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7 聖母

カメリアと私はスタンフォード警部補と共に、被害者マヤの遺族の元を訪ねた。

マヤの生家は学園からそう遠くない場所にある大きな病院だった。


「ご足労いただきありがとうございます。」


出迎えたマヤの父、ミヒャエルは目を赤く腫らしていた。

娘の死に心を痛め、憔悴しているのは明らかだった。


ミヒャエルは私たちを部屋へと通すと、開口一番「マヤが妊娠していた、というのは確かなんですよね。」と聞いた。

「はい、事実です。」というスタンフォード警部補の返答に、ミヒャエルは「そうでしたか。」と安堵ともいえる表情を浮かべたのだ。


「あの子はうまくやってくれたんだ…。」


娘を想う父親の反応として、この反応は不自然ではないか。


「ミヒャエル様はこのことをご存知だったのですか。」


カメリアの問いに、ミヒャエルは「はい。」と肯定した。

ミヒャエルは「勘違いなさらないでください。」と続ける。


「マヤは、清らかで賢い娘でした。

決して、淫らな行為によって子を授かったわけではないのです。」


スタンフォード警部補の「詳しくお話しいただけますか。」という硬い声に、ミヒャエルは素直に応じた。


「マヤは、私の実験の被験体になってくれたんです。

人類を新しい時代へと導く、偉大な実験に彼女はその身を捧げたんです。」


「それはいったい、どんな実験なんですの。」


怯えた表情で問うカメリアに、ミヒャエルは誇らしげに答える。


「人工的にいのちを宿す実験です。」


息を呑む我々と対照的に、ミヒャエルはへらりと笑って「といっても、現段階ではまだそれは可能ではないんですがね。」と頭をかく。


「しかし、いずれそれを可能にするための大きな一歩となる実験でした。

マヤに協力してもらったのは、受精卵を移植する実験です。」


私は血の気が引くのを感じた。


「では、貴方は…。

実の娘に…。」


掠れた声で問う私を、ミヒャエルは「何をそんなに怯えておるのです。」と睨みつける。


「この実験は決して忌まわしいものではありません。

むしろ、人類の希望なのです。

実用化されれば、長く子を授かることのできなかった女性が母親になることを可能とするのです。」


ミヒャエルは「これはまさに、神に近づく実験だ。」と力強く主張する。


「すでに動物での実験は成功している。

安全性に問題はなかった。

マヤは清らかな乙女のまま受胎し、人類の未来を切り開く聖母になるはずだった。

それなのに…!」


ミヒャエルはそこで言葉を詰まらせ、拳を強く握りしめた。


そんな彼にカメリアは冷静な声で、「お尋ねしてもよろしいでしょうか。」と問う。


「貴方は何故、その実験の被験体にまだ少女であるご自身の娘を選んだのですか。」


ミヒャエルは当然のような顔で、「これほどに名誉な役目ならば我が子にさせたいと思うのが親心でしょう。」と言う。


「どうも世間の人々はこの実験を穢らわしいものと思っているようだが、それは間違いです。

科学はいつも拒絶されるが、我々人類の発展に不可欠なものなのです。」


ミヒャエルはスタンフォード警部補を指差し、「警察だって、解剖を行うようになったでしょう。」と問う。


「解剖は、正確な死因を解明するための正当な行為だ。

しかし、法医学が確立したのだってほんの最近でしょう。

はじめは死者への冒涜だと言われ反発されたんだ。

しかし、古い価値観に縛られたままでは新しき時代は訪れないのですよ。」


ミヒャエルの主張を聞いていたスタンフォード警部補は、瞳に憤怒の色を宿していた。

彼女が仕事中に感情を見せるのは珍しいことだった。

スタンフォード警部補はミヒャエルの目を見て口を開く。


「私には、息子と娘がいます。

警察としてではなく、一人の母親として言わせていただきたい。」


「なんでしょう。」


「貴方はきっと素晴らしい科学者なのでしょう。」


ミヒャエルは「そうでしょう。」と得意げに笑うが、スタンフォード警部補は鋭い声で「しかし。」と続ける。


「しかし、どんな事情があっても、まだ学生であるマヤにその実験の被験体をさせるべきではなかった。」

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