表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の第七王子と精霊の少女─その恋は王国の理を覆す─  作者: 七天宮 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/60

第59話 天使のもとへ集う者たち

 ざわめきは、まだ残っていた。


「……天使様……」


 震える声が、あちこちから上がる。


 ティアラの周囲には、次々と人々が集まっている。


 立ち上がったばかりの者。

 膝をついたまま動けない者。

 涙を拭いながら見上げる者。


 誰もが――同じ方向を見ていた。


 ティアラを。


 そのとき。


 ティアラの前。

 人々と少女の、その間に――

 小さな光が、現れた。


 最初は、誰も気づかない。


 ただ、空気の一点がわずかに歪んだだけだった。


 だが次の瞬間、

 それは確かに“光”として浮かび上がる。


 淡い光点。

 指先ほどの、小さな輝き。


「……え?」


 誰かが、声を漏らす。


 光は消えない。

 脈打つように、明滅する。


 一歩、距離を取る者。

 反射的に後ずさる者。


 ざわめきが、揺れる。

 誰かが息を呑む。

 遅れて、悲鳴が上がる。


 光が、弾けた。

 散ったはずの粒子が、

 引き寄せられるように一点へと集まっていく。


 絡み合い、重なり、

 ゆっくりと“形”を編み上げていく。


 人の輪郭。

 それが、そこに立つ。


 後ずさる者。

 それでも――誰も、目を逸らせない。


 光が、収束する。

 そこに立っていたのは――


 レイヴンだった。


 最初から、そこにいるべき存在のように。

 ざわめきは、消えていた。

 ただ、その存在だけが――場を押さえつけている。


 レイヴンは、何も言わない。


 ただ、視線だけが動く。

 まっすぐに――

 ティアラへと向けられていた。


 その視線が、動かない。

 まるで――

 最初から、そこしか見ていないかのように。


 ――その異様さに、

 周囲のざわめきが、わずかに遅れる。


「……っ!?」


 後ずさる者。

 その場に崩れ落ちる者。


 それでも――

 逃げる者はいない。


 つい先ほど、

 奇跡を目の当たりにしたばかりだったからだ。


 その光の中に現れた存在を、

 否定できる者はいなかった。


 ティアラの瞳が、大きく見開かれる。


「……レイヴン?」


 かすれた声だった。


 リアンの呼吸が、止まる。


 ――来るはずがない。


 一瞬、思考が止まる。

 胸の奥が、軋む。


 なぜ、ここにいる。


 リリスも息を呑んでいた。

 白銀の耳が、小さく震える。


 空気が、張り詰める。


 レイヴンは、静かにそこに立っていた。

 その視線だけが――

 まっすぐに、ティアラへと向けられている。


 レイヴンの視線が、わずかに落ちる。


「……待たせた」


 その言葉の余韻が、場に沈む。


 そのとき――

 足音が、駆け込んできた。


「おい、今の光――」


 クラウスだった。

 その後ろから、ルカも姿を見せる。


 だが――

 言葉は、途中で止まった。


 視線の先。


 そこに立っていた存在を、認識した瞬間。


「……お前……」


 わずかに、息を呑む。

 ルカも、何も言わずに立ち止まっていた。


 ティアラの前に立つ、その姿。

 間違いようがない。

 レイヴンだった。


 ほんの一瞬、

 誰も動かなかった。


 リアンの足が、静かに動く。


 一歩。

 もう一歩。

 そのまま、レイヴンの前で止まる。


 視線がぶつかる。


 ほんのわずかに、

 胸の奥が、引きつる。


 ――置いていってしまった。


 その感覚が、まだ残っている。


「……来たのか」


 短く、それだけを言う。


 レイヴンは、わずかに目を細めた。


「……ああ」


 クラウスが、歩み寄る。

 距離を詰めながら――


「……ユラはどうした」


 低く、短い問いだった。

 レイヴンは、わずかに視線を落とす。


「……王宮を出た」


 淡々とした声。


「何も言わずに。……その後は、追えていない」


 クラウスの眉が、わずかに寄る。

 ルカも、口を開きかけて――やめた。

 リリスの耳が、ぴくりと震える。

 ティアラの指先が、胸元で小さく握られた。


 リアンは、静かに息を吐く。


 ――無事で済んでいるはずがない。


 そう言われたわけでもないのに、

 胸の奥に、重いものが落ちた。


 視線が、わずかに下がる。


 ユラの姿は、どこにもない。

 ただ、それだけのことが、

 妙に現実味を帯びていた。



 石畳に、規則正しい足音が響く。

 ひとつは、ユラのもの。

 もうひとつは――わずかに遅れて続いていた。


 ユラは、振り返らない。


 気づいている。

 最初から。

 背後の気配は、一定の距離を保ったままついてくる。


 気づいていないふりをしたまま、歩幅を変える。

 角を一つ、曲がる。

 さらに、もう一つ。


 人通りの多い通りへ出る。

 わざと、速度を落とす。

 背後の気配が、距離を詰めてくる。


 次の瞬間―─

 ユラは、露店の布へと手をかけた。


 強く引く。


 布が大きく揺れ、視界が遮られる。


 その隙に、

 地を蹴った。


 次の瞬間には、

 屋根の上にいた。


 軽やかな着地音ひとつ。

 黒と深藍のショートコートが、わずかに揺れる。

 夜の色を吸い込む外套が、輪郭を曖昧にする。

 可憐さを残した装いのまま、

 その動きだけが、影のようだった。


 視線だけを下へ落とす。

 気配は、まだこちらを見失っている。


 ユラはそのまま、踵を返した。


 迷いなく、次の屋根へと跳ぶ。


 視線だけを巡らせる。

 まだいる。

 だが――もう追えない距離だ。

 

 そのまま、視線を外した。

 

 やがて、城壁が見える。

 アストラル王国の外縁。


 迷うことなく、越える。

 向かう先は、決まっていた。


 森へ入る。


 夜は、まだ深い。


 枝葉の隙間から落ちる月明かりだけが、道を細く照らしていた。


 足を止めない。


 やがて――

 東の空が、わずかに白みはじめる。

 夜が、終わる。


 森を抜けた先。

 空気が、変わった。


 湿り気を帯びた風。

 土と葉の匂いが、濃くなる。


 ミストフォルン領内。


 そのまま進む。


 太陽はすでに高く、

 影は短くなっていた。


 やがて、城下町へと入る。


 警戒の視線はある。

 だが、それは突き刺すものではなく、

 どこか、測るようなものだった。


 ミストフォルン。


 なだらかな高台に築かれた城が、

 街を見守るように佇んでいる。


 石と木の街並み。

 露店の並ぶ通りを、

 人と獣人が当たり前のように行き交っていた。


 子供の笑い声。

 火を囲む人々の気配。


 距離が、近い。


 ――だからこそ。


 情報も、広がるのが早い。


「見ただろ!? あの翼……!」


「翼が、光って……一瞬で毒を払ったんだ!」


「天使様だって……!」


「しかも、その直後にさ――」


「光の中から、誰か出てきたんだよ!」


「淡い金色みたいな髪で……すごい綺麗な青年が……」


 その言葉で、足が止まる。


 翼。

 光。

 そして――現れた少年。


 ユラの視線が、わずかに細まる。


 次の瞬間、

 踵を返した。


 迷いはない。


 そのまま、足早に歩き出す。


 向かう先は――ミストフォルン王城だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジー 第七王子 王家の闇 貴族社会 王宮陰謀 双子 出生の秘密 精霊 七属性 魔法 能力覚醒 成長物語 シリアス ゆっくり恋愛 純愛
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