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とある烏による説教


 馬鹿だな、なんでこんなもん拾ってきちゃったんだよ。たしかにキラキラしてて拾いたくなるけどさ。これはこの世のもんじゃないよ、鬼の邪気がプンプンしてる。

 この石自体は瑠璃っていってこっちにもあるけど、こっちのはこんなにキラキラ輝いちゃいないんだ。これは鬼の力が込められてるから、こんなにキレイなのさ。

 しかもそこらの鬼が持ったくらいじゃ、こんなにキラキラしないし邪気だらけにならない。多分これは、酒吞童子さまの宝玉だろうね。


 前にも話したことあったろ、鬼の大将のこと。そうそう、その酒吞童子さまは立派な屋敷に金銀財宝をたらふくため込んでるって噂だ。

 これはその中から、酒吞童子さまがこの世にばら撒いたものの一つだろうな――なぜってそりゃぁ、“貴き子”に復讐するためにだよ。


 “貴き子”、お前も見たことあったっけ? ここら辺に住んでる、人間のオスだよ。貴いから、“貴き子”って言うんだ。

 うーん、昔色々あったらしいけど、お前にはまだ難しいから、その話はまた今度な。簡単に言うと、鬼がこの世を我が物顔で歩けなくなったのは、“貴き子”の前世のせいなのさ。

 だから“貴き子”が生まれてから、鬼たちは躍起になって復讐しようとしてる。


 ――でもな、“貴き子”は強すぎるんだ。


 この辺りには、鬼やその手下が全然いないだろ? 何でかっていうと、“貴き子”が生まれた時に、このあたりの邪気をあらかた消しちゃったからなんだ。

 鬼たちは邪気の塊だから、邪気が消されたら鬼も消える。

 “貴き子”が生まれてから力の弱い大半のやつはやられちゃって、生き残ったのも消されちゃかなわんから、とっととこの土地から出て行った。


 どうやって、っていうか、“貴き子”は何にもしなくっても邪気を消せちゃうんだよ。


 たとえば鬼がまとっている邪気を黒色だとするとさ、“貴き子”の気は真っ白なんだ。あんまり白いから、鬼の黒色を簡単に塗り潰せる。

 俺たち烏も真っ白なペンキをかぶったら、白くなって見えなくなるだろ? 

 “貴き子”は常に真っ白なペンキをたくさん撒いている状態だから、鬼は近づいたらすぐ塗りつぶされて消されちゃうのさ。


 他の人間にも白色の気のやつはいるけど、“貴き子”とは比べものになんないね。

 いや、俺たちは黒いけど、塗りつぶされたりしないよ。お前は邪気なんて全然ないし、気にするこたないさ。違う違う、白いペンキをかぶったって気が白くなるわけじゃない。


 え? お前が白い気を撒けるようになるには……うーん、“貴き子”は生まれつきその力を持っているわけだけど、後から手に入れるには修業がいるだろうな。

 八咫烏に修業をつけてもらいに行ったらどうだ? もしくは“貴き子”に弟子入りするとかな。


 俺もはじめて“貴き子”の話を聞いた時は驚いたもんだよ。偉そうな八咫烏やなんかより、よっぽどすごい人間がいるもんだってね。

 でもあんまりすごい噂ばっかり聞くもんだから、ちょっと疑ってもいたんだ。本当にそんな人間がいるんだろうか、ってね。


 で、ある時俺は実際に見てたしかめたくて、餌を探すついでに“貴き子”を探しに行ったことがある。


 そしたら運良く、“貴き子”が一人で歩いてるところを見つけてさ。他の人間とは全然違うから、すぐわかったよ。

 なんて言うんだろうな……とにかく強い気を放っていて、圧倒的な強さを感じた。もう見ただけで、聞いてた噂は全部本当だったんだってわかったよ。お前も今度見に行ってみるといい。

 それでそのまましばらく“貴き子”を追いかけてると、人間に化けた鬼が一匹、“貴き子”の後ろから近づいて来たんだ。

 俺くらいになったら、鬼が人間に化けてるのなんかバレバレだよ。大丈夫大丈夫、お前もそのうちわかるようになるさ。


 その鬼は、まあ少しはできるやつだったんだとは思う。電柱と電柱の間くらいの距離まで、“貴き子”に近づけてたからね。弱い鬼だと、そこまでも近づく前にやられちゃうんだ。


 でも、そこまでだった。


 “貴き子”に手を出すどころか、話しかけることすらできずに、消し飛ばされたんだ。“貴き子”は振り返りもしなかった。鬼は、やられたことに気づく間もなかったんじゃないかな。

 ほんと、見ててびっくりしたね。一瞬で鬼がいなくなっちゃったんだから。俺も一緒に消されるんじゃないかと思って、思わず地面に落っこちそうになった。


 “貴き子”は鬼が消えると、ようやく立ち止まった。そんで少しだけ振り返ると何事もなかったように、そのまま歩いて行っちまったよ。鬼なんて歯牙にもかけちゃいない様子で、別に喜ぶでも怒るでもなかった。


 “貴き子”にとっては、日常茶飯事なのかもしれないけどさ。俺はその“貴き子”の底知れぬ感じが怖くなって、あれ以来“貴き子”に近づいちゃいない。


 ――とまあこんな感じで、“貴き子”はすごく強くって、鬼が全然敵わないんだ。

 酒吞童子さまもすごく強いけど、酒吞童子さまは簡単にこの世を動けない。代わりに色々手下を遣わしたみたいだけど、やっぱりダメだった。


 そこで今度は、人間を使って“貴き子”の力を弱めることにしたらしいんだ。人間は邪気の塊の鬼と違って、“貴き子”に近づいても消し飛ばされないからね。


 鬼の力を与えた人間を“貴き子”に近づけて、そこから“貴き子”に邪気を移す。

 白色に黒色が混じったら、灰色になるだろ? 灰色になったら、黒色を塗りつぶすことが難しくなる。そうやって“貴き子”の力も弱めようってことだ。

 ――悪い、たとえがわかりづらかったか?


 ほら、お前が拾ってきたこの宝玉をよく見てごらん。こんなにキラキラしていたら、烏だけじゃなくて人間だって惹かれて欲しくなる。この輝きで惹きつけて、人間に拾わせるんだろう。


 普通の人間がこれを持ったら、邪気にあてられて欲が止められなくなるだろうね。あれが欲しいとかこれが欲しいとか、そういうのが止められなくなって、欲のためには何だってしちゃうのさ。

 そしてこの宝玉はそういう欲を餌に邪気をどんどん強くして、持ち主を鬼みたいに邪気だらけにしていくんだ。


 そんなことをしても“貴き子”に近づいた時点で邪気は薄まるだろうし、返り討ちにされちゃう気もするけどな。

 まあ酒吞童子さまも、何か勝算があってこんな手間をかけるんだろうさ。


 いずれにせよ、早くこの宝玉を元の場所に戻してきな。この宝玉を持ったままだと、邪気にやられて“貴き子”に消されかねないよ。

 そうでなくとも酒吞童子さまの邪魔をしたってことで、鬼に目をつけられたら困るだろ。


 こんなもの、もう拾ってきちゃダメだからな。

 気をつけて、途中で落っこどしたりするんじゃないぞ。お前はまだくちばしも小さいし、どこか抜けてるから心配だなぁ。


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