case 1 やくそう採取 ログブック 記入者 狂信者 リム 中編
「ここサーラ草原は危険が低い。緑豊かな土地です。怪物が出ることも稀で、今回の目撃情報も間違いじゃないのかっと父は言うのですが」
「いや、そういうのは大事だ。安心しろ。俺たちに任せろ」
「だねぇ。怪物ならドラゴンクラスまでならいけます」
「そうだな」
まさか、本当に護衛が必要な人が出てくるとは思わなかった。
俺は3人が領主の娘マリノから話を聞いている間に1人、やくそうをこっそりと採取しながら周りを見ていた。
やくそう採取のクエスト料で怪物退治をするのは割に合わない。というか、本来のクエストはやくそう採取だ。
現場で新しい依頼を受けることも珍しくはないが、今回は仲間には事情を伏せているためこっちのクエスト手伝ってもらうわけにはいかない。
「と、やくそうやくそう」
「わーい! とったー!!」
「……おい、それは俺が先に見つけたぞ」
「えー、早い者勝ちだよー!!」
どや顔で勝ち誇る子供に対して俺は大人としての力を見せつけることにした。
「本気を出してやるぜ!!」
「わー!?」
「逃げろー!!」
「待ちやがれ!!」
自分自身に火の魔法を使い、身体能力を強化する。これで勝てる!!
「とにかく、子供たちを避難させよう。怪物が出てからでは危ない」
「すみません。父に内緒でなので、封鎖できません。それに、この時間帯ですと帰り道に冒険者もいないためむしろ危険かもしれないです」
「あー、そうだねぇ。僕たちだけだとこの範囲を見張るのが精いっぱいだし」
「子供の帰りを守る戦力もないな」
ものすごくまじめに話し合っているみたいだけど、俺は子供たちに交じって必死でやくそうを探す。
バーサーカーローグめ、やってくれるぜ。ほとんど持っていきやがったから子供たちと早い者勝ちになってしまった。
しかも、子供の方が数が多いからぜんぜんやくそうを集めきれない。
俺が本気を出しても数で勝られて負けてしまう……。
「それだったら、俺が魔法罠を設置して、魔力が高い奴だけ反応するようにしておく」
「そんなことができるのですか!?」
「ああ、それだったら1日しか効力を持たないが、今日のところは十分だろ」
マジックアーチャーは慣れた手つきで糸に魔力を通して、魔力罠を仕掛け始める。
俺は子供たちが仕掛けた罠に引っかかって、捕まっていた。
「それだったら僕は地面を掘り起こして、周囲を見渡せるように少しでも高い足場を作っておくよ」
バーサーカーローグは自慢のスコップで、地面を掘りだし積み重ねている。
俺は子供たちが掘った落とし穴にはまり、もがいていた。
「俺は周辺を見回る……おい、狂信者はどこいった?」
「「「へっ?」」」
アサシンプリンスの言葉に3人が反応する。
……子供たち負けた俺は、地面から半分だけ身体を出して倒れている。
「「「狂信者ぁぁぁぁ!?」」」
俺の惨状に仲間たちが叫ぶ。
早く……助けてください。
「ふぅ、散々な目に遭ったぜ」
「なにやってんの。怪物退治をしないといけないのに、子供と遊んでいる暇はないよ」
「さすがにねー」
「正気を疑うぞ」
「すみません……」
仲間達から辛辣な言葉を受けて、少しだけ反省する。
(まさか、あそこまで用意周到に動く子供がいるとは次からは警戒しないといけないな)
と、考えていると居心地が悪そうにマリノが話しかけてくる。
「あの、その方が本当にリーダーなんですか?」
ものっすごい疑いの目で見られる。
否定することができない。
情けなさ過ぎる姿を見せたために、何も言えずにいると遠くの方で怒号が響き渡った。
「グオオオォォォォォ!!」
「あ、かかった」
マジックアーチャーがポツリッと呟いた。どうやら、魔法罠に引っかかったようだ。
