第5話
翌朝、俺は小宮山に電話をかけた。俺が小宮山に電話することなどこれが初めてだったから、小宮山は何事かと思ったらしく、「もしもし」の声に驚きや警戒の感情が読み取れた。
「もしもし。ごめん、今大丈夫か?」
「大丈夫やけど、何やねん。お前が俺に電話して来るなんて」
「いや、お前にちょっと聞きたいことがあってな」
「何? まさかネタのことじゃないやろうけど」
俺がお笑いのことに関して人に教えを請わないことは、同期の間では知れ渡っていることだった。
「お前さ、アニメ好きやったよな?」
「え? まあ、週に30作品ぐらい観てるぐらいには好きやけど」
「アニメってそんないっぱいやってんの?」
「朝やってるのとか、俺の趣味に合わんくて観てないやつとか合わせたらもっとあるで」
「そうなんか。いや、俺が聞きたいのはそういうことやなくて。お前、ラブライブって知ってるか?」
「知ってるも何も、μ’sのライブ行ったことあるっちゅうねん」
「え? ライブ? どういうこと? アニメの映像をみんなで観るってこと?」
「ちゃうわい。誰がそんなライブ行くねん。μ’sの声優さんが、アニメと同じ曲をライブで歌って踊んねん」
「へえ、そうなんか」
俺は初めて知るラブライブの情報に、素直に驚いた。
「そうか。そういえば今再放送やってんのか」
「え、今やってんのって再放送なん?」
「そうそう。夏に映画やんねんけど、それに合わせて再放送やってねん。そうや。μ’sのライブBlu-ray持ってるから、今度貸したろか?」
「ほんまか? それは絶対貸してくれ」
「じゃあ、今度劇場の出番一緒になったときに渡すわ」
「おう。ありがとう」
その後、「この後のストーリーのネタバレしたろか?」と冗談を言ってきた小宮山に本気でキレかかけたところで、俺は電話を切った。どんどん胸がワクワクしてきて、地面から数センチぐらい浮いてるなじゃないかと思うほど、気分が高揚していた。
そういえば、西口以外の同期とこんなに会話したのは、初めてだった。俺は、早く劇場で小宮山に会いたかった。