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「牛頭」のタロス 後編

(エルバアル視点)


 あのあと俺達は侵入者を殺さずに、鎖で拘束して奥の大祭壇に運び出していた。

 こいつは調査隊に同行せずに1人で来ていた。村の住民なら一緒に来ていたはずだ。恐らく金で雇われた傭兵か何かの可能性が高い。


 スケルトンは非力で頭も悪く、日光の下では動きが鈍ると弱点だらけだ。だが、通常の山賊と違って分け前が要らないという利点がある。

 俺達はこれから多くの村々を襲う事になる。きっと金銭的な分け前ならウチが一番多く出せるはずなのだ。


 これほどの男が仲間になれば計り知れない戦力となるだろう。ようやく俺の回復魔法にも出番がくる。

 だが、その分信用出来る人物なのかどうかは慎重に見極めなければならない……強力過ぎる力は諸刃の剣だ。


 シンシアの方を見る。彼女は神妙な面持ちで……だが、しっかりと力強く頷いた。

 この子は頼りになるな。思わぬ拾い物をしたらしい。


 解毒の回復魔法をかけて血液中の毒素を分解してやる。物陰に隠れてしばらくすると大男が目を覚ました。



 


「ん……むぅ……あぁ……?」


「あ、あの。大丈夫ですか? 騙してごめんなさい。あなたは罠にはまって気を失っていたんです」


 大男はシンシアの顔を見つめたあと、自分を縛る鎖に視線を移した。


「そうか、俺は負けちまったのか……どうやら一本とられたらしいな」


 空笑いをする大男にシンシアは続けた。


「お願いです。どうか私のご主人様の話を聞いてくれませんか? ただ……凄く変わった見た目をしていまして。どうか驚かないであげてください。本当に、良い人ですから……」


「ご主人様……もしかしてガイコツどもの親玉かい?」


「……はい」


「なら大丈夫だ。ガイコツにはもうさっき既に驚いてきたからな。おーい、聞いてるんだろ? 出てきても大丈夫だぜ」


 ……よし、第一関門は問題なかったようだ。人外と言うだけで交渉を拒否される可能性も十分あったからな。



「……拘束させてもらってすまない。私がここの主人でエルバアルと言うものだ。君に聞きたい事があるんだが……」


「いいぜ。だがその前に1つだけ聞かせてくれ……俺は何に負けた? あんた一体どうやって俺を倒したんだ?」


 自分の処遇より先にそれか。俺の顔を見てもなんの動揺もないし、やはり只者ではない。

 特に珍しい仕掛けでもなかったので正直に答えてやる。


「あぁ、それは……密閉された室内で火を起こして酸素濃度を下げて置いただけだ。それを吸って酸欠を起こしたのだろう」


「あぁん? 酸欠ぅ? なにされたかもわかんねぇうちにいきなり倒れたんだが?」


「そういうものだ。酸素濃度が一定以下の空気を吸うと、逆に血液中の酸素を奪われて……いや、そんなことはどうでもいい。君もそこまで詳しくは興味ないだろう?」


「まぁ、なんか毒ガスみたいなもんにやられたってのはわかったよ。しかし、まぁなんだ。初めて喧嘩に負けたってのに全然実感がわかねぇな……」


「わかりやすい強者との殴り合いがお好みだったか。ご期待に沿えず申し訳ないな」


「いや、文句を言うつもりはねぇんだ。まぁ人生なんて案外こんなもんなのかもな。それで? あんたら一体何者なんだい?」


 と、言いかけたところで男が思い直した表情をする。


「……って、一つだけ聞かせてくれっつったばかりだな。俺はタロスってんだ。先にそちらの質問を受け付けよう。」



 話を聞くと、男はやはり金で雇われて調査隊の消息を見に来たようだった。

 更にタロスは軍に身を置いたが馴染めなかった事。山賊でもうまくいかなかったことなど、聞かれてもない事までベラベラと喋ってくれた。

 そして仲間たちへの不平不満に話が及んだあたりで段々と熱がこもりだす。




「俺ぁよぉ! 別にえこひいきのせいで冷や飯を食わされる自体は我慢出来たんだ。だがな、俺が頭領から嫌味を言われるたびに他のやつらがヒソヒソと話しやがるんだ。『あぁ、またやってるよアイツは。全く要領の悪いやつだ』とな。

