹に、意外にもルーシーの力が強かったことに驚いたカイルは、完全にバランスを崩して前へと倒れこんだーー。
ーー直後、顔面に食らうであろう冷たい床を覚悟したカイル。
だが、予想に反して顔を埋めたのは非常に柔らかく、人肌のように温かいーーそして、ほのかに甘い薔薇の香りさえする、そんな場所だった。
陶芸品の曲線を描くような美しいラインをぎこちなく手でなぞるように辿り、恐る恐る顔を上げるとーー、そこには女神とは似ても似つかぬ鬼のような形相を浮かべたアリアが、眉をピクつかせながら、こちらを汚物を見るような目で見下ろしていた。
「……わ、わざとじゃねぇよ!こ、コイツが押すから!」
自分が何に顔を埋めていたのかを理解したカイルが、顔を真っ赤にして、慌てた様子でアリアの体からパッと離れると、彼はルーシーを指さして声を大に言い訳してみせた。
ーーそう、間違ってはない。……間違ってはないのだが、そのカイルの子供っぽい言動に、背中を押したルーシーは「あちゃー」と頭を抱え、さっきまで殺気立っていたレヴィは何も言えず呆れ返ってしまっていたーー。
「ふーん。言い訳は結構よ。……で?私に何の話があるのよ?」
完全にアリアの逆鱗に触れたカイル。彼女のあまりにも不機嫌な様子に「こんなはずじゃ……」と一瞬たじろぎながらも、それでもーー、彼は男を見せようとぐっと拳を握りしめ、そして、勇気を振り絞って声を張り上げた。
「ーーっ、"Fine feathers make fine birds."だ!アリア!」
ーー沈黙。
談笑を邪魔しない音量で奏でられたオーケストラの調べの中で、彼らのいる空間だけが、まるで時が止まったように凍りついた。
期待していた反応とは違ったのか、困惑したカイルがキョロキョロと皆の様子を窺っていると、ーー沈黙を破るようにして、アリアが静かに口火を切った。
「……………はあ?」
ーFine feathers make fine birds.
カイルの言ったそれは、"立派な羽毛は立派な鳥をつくる(馬子にも衣装)"という意味で、イギリスでも日常的に使われる痛烈な皮肉の言葉だ。
だが、カイルの様子を見るに、皮肉を言っているつもりはなかったのだろう。けれども、彼の普段の行いが、アリアの中で善意に解釈する余地を残さなかった。言葉の意味を大いに履き違えたおバカさんは、レヴィの時とはまた違った意味で、アリアの神経を逆撫ですることになったーー。
「……何、アンタ喧嘩売ってんの?」
「はあ?!な、何でそうなるんだよ!俺はただ、綺麗だって褒めただけだ!」
「"Fine feathers make fine birds."のどこが褒め言葉なのよ!それともなに?皮肉も分からない馬鹿だと思った?ふざけんじゃないわよ!」
ギャーギャーと揉め出す二人。
「ま、待って!アリア……カイルは……」
二人が揉め出した原因が自分にあると自責の念に駆られたルーシーが、仲裁に入ろうとした、その時ーー。
「ポン」と、ルーシーの肩に優しく手が置かれた。振り向くと、いつの間にか隣に立っていたレヴィが、静かに微笑んで首を横に振ってみせた。
「"大丈夫"だよ。」
その言葉にどれほどの意味が含まれているのか、ルーシーには分からなかった。けれども、彼の言葉通り、しばらくしてオーケストラによる軽快なダンス演奏が始まると、二人はピタッと言い争うのを止めて、流れる旋律に耳を傾けるーー。すると、今度はさっきまで言い争っていたのが嘘のようにワイワイと楽しそうに話し始めている。
"Sir Roger de Coverley"
その音楽は、ルーシーにとっても深く馴染みのあるものだった。
これは17世紀から続く伝統的なイギリスのカントリーダンスで、1930年代の今でも学校や社交イベントで幅広く親しまれ、長蛇の列になって踊るグループダンスとして有名だ。
ここ、サザーク聖十字架修道院のクリスマスには欠かせない大定番。
イントロが流れるだけで、その場にいる誰もが心を弾ませるーー。
そんな、ーー魔法のような楽しい名曲だった。
「ーー、アリア!」
しばらくして、カイルがアリアにダンスを申し込む様子が見て取れた。するとアリアも、いつの間にかすっかりご機嫌そうに、言い合うことなくその申し出を受け入れた。
「……なんだ、カイルったら。やればできるんじゃない。」
ーー出来ないてないのは私の方か…。
カイルがアリアに好意を抱いているように、ルーシーもまたレヴィに想いを寄せていた。だから、カイルがいつもアプローチに失敗していることをいいことに、「彼もまた自分と同じ」なのだと重ね合わせては、どこか安心しきっていたのだ。
けれども、今この瞬間、彼はルーシーよりも一歩先に行ってしまったーー。
ちゃんと行動に移してみせたのだ。
「……置いてかれちゃったな〜。」
誰にも聞こえないような声でポツリと呟いては、視線を落として苦笑するルーシー。
それを知ってか知らずか、レヴィは彼女の前に立つと、優しく微笑んでそっと手を差し出した。
「僕たちも、踊らない?」
「……え?」
すると、先にダンスホールに向かったはずのアリアから「ルーシー!はーやーくー、踊ろ〜!」と何やら叫ぶ声が聞こえてきた。
そして、それを合図に、レヴィは優しくルーシーの手を握ると、「行こう」と一言そう呟いて、彼女をホールへと誘っていく。
「………ッ、」
彼に引かれる手をそっと見つめ、ゆっくりと視線を上げる。
普段、まともに見ることの出来ない彼の広い背中。それをしばらくじっと見つめながら、再び、ぎゅっと繋がれた手元に視線を戻した。
「『Go on, pull!』かぁ……。」
自分がカイルに言った皮肉を思い出しながら、今度はクスッと愛らしい微笑みを漏らして頬を赤らめる。
「……私も頑張ってみようかな。」
賑やかな音楽と、大好きな仲間たちの待つ場所へーー。
ルーシーは彼の手に導かれるまま、少しだけ、ほんの少しだけ前に踏み出すことを決意したーー。
この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.




