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禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


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第86話 並び立つ兄弟

「――ティアラ!」


 叫ぶと同時に、アルトは迷うことなく天星弓を引き絞った。


「狩れ――天狼牙」


 放たれた矢は空中で青銀の光へと変わる。

 その光は瞬く間に膨れ上がり、幾頭もの蒼き狼へと姿を変えた。

 次の瞬間。

 蒼き狼達は咆哮を上げながら、ゼノへ襲いかかった。


 だが。

 ゼノはティアラから視線を逸らさなかった。

 迫る蒼き狼達を一瞥することすらなく、ただ片手を軽く掲げる。


「……邪魔だ」


 その瞬間。

 ゼノを中心に漆黒の魔力が広がった。

 蒼き狼達はゼノへ届く寸前。

 まるで存在そのものを否定されたかのように、音もなく霧散する。


 ゼノはそこで初めて、アルト達へ視線を向けた。

 深紅の瞳が、天星弓を構えるアルトを捉える。


「なっ――」


 クラウスが目を見開く。

 アルトの表情も険しくなる。

 だが。

 その一瞬で十分だった。

 ティアラとゼノの間に、僅かな距離が生まれる。


 アルトは叫んだ。


「ティアラ! こっちへ!」


 アルトは間髪入れず、矢を連続で放つ。

 一本。

 二本。

 三本。

 ゼノは歩みを止めることなく、その全てを片手で弾き飛ばした。


 アルトはクラウスへ視線を向けた。


「クラウス! ティアラを!」


「任せろ!」


 クラウスは真っ先にシリウスの背から飛び降りた。

 続いてユラも地上へ舞い降りる。


「ティアラ様には指一本触れさせません」


 ルカはシリウスの背を蹴り、そのまま上空へ飛び上がった。


「リアン達には近付かせないよ!」


 シリウスは大地を蹴った。

 青銀の巨体が聖域を駆け抜ける。

 アルトはシリウスの背から、ひたすら矢を放ち続けた。

 一歩たりとも、ゼノをティアラへ近付かせないために。


「ティアラ様!」


 ユラがティアラを庇うように前へ出る。

 クラウスはティアラの腕を掴み、強引に後ろへ引いた。


「ティアラ、下がれ!」


 ティアラは息を呑んだ。

 視線は無意識にリアンへ向く。

 何度倒れても立ち上がろうとしているリアン。

 その姿を見た瞬間、胸が締め付けられた。

 もう立たなくていい。

 これ以上傷付いてほしくない。

 それなのに。

 リアンは立ち上がろうとしていた。

 その姿から目を離すことができなかった。


「邪魔をするな」


 ゼノが片手を振る。

 次の瞬間。

 漆黒の衝撃波が聖域を薙ぎ払った。


「俺の後ろにいろ」


 クラウスはティアラの前へ踏み出した。

 ルカとユラ、そしてティアラを背に庇うように立った。

 クラウスは静かに右手を前へかざす。


「触れるな。これは俺の領域だ」


「――零界封結」


 瞬間。

 無色透明の結界が四人を包み込んだ。


 直後。

 漆黒の衝撃波が結界へ激突する。


 轟音。

 大地が揺れ、衝撃が周囲を吹き荒れる。


 しかし。

 衝撃波は結界の表面で止まった。

 物理も。

 魔力も。

 熱も。

 音さえも。

 その全てが、クラウスの領域へ侵入することを拒まれる。


 しかし。

 ゼノの力は止まらない。

 次の瞬間。

 結界の表面へ無数の亀裂が走った。


「……っ」


 クラウスの表情が初めて歪む。

 ゼノはようやく視線を向けた。


「ほう……」


 僅かに興味を示したように、深紅の瞳が細められた。


 クラウスが叫ぶ。


「ルカ!」


「任せて!」


 ルカは両手を掲げる。


「優しき風よ、その翼を貸せ」


「――風翼ふうよく


 次の瞬間。

 柔らかな風がティアラの身体を包み込んだ。


「え……?」


 ティアラの身体がふわりと宙へ浮かぶ。

 風はそのままティアラを優しく持ち上げ、シリウスの背へと運んでいく。

 ティアラはアルトの後ろへ、そっと降ろされた。

 不安げにアルトの背へ身を寄せる。

 アルトはわずかに後ろを振り返った。


「……お父さん」


 震える声だった。

 アルトは弓を構えたまま、小さく頷く。


「無事でよかった」


 ティアラは小さく首を振る。


「リアンが……みんなが……」


「お願い……助けて」

 

 今にも泣き出しそうな声だった。

 アルトは前を向いたまま、静かに答える。


「分かっている」


 弓を握る手に力がこもる。


「リアン達は必ず助ける」


 ティアラはアルトの背へ額を預けるように、小さく頷いた。


「……うん」


 キャロラインはアルトの肩へ舞い降りた。


「気を付けて。あの男……普通じゃないわ」


 キャロラインは険しい表情でゼノを見つめる。


「あれは、生き物の気配じゃない」


 アルトは無言で頷き、再び天星弓を引き絞った。


 その頃――

 リリスはリアンを支えながら、その顔を覗き込んだ。


「リアンお兄様……!」


 紫の瞳には涙が滲んでいる。


「もう駄目です……!これ以上動いたら……!」


 だが。

 リアンはゆっくりと首を横に振った。


「まだ……終わってない」


「でも……!」


 リリスは唇を噛み締める。

 リアンの身体は限界だった。

 それでも。

 リアンは震える腕で剣を支え、ゆっくりと立ち上がる。


「ティアラを……守る」


 その想いだけが。

 限界を超えた身体を動かしていた。


 その言葉を聞いた瞬間。

 リリスはもう何も言えなくなった。


「……無茶をするな」


 静かな声が響いた。

 リアンの視界の先。

 剣を支えにしながら、レイヴンがゆっくりと立ち上がる。


「レイヴン……」


 リアンは思わずその名を呼ぶ。


 レイヴンの口元には血が流れていた。

 それでも。

 その青い瞳だけは、まだ死んでいなかった。

 レイヴンはゼノから視線を逸らさない。


「まだ終わっていない」


 リアンは震える足で立ち上がる。

 そのまま、レイヴンの隣へ歩み寄った。

 二人は肩を並べ、ゼノを見据えた。


 ゼノは僅かに目を細める。


「……まだ立ち上がるか」


 リアンは剣を構えた。


「当然だ」


 隣では、レイヴンも静かに剣を構える。


「ここから先へは行かせない」


 二人の青い瞳だけは、決して折れてはいなかった。









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― 新着の感想 ―
恐るべき力を持つゼノ。 リアン達の猛攻。 今この目の前のこの魔王クラスの強敵相手にどうなる!? 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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