 俺は確かに頭が悪い。だが、その事で仲間に迷惑をかけた覚えなんざなかった。納得がいかねぇんだ。謂れの無い冷遇のせいでバカにされるのだけは勘弁ならねぇんだよ!」


 話を聞いて、なぜこれほどの豪傑がお供も連れず貧相な身なりで単身乗り込んできたのか合点がいった。


 山賊の頭領は自分の地位が脅かされる事を恐れ、彼が孤立するように根回しを続けたのだろうが……余りにも視野が狭すぎる。

 まず、誰も彼もが組織のトップに立とうとする訳ではない。むしろ話を聞く限り、恐らくタロスは人に仕える事で安心感を覚えるタイプだ。

 適当に自尊心を満足させておいていいように操ればいいものを……

 手下どもも手下どもだな。自分がどれほど危険な男を前にしているかも考えずに、『数が多い方に群れていれば安心』だなどと戯けもいいとこだ。


 ………………


 恐らく俺ならこいつをうまく使える。金で普通に雇えるはずだし、人間を襲撃する事に対する抵抗感もない。

 協力者になってもらうのにこれ以上の逸材はないだろう。だが、あまりにも……あまりにも強すぎる。

 シンシアと決定的に違う点がそこだ。裏切られたら即破滅。手を組むなら全てを預けるつもりで盲信しなければならない。


 危険度で言えば女魔術師より遥かに上。

 ただ、正直……個人的に嫌いじゃない。なんと言うか気持ちの良いヤツなのだ。はみ出し者のシンパシーのようなものを感じる。

 勿論それも全部演技かもしれない。「ウソをつくタイプには見えなかった」なんてのはただの願望、甘えだ。

 だが、しかし…… 


 怪しまれないようにしながら全速力で思考を巡らしていると、タロスの方から不意に声をかけられた。




「ところでよぅ。調査隊の連中はどうなったんだ? 1人につき金貨3枚出すと言われたんだが……」


「あぁ……やつらは全滅したよ。生き残っているのはそこのシンシアだけだ」


「そして……私を連れて帰ったところで報酬は出ません。私は人間として数えられませんので……」


「……あぁ? そりゃどういう意味でぇ……」


 そしてまたシンシアも語りだした。両親に捨てられた経緯、そして犯罪奴隷として扱われてきた日々を。

 俺もおおまかには聞いていたつもりだった。だが、事実はもっと陰惨だったのだ。


 シンシアは「証拠をお見せします」と言って立ち上がり、臀部のところの布をまくった。

 俺とタロスが顔を見合わせる。

 入れ墨なんて生易しいものじゃない。彼女の左のお尻には……烙印(※犯罪者などに刻まれる印。熱した鉄の棒を押し付けて跡をつける)が刻まれていたのだ。

 一体どれほど熱かったんだろう。どれほど泣き叫んだんだろう。最初に会った時のシンシアの死んだような目を思い出すと胸が苦しくなる。

 なんてこった。あの男……もっと拷問にかけておけばよかった。


「うぐっ……うっ……くっ……」

 

 シンシアは気丈に振舞っていたが、結局はこらえきれずに泣き出してしまった。


「すまない。辛いことを思い出させたな……もういい。すまなかった」


 抱き寄せて頭を撫でる。そして……タロスが激怒した。



「う、うおぉぉぉぉ!! なぜだ!? なぜこんな子供がここまでされなきゃならねぇ!? 一体誰が得するってんだ!」


グググ……ギキィィィィィン!!


 鎖を引きちぎってタロスが猛り狂った。


「なんて胸糞の悪い連中なんだ! アニキ、俺に手ぇ貸してくれ! あいつらをぶっ殺しにいこう!」


「ちょ、お前!? いつでも脱出できたのか!?」


「あ、わりぃ。でも勘違いしないでくれ。あんたが俺をいつでも殺せたのは事実だし、負けた事にケチつける気はねぇよ」


 突然の事態に頭が真っ白になりかける。だが、タロスはそんな事にはまるで関心を示さなかった。



「それよりアニキ。俺ぁ自分で言うのもなんだが力が強い代わりに頭が悪い。そして、あんたは俺に勝った初めての男だ。どうだい? 俺が前線に出てあんたが指揮をとりゃあ百戦百勝間違いなしだ。俺をあんたの配下に加えてくれ。頼む、この通りだ!」


 こ、これは……

 いや、もはや何も言うまい。これで裏切られたら俺もそこまでの男だったと言う事。

 賭けてみたい。自分のためでなく、シンシアのためにここまで怒り狂ってくれるこの男に。



「わかった。あの村はどのみち襲撃する予定だったんだ。こちらこそよろしく頼む。だが……俺の戦いはそこでは終わらんぞ?」


 そして俺も自分の経緯を嘘偽りなく語った。

 一族の地位向上のために魔王討伐に協力したが、用済みになった途端一族もろとも虐殺されたこと。

 禁術によって蘇り、人ならざる身として王国に復讐を誓っていることを。


「なんてこった……じゃああんたが伝説の回復術師のポコだったのか。どおりでただものじゃねぇと思ったぜ……」


 ちなみに俺を殺した張本人の勇者がすぐ奥で隠れてる訳だが……あいつの話は明日にしよう。今出てこさせたら殺されてしまいそうだ。



「長らくクソみたいな連中に仕えてきたが……随分と大物に出会えたようだな。期待してるぜエルバアルのアニキ。男タロス。あんたの槍となり、盾となろう」


「あぁ、期待しておいてくれ。今度こそお前に世界一美味い勝利の美酒を振舞ってやる」


 俺とタロスががっちりと握手すると、シンシアがそれに向かってピョンピョン飛び跳ねながら言った。


「あ、あの。私! 私もいいですか!?」


 俺とタロスが顔を見合わせて笑う。相変わらず俺には顔がないのだが、多分伝わってるだろう。

 

 膝をついてあらためて3人で手を組み合わせる。



「俺達ははみだしものだ。嫌われ者のクズ同然。だが、連中にいいように使われたまま朽ち果てる気など毛頭ない。

 見せつけてやろうじゃないか。自分達が何を捨ててきたのかを。「普通」であることに安寧して胡坐をかいている者どもに!

 俺はお前達を信じる。これより先、何があろうともこの手だけは絶対に離さない、だからついてきてくれ。往こう。バアルと共にあらんことを!」


「へっへっへ……一連托生ってやつだな。こういうの……嫌いじゃねぇぜ!」


「おぉー!」


 そして俺達は掛け声を合わせた。



「バアル・ゼアル!!」



『バアル・ゼアル!!』





 進撃の準備は整った。まずは手始めに一番近くの村を落とす。

 狩りつくしてやるぞ……俺達の力を思い知るが良い……

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