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最後の審判 後編


「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」


 気の遠くなるような激痛の中、エルバアルの手を握る者がいる。

 包み込むような冷たく柔らかな感触が痛みを和らげると、マグダレーネは彼の耳元にそっと囁いた。



「賢者の石……人々の魂と願いを込めた命の塊。 ……時が来たみたい。今こそその力を解放しましょう」



「マグダ……レーネ……? いや、しかしこちらの魂保有量では……」



「大丈夫。きっとみんなあなたに力を貸してくれるわ…… さぁ、あの日の呪文を思い出して」



 導かれるように、2人の手が骨の身体に浮かぶ赤い石をそっと包む。


 そして紡ぎだされる言葉。それは二人が初めて出会った時の呪文……



『「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!」』



 名状しがたい異音と共に石の中の魂残存量が減っていく。しかし肝心の召喚にはまるでエネルギーが足りていない。



『「くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん……」』



「くふふっ! この後に及んで無駄な抵抗を……ん?」



 シャルロッテは違和感に気付いた。スキルの付与もしていないのに自身の賢者の石から力が抜けていっている。



「な、なぜです!? なぜ私の賢者の石の力をお前達が使う事が出来る!?」



 慌てふためくシャルロッテに二人が告げる。



「シャルロッテちゃん……あなたはただ力でその人達を押さえつけていたに過ぎない。意志のない力は簡単に流されるわ」



「これはただの力ではない……お前に殺された人々の、無念と想いがつまった意志を持つ魂だ!」



 そして二人は呪文を紡ぐ。



『「いあ! いあ! あざとーす! ふたぐん! ふたぐん! ふんぐるい むぐるうなふ ふたぐん! ふたぐん!」』




 人類では想像することすら出来ない名状しがたき冒涜的なエネルギーが集結する……



 そして!




「幾千の声無き民の痛みを聞けっ!! 召喚………… 魔王っ! アザトース!!!!!!」























































ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





 それは宇宙の深淵より現れた。



『なべての無限の中核で冒涜の言辞を吐きちらして沸きかえる、最下の混沌の最後の無定形の暗影にほかならぬ--すなわち時を超越した想像もおよばぬ無明の房室で、下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と、呪われたフルートのかぼそき単調な音色の只中、餓えて齧りつづけるは、あえてその名を口にした者とておらぬ、果しなき魔王アザトホース』



 遥か遠くに座すはずなのに、そのあまりの巨体から地球を飲み込んでしまわんばかりに空が埋め尽くされる。


 それは暴虐の化身。終末のラッパが鳴り響き、あらゆる存在を冒涜する忌まわしき呪詛が吐き散らされる。



ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 重力のバランスがおかしくなって岩々が宙に浮く。もうしばらく魔王が居座れば地球は球状を保てなくなり崩壊してしまうだろう。



「ちょっと待て! これ本当に大丈夫なのか!!?」



 エルバアルの脳裏を絶望の予感がよぎる。しかし宙に浮いていたのは岩石や草木だけではなかった。



「ひっ…… 引き寄せられる!?」



 あらゆる物質の中でシャルロッテが特に一際強く引き寄せられていた。それは……彼女がこの地で最も強い力を持っていたからに他ならない……



「くそっ……! とりあえず逃げるとするですか。『瞬間移動するスキル』」



 シャルロッテはスキルを発動させた。だが



「…………なにっ!? 『次元を跳躍するスキル』『重力を操るスキル』『空間を転移するスキル』!!」



 シャルロッテが次々にスキルを発動させる。しかしそのどれも効果がない。



「ちょっと待つのです! そんなの反則でしょう!? くそっ、くそっ! 『あらゆるスキルを無効化するスキル』『スキルを無効化するスキルを無効化するスキル』……」



 何の効果もあげられない事に半狂乱になって焦るシャルロッテ。その様子をマグダレーネが冷ややかに見上げる。



「無駄よ…………たかだか地球の神がアザトース様にかなう訳ないでしょう?」



「くそっ! くそっ! くそぉっ! 私は天使なのです。女神なのですよ!!? こんな、こんなところで……!

 『あらゆる存在を抹消するスキル』『レベルを1にするスキル』『強さを反転させるスキル』!」


 シャルロッテはこともあろうに抵抗の矛先を魔王へと向けた。だが、それこそ何の効果もあろうはずもない。


 彼女は必死に抵抗した。だが……




『「別の生命に転生するスキル! 過去に戻るスキル! 概念を切断するスキル! 無になるスキル! あらゆる干渉を無効化するスキル! 最強になるスキル……! くそがっ! やめろ……やめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」』




 ズ


 ズ


 ズ



 ……ついにシャルロッテは暴虐の魔王に囚われてしまった。もはや死ぬことも気が狂うこともかなわず、神の名を汚す冒涜的な呪詛を浴び続ける事になるだろう。


 そして彼女は思い知らされた。宇宙の深淵にただよう、真なる神の強大さと邪悪さを。



 より強く、より速く、より美しく。シャルロッテはそれが神から与えられた啓示と思い込んでいた。


 だが、そんなものは「こうあって欲しい」と言うただの願望に過ぎない。


 真なる神にとって人間など空気中の微生物以下の存在なのだ。


 故に神が気にすることはない……人間がどう繁栄し……どう滅ぼうとするかなどと。



 神とは強大である……そして白痴なのだ



 シャルロッテは世界の真実の姿に触れ……そして自身の信じていたものが無意味であった事に絶望した。




ゴゴゴゴゴゴゴ……




 暴虐の魔王はエサを吸い込むとやがて姿を消していった。

 いや、初めからそこにいるのに……誰もが目を背けているだけなのかもしれない。






「なぁ…………」



 エルバアルは隣に立つマグダレーネに問いかけた。



「あいつ……シャルロッテはどうなるんだ?」



 マグダレーネがキュッと手を握り返す。



「想像してはいけない。引き寄せられてしまうわ…… あなたも、強い力を持っているから」



 エルバアルは「そうか」と呟いて頭をかいた。



「俺も……いつかあそこに行くことになるんだろうか。大勢の人々の命を奪い、魂の外法に触れてしまったから……」



 エルバアルは覚悟を決めているようだった。そんな彼にマグダレーネが優しく微笑む。



「そうね……魂の外法に触れてしまった者は輪廻の環界に戻る事は出来ない。でも大丈夫、私も一緒だから」



 マグダレーネはエルバアルの頬を両手でそっと包むと、彼の目の前に顔を近づけてこう言った。



「お願い。ポコ。自分の足で世界を見てまわってきて。 ……あの森で待ってる。ずっと。千年の先も……」





 やがて地鳴りは収まり。


 そして戦いは終わった。

本日、エンディングとあとがき投稿して完結となります。

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[気になる点] なべての無限の中核で冒涜の言辞を吐きちらして沸きかえる、最下の混沌の最後の無定形の暗影にほかならぬ--すなわち時を超越した想像もおよばぬ無明の房室で、下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打…
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