正社員登用、めでたきかな
昔、剣の師匠が碁を打っていた。
野犬が騒いでうるさいので師匠は一番弟子に犬を斬ってこいと言った。
一番弟子は犬を斬った。犬を斬るには上から下へと斬らなければいけないが、思い切り斬り下ろすと、剣は地面に当たって、刃こぼれをしてしまう。
一番弟子は高度な技でもって、地面にギリギリでぶつからないように犬を斬った。
一番弟子は嬉しそうに師匠に刃こぼれひとつない剣を見せた。
師匠は突然不機嫌になり、自分の刀を抜くと、真上から碁盤を斬った。
思い切り振り下ろされた剣で分厚い木製の碁盤は真っ二つになり、さらに師匠の剣は畳を深々と斬り、その下の板床まで目いっぱい刺さっていた。
師匠は言った——これが示現流である。
「あんた、調子に乗らないでよね」
「分かった、分かった」
「貸し借りはなしなんだからね」
「分かった、分かった、うるせえな」
「……ボソッ(でも、ちょっと助かった)」
「なんか言ったか?」
「調子乗るな」
「助けなきゃよかったぜ」
まあまあ、と、ベン・カルヴィンハースト。
彼は食べかけのサンドイッチとスミス&ウェッソンのカタログを引き出しに流し込み、書類を二枚テーブルの上に置くと、皺を丁寧に伸ばした。
「こっちはきみの合格書類だ。ホレイショ・グラムリーの死は確認できた。きみも今日からグッド・キラーズだ。それとこっちはエミリィへの標的抹殺証明書。その少佐にも賞金がかかっていたんだよ。しかし、一度にふたりも標的を始末するなんて、きみら、いいコンビだよ」
それだけは絶対にない!とふたりは声をそろえて叫んだ。
その後、ふたりは外へと出ようとしたが、いつぞやみたいに同じほうへと歩いていく。
「ちょっとついてこないでよ、変態!」
「そっちがついてきてるんだろ」
ガソリンスタンドの外に出ると、ファウストがポンプで円形水槽塔に汲み出したガソリンをシボレーのタンクに流し込んでいるところだった。
「やあ、どうだい? 試験は合格した?」
「したよ」
「そっけない返事だ。おや、きみはエミリィと知り合いだったのか?」
「知り合いじゃなくて、お邪魔虫で——なんだか、すはすは過呼吸みたいな音がするけど」
ふりむくと、エミリィが目をまわして、ぶっ倒れていた。
イージーはくたびれた板と錆びた釘、踏みつぶして糊みたいにした苔で樹海酒場を修復していた。
グラムリーが全滅したので、前から興味があった密造ビールを売り出すと、怖いもの見たさの町の連中が店に来るようになった。
なかなかの売り上げで、この調子でいけば、もっとマシな修理をしてやれるだろう。
ブオオオ、バキバキ。
タフなエンジンの唸り声と鉄板入りのタイヤが倒木を砕く音。
フランシスが世界で一番タフな改造T型フォードを運転してあらわれた。
「イージー、こんちは」
「こんちは、フランシス」
「父ちゃんも兄ちゃんも死んじゃったよ」
「らしいね」
「寂しいな」
「悪いことばかりじゃない。これで誰もあんたの頭を杖で殴らない。それにもっとたくさん車を修理できるかもよ?」
「そう?」
「こんな森のなか走れる車を作れるのはあんただけだよ。町に行ってみな。ん、それ、なに?」
「一万ドル札。兵隊から拾った」
「本物?」
「ニセモノ。父ちゃんが言ってた」
「ふうん」
よーく、見てみよう。
サーモン・チェイスがあかんべえしてるかな?
end