俺は怒号のする方向を見るとすごい勢いで何かが俺たちに向かって飛んでくる。
「きゃああぁぁぁ!!」
「っと、やばいやばい」
俺は半歩前に出て飛来物をマリノに当たらないように受け流す。
ぶにょぶにょとする感触から、察するにこれは……
「スライムだね。大丈夫?」
「プルプル……」
飛んでくるものはスライムでバーサーカーローグができる限りキャッチしている。すげぇ、あの芸当は真似するのは難しい。
アサシンプリンスは子供たちに跳んでいくスライムを土魔法で防壁を張って防いでいる。
やがて、飛んでくるスライムが止むと大地を踏み鳴らす音が鳴り響いた。遠くの方からこっちに向かってくる怪物を見る。
クマのような形をして、額には炎。全身が蒼炎色のあれは――――。
「あっ、あれは!? グリズリーバーン!!」
「いや―――!!」
「っ!」
アサシンプライドが吹き矢で怪物を挑発する。おかげで子供たちへの被害はなさそうだ。
「やっべ、あれ、グリズリーバーンじゃないか」
「ああ、どうする?」
俺の傍でアサシンプリンスが聞いてくる。この場合、誰かを囮にして子供たちやマリノを逃げ出す時間を稼ぐのが危険が少なく、安全な策と言える。だけど――――それは最善策ではない。
一番の最善策。それは――――。
「アサシンプリンス。準備はできてる?」
「いつでも」
右手で剣を抜き、左手には吹き矢をもって、アサシンプリンスは構える。
「バーサーカーローグ。いけそうか?」
「大丈夫」
魔力を込めたバーサーカーローグの全身が現れ、対ドラゴン装備の重装備が顔を出す。
「よし、マジックアーチャー。やるぞ!!」
「了解!!」
高台に移動したマジックアーチャーは弓を取り出し、魔法の矢を魔法の弦で引いている。
グリズリーバーンは並大抵の冒険者が挑むと返り討ちにあってしまう危険な怪物だ。
クマ本来の獰猛さに加え、魔法耐性を持つ巨漢は見るものを恐怖に陥れる。
だけど、いや、だからこそ。ここで討伐することが正しい。
「うおおおぉぉぉ!!」
「グォォォォォォ!!」
バーサーカーローグはグリズリーバーンにめがけて突進しながら、どこからか取り出した投げナイフを投げ散らし、グリズリーバーンが傷を負っていく。
お互いに衝突する。その瞬間、バーサーカーローグは寸でのところで回避する。
「ガウゥ!?」
「どこ見ている……こっちだ」
「グゥォォ!!」
アサシンプリンスは背後から剣で切り裂き、暴れ回るグリズリーバーンの攻撃をかわしながら吹き矢で目をつぶす。
「ガァ! ガァァァァァ!!」
「マジックアーチャー! 任せたぞ!!」
「オーケイー!!」
流れる激流のように大量の魔法矢がグリズリーバーンに襲い掛かる。
一つ一つの威力は弱く、グリズリーバーンの体に当たっては散るが先に二人がつけた傷口に当たり、苦しそうに叫ぶ。
「ガアァァァ!! グオオォォ!!」
逃げ出そうとグリズリーバーンが4本足で走り出す。だが、その先にはすでに――――。
「一撃――必殺!!」
「ガアアァァ!?」
ドカンッと巨大な爆発音とバーサーカーローグの掛け声が重なる。
いつものように、間近で爆弾を使いふっとばした。
空中に投げ出されたグリズリーバーンに対して俺は跳躍し、姿勢を整える。
「「「まてぇ!!」」」
「すぅ…………オッッッラァァァ!!」
仲間たちの掛け声を聞き、炎の魔法で加速した俺はグリズリーバーンの胴体を蹴りぬく。
これで決まった……そう思った時だった。
(そういえば、グリズリーバーンって、確か最期、爆発するんじゃなかったっけ?)
ピカッとグリズリーバーンが光る。俺は焦る。でも…………間に合わない。
空中にそれはそれは汚い花火がさく裂した。
「「「狂信者ぁぁぁぁ!?」」」