ノープル村襲撃 後編
(エルバアル視点)
首尾は上々。あとは民衆がパニックを起こさないように縛り上げていくだけ。
何より大事なのは、こちらが慌てない事だ。まぁその点に関してはスケルトン達はこれ以上ないくらい適任だった。
もし一発でも弓矢を撃ちこもうものならたちまち悲鳴をあげてパニックを起こしていただろう。
だから言ってやった。「おとなしくすれば乱暴はしない」と。
肉を裂かれる事には耐えられなくても、縄で縛られる事には耐えられるらしい。縛られたあとどうなるかなんて考えもしない。
こんなガイコツの化け物の約束を信じるなんてこいつらの正気を疑いたくなるが、群衆と言うのは得てしてこういうものなのだ。
今、この時にしても、こいつらが一斉に走り出したら3割か4割は逃げられると思う。
だが、そうはならない。最初に走ったものは俺達からも、そして村人からも両方の敵になるからだ。
「壱号」
傍に控えさせたスケルトンに声をかける。
「あいつとあいつ……あとあそこの三人を先に縛ってくれ。こちらからの視線をきるように動きつつ、様子を伺っている。多分……走るぞ」
それでも走りだせる者は味方から嫌われる覚悟のある者だけだ。あいつらはあとで面接だな。
スケルトンメイジを控えさせて不穏な動きがないか慎重に観察する。が、特に何も起きずそのまま全員縛り終える事が出来た。
「おーい。生きてるか~?」
広場の中央に近づくと勇者は瀕死の状態でピクピクと痙攣していた。頭が割れて血を流している。
回復魔法をかけてやるとゾンビみたいに立ち上がり……
「きぃさぁまぁらぁ……よくも……よくも選ばれしこの僕にこんな屈辱を……許さん、拷問だ。1人ずつ皮を剥いで……」
ゴチン!
勇者が不穏なことを口走ったせいで周囲に動揺が広がる。とりあえずゲンコツを落としておく。
「あいたっ!? なにするんですか?」
「バカ野郎。余計なパニックを煽るんじゃない。 おい、タロス。このアホつまみだしてくれ」
「おう、宿屋で勝手に休んでていいか? 何かあったら呼んでくれ」
タロスが勇者をつまみあげると、ジタバタと暴れ出した。
「は、離せ! エルバアル様! せめて、せめて女だけでも2~3人くれませんか!?」
「タロス。そのゴミを縛って部屋に転がしておけ」
「マルス……俺ぁ時々お前のメンタルが恐ろしいよ……」
勇者はタロスに引きずられていった。その後ろ姿に声をかける。
「タロス」
「あぁん?」
「……悪かったな。慣れない真似させて」
タロスは肩越しに振り返って俺の顔をじっと見つめたあと
「いいよ。気にすんな」
二人で頷き合う。タロスは手をひらひらと振って去っていった。
「体よく追い払いましたね」
いつの間にかシンシアが隣に来ていた。
「もう勝負はついてるからな。ここからは俺の仕事だ」
「タロスさんは気にしないと思いますけど」
「別にわざわざあいつの手を借りるまでもあるまい。今日は慣れない芝居なんてうってもらったが、本当ならあいつにはもっと強敵との戦いで活躍してもらいたい」
「…………」
シンシアがじーっと見つめてくる。あ、うむ。そうだな。トップが甘いと下の者は不安になるよな。俺には説明責任がある。
「まぁいいじゃないか。あいつに非戦闘員への手出しは似合わんし、そういう行為を見たくないって言う感情には敬意を払いたい。羨ましいとも言えるかもしれん。
俺はもう悪者にしか成れない悪者だが、あいつは悪者にも成れる半端者だ。だからこそあいつには出来るだけ半端者のままでいて欲しいんだよ」
「では……私は何者になればいいんでしょうか?」
……ん? そう言えばこの子の立ち位置が未だによくわからない。別に戦闘員じゃないんだよな……
返答に困っていると、彼女がキュッと手を握ってきた。
「……私は離れませんよ……何も出来ませんが……」
そんな事はないだろうと思ったが、今は何を言っても無粋な気がする。
だから。ただそっと彼女の手を握り返す事しか出来なかったんだ……
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それから俺達は手を繋いだまま歩き、縛られて座り込んでいる群衆の中から体格の良いスケルトン候補を選別していった。
その中から更に「これは」と思ったものに声をかけたのだが、結局一次面接を突破したものは誰もいなかった。
そこから先はただの虐殺だ。縛られている相手の首に手をかけて魂を吸収していくだけ。とても戦いと呼べるようなものじゃなかった。
ある者は言った。憐れな老人に手を出すなと。
ある者は言った。赤子を抱えている自分に手を出すなと。
ある者は言った。老婆を養っている自分に手を出すなと。
そしてシンシアが言った。
「私は罪を犯す前に物乞いをしていた頃、あなたたちに唾を吐きかけられ、石を投げつけられました。あなた達の中で私に親切にしてくれた者がいたら名乗り出なさい」
と。
誰も名乗り出る事は出来なかった。
『無力である事を盾にするならば。自身もまた、無力な者に手を出してはならない』
もしこれが昔話の類ならこんな風に締めくくっていただろう。
だが俺の物語では違う。無力である事など……つまるところ何の盾にもなりはしない。ただ誰かに利用されながらどこかの傘に入っているだけだ。
やがて群衆は互いに罵り合いだした。
その子に酷い事をしたのはどこどこの誰それですと。
次に旗色の悪くなった者はこう言った。
そいつはウソです。そいつこそひどい暴言を吐いているのを見た、と。
最後に群衆はこう言った。
みんなもやっていたから許されると思った、と。
それらはなに一つとして俺の心には響かなかった。
死体が積みあがっていき、すすり泣きが聞こえる。
間に枯草を挟み、死体の山の周りを円を描くように走り回るガイコツ達。
それはまるで踊っているようだった。
彼らは傘に入っていた。そしてある意味守られていた。
そして傘はひっくり返った。そういう時もあるし、そうじゃない時もある。
オェイユ エロ アァロ アレ コトアロ エロ アロ
骸骨が踊る。骸骨が踊る。死体を抱えて骸骨が踊る
イグニク ゼロ サァロ イグニク ゼア
炎を恐れよ。やがて炎に還るのだから
やがて死体の山に火がつけられ、広場に巨大な炎が立ち上る。
夕日はもうすっかり落ちていて、パチパチと朱く互いの顔を照らしていた。
「……恐ろしいか?」
シンシアが握った手に少し力を込めて、小さく首を横に振る。
「少し……でも、大丈夫、です」
「…………それでいい」
群衆達は焼かれていった。何もわからずに。
彼らはもう二度と何かの責任を負うことはないだろう。
そして、石の中から好きなだけ処刑を眺め続けるのだ。
賢者の石が赤く光る。
大量の村人達の魂と、新たなるスケルトン達を併合して……俺達の初めての襲撃が終わった。




