いよいよ逃げようと思いまして
行きと同じく、馬車に揺られながらようやく生まれ育った村に帰ってきた。
まずは神殿に行ってクリスお兄様に報告して…
なんて考えていたのに村の人達に見つかってはちょいちょい話をしたり、癒したりで神殿に着くまで時間がかかった。
「そう言えば、ロディオのやつ魔王を倒したらしいぞ!」
同じ歳でロディオとも良く話していた男性で、えーーと名前は…なんだっけ?
「もうすぐ帝都に戻って、その後この村にも来るってよ」
ふぁっ!マジで!!
私は会話を切り上げて慌てて生家に向かってもらった。
結局彼の名前は思い出せなかったけど、凄い情報をもらったわ!
「おかーーさーん!」
猛ダッシュで家に飛び込んで行ったけど、当然、畑仕事に出ているだろう両親に会える事は無く私は自分の机の上に目をやる…
あった!
あるわロディオからの手紙!
トラビス領に行ってた半年足らずで10通ほど置いてあった。
下から順番に手紙を読んでいく…
最後に読んだ手紙はパーティーを組んで魔王討伐の旅に出るってところまでだったはず、
なんでもう倒しちゃってんの?
手紙は一番古い物で、明日旅立つ
次に旅の途中の宿からこまめに来ていた
最後の3通くらいになると魔王を見つけた、魔王を倒した、帝都にもうすぐ着く
と簡略化されすぎの内容に頭を抱える。
早い…早過ぎるでしょう
多分、帝都に戻ったら色々手続きがあったり祝勝会やパレードがあって、村に戻れるのに後半年はかかるだろう。
1年で修行を終わらせて2年で魔王を倒して戻って来るの?
3年も早いじゃん!!
マズイわ…
余裕ぶっててまだ村を出る準備もできていない
半年でなんとかしないと!
と、トラビス領でのんびりしていた自分を呪いたい気持ちになった。
手紙を鷲掴みに持って、馬車に戻るとようやく神殿へと向かうのだった。
半年振りのクリスお兄様は、お疲れのご様子で少しやつれたかしら?
余りにも遅い帰りに、ため息をつかれたけど
「まあ、トラビス領を気に入ってくれたのなら良かったよ」
と、笑う
あ、もうそこから遅いと言われてたのね…
それからクリスお兄様は申し訳なさそうな顔をして私を見た。
「アン、帰ったばかりで本当に申し訳ないんだけど帝都に行って欲しいんだ」
えーー!!
帝都ーー!?
もれなく一番お近づきになりたくない場所なんですけどーー!?
詳しい話を聞くと、
まああれだ、ムンプスだね。
帝都からも近いトラビス領だけに留まる訳が無かったと言う事だ。
ちゃーんと近隣の領とトラビス領寄りの帝都の端の方にも発症者がチラホラ出てるらしい
その事で他の領からも私を訪ねて来る人が増えて、その度にクリスお兄様が対応していたようなのだが…
それならわざわざ呼び戻さずにトラビス領から直接行けば近かったんじゃね?
と、思って聞いてみれば
「未知の病なんだ、いくら癒し手のアンでも聖女じゃないのに無理させてるんだろうと思ったんだよ」
つまりはそっか…
私を心配してくれたんだね。
あっちこっちに引っ張りだこになる前に呼び戻してしまいたかったと…
クリスお兄様の優しさに私、ブラコンの扉のドアノブ掴みましたよ
それなのに、当の私は呑気にトラビス領でメープルシロップ作って、ケビン君と遊んで、酒飲んで潰れてた訳だ
しかし、帝都にまで感染者が出ると少々やっかいでお偉いさんの命令で行かないわけにも行かなくなったのだそうだ
「幸いに聖女ももうすぐ戻るのだろう?トラビス領みたいにアンが1人って訳じゃないから…」
クリスお兄様がこれ幸いと言うが、
それー!
それが問題なんよ!
聖女が居る=ロディオも居る
と言う方程式が成り立つ訳ですわ
やだなー
行きたくないよ…
シュンとする私にクリスお兄様は小声で言う
「実はな、今期の聖女は力が弱いらしい」
は?
そんな話、聞いた事無いけど?
てか、小説では歴代最強聖女だったよね?
原因はロディオの修行が早過ぎて周りのメンバーが成長しきれなかったと言われてるとか?
「だから聖女は完全にお飾りなんだ」
仕方無しに帝都のベテラン癒し手を2人つけて魔王討伐に出たらしい
つまりは、聖女とムンプスをなんとかするわけじゃなくてその癒し手さんとって事か?
そもそも帝都に戻った聖女は祝賀会やパレードで大変お忙しい
いったい何を持って聖女と言うのか…
私はため息をついて考えた
帝都は広い、行動範囲がまるで違うのだからロディオと聖女に会う事は無いのではないかと
そしてロディオが村に戻った時、私は帝都にいるのだから結果、逃げれる!
そう思い至った時、
「行きます!」
とクリスお兄様に返事をしていたのだった。