プロローグ『僕はここにいる』
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
頭が――割れる。
体が――裂ける。
世界が――崩れる。
意識がぐちゃぐちゃに混ざり合って、何かが自分の中から引き裂かれていく。
「……ブンレツヲ……カクニン」
遠くで誰かの声がする。
「ミャクハク……セイジョウ」
「……テイチャク……」
「――ザザ……ッ、……ザ……」
「……エラー」
その瞬間。
――僕は目を覚ました。
「……え?」
視界がぼやけて定まらない。
耳鳴りも酷い。
不安という感情がわき上がる。
しかし、不思議なことに――
体の使い方は分かる。
呼吸の仕方も。
声の出し方も。
全部、知っている。
でも――
「……僕は、誰だ?」
声がかすれる。
思い出せない。
思い出す?
なにを?
ただひとつだけ、確かな感覚がある。
僕は――
この世界に生まれた。
徐々に視界がはっきりしてきた。
ゆっくりと上体を起こす。
そこで気づいた。
隣に――
裸の少女が座っていた。
緑の瞳。
橙色の髪。
そばかすの顔。
少女は両膝を抱えて、ニコニコしている。
「……………………」
沈黙。
「……え?」
理解が追いつかない。
「え、えーっ!?」
少年は真っ赤になった。
「な、なんで裸の女の子が!?」
少女は首をかしげる。
「え?」
そして笑った。
「ウチも裸だゾ?」
「そういう問題じゃない!」
「えー?」
少女は楽しそうだった。
「成功だな!」
「……何が?」
「スプリ!」
少年は固まった。
「……スプリ?」
「そう!」
少女は胸を張る。
「ウチから生まれたってこと!」
少年はぽかんとした。
そして。
「……君は、誰だ?」
少女は元気よく言った。
「ウチはミミリル!」
ニコッと笑う。
「よろしくね!」
少年はまだ混乱している。
「僕は……」
言葉が詰まる。
「僕は……いったいなんだ?」
ミミリルは腕を組んだ。
「うーん」
そして、どこからか折りたたまれた紙を取り出した。
「名前決めなきゃね!」
ミミリルはあらかじめ用意していた「名前案のメモ」を広げた。
しかし。
汗で文字がにじんでいた。
「うーん……」
読める部分は――
ティプ(Tip)
スタン(stan)
「よし!」
ミミリルは宣言した。
「君の名前はティプスタンだ!」
「……ティプスタン?」
「いい名前でしょ?」
そのときだった。
テントの外から、足音が近づく。
布がめくられた。
そして――
エルフの少女が顔を出した。
七三に分けられた前髪。
銀縁眼鏡。
色白の少女は数秒、固まった。
視線は――
汗だくで裸の友人。
そして同じく、汗だくで裸の知らない男。
沈黙。
「…………」
エルフの少女は言った。
「何をしているのですか?」
「違うんです!」
ティプスタンは叫んだ。
「僕、今生まれたばかりで!」
「意味不明です」
次の瞬間。
拳が飛んだ。
ドゴッ。
「ぐはっ!?」
ティプスタンは吹き飛んだ。




