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プロローグ 青白き運命の子

 最初に授かった子は、女児だった。

 それが、罪になる国だった。

 産声が上がった瞬間、リュミエルは腕を伸ばした。  

 だが、その手は途中で止められる。


「王妃様。掟にございます」


 赤子は泣き声を残したまま、連れ去られた。


「待って……その子を……!」


 声は、空気に吸い込まれる。

 閉ざされた沈黙の中で、命は静かに消された。

 王ヴァレストは、その場にいた。

 眉ひとつ、動かさなかった。


 アストラル王国の王家に、女児は許されない。

 王妃は祝福ではない。

 血を繋ぐための“器”だった。

 リュミエルは六人目の王妃だった。

 もう、後はなかった。


 リュミエルの震える指先が、虚空を掴んだ。


 「……次は、男子を」


 王の声は、感情を欠いていた。

 濃い金に沈んだ瞳には、揺らぎがない。



 一年後。

 夜を裂く痛みの果てに、男児が生まれた。

 赤子の身体を、淡い金色の光が包む。

 侍従も医師も、言葉を失った。


「……レイヴン……」


 抱きしめた時、確かな温もりがあった。

 胸の奥に、短い幸福が灯る。

 だが、それは長く続かなかった。


「……まだ……もう一人……!」


 次の産声とともに、空気が変わる。

 赤子を包む光は、兄のそれとは違っていた。


 青白い光。

 冷たく、異質な揺らぎ。


 それを見た瞬間、王の黄金の瞳がわずかに揺れた。

 予言が、脳裏をよぎる。


『光は国を映す。

 青白い光は、王家を滅ぼす影となる』


 リュミエルは、震える腕で赤子を抱き寄せた。


「この子は……リアン……」


 王の気配が近づく。

 彼女は身体を丸め、必死に赤子を覆った。


「お願い……この子だけは……!」


 王の掌に、淡い光が集まる。


「……退け」


「嫌です……! この子は……私たちの……!」


 王の瞳から、温度が消える。


「予言を、無視することはできぬ」


「命より……大切なものなのですか……!」


「王家とは、そういうものだ」


 次の瞬間。

 光が、部屋を切り裂いた。


「……ぁ……」


 リュミエルの身体がのけぞる。

 それでも、その腕は最後まで赤子を離さなかった。

 崩れ落ちる身体。

 まだ、温かい。


 王は一歩、前に出ていた。

 自分の意思かどうかは分からない。

 胸の奥で、忘れたはずの痛みが、かすかに疼く。


「……リュミエル……」


 呼びかけに、返事はない。

 その場には、青白い光の残滓と、静かな死だけが残っていた。



 青白い光の残滓が、まだ室内に漂っていた。

 リュミエルの身体は冷え始めている。

 それでも、赤子は生きていた。


 「……アルバート=アルシェを呼べ」


 しばらくして、銀灰の髪の男が部屋へ入る。

 妹の亡骸を見た瞬間、膝が崩れた。


 「……リュミエル……」


 震える手が、その頬に触れる。


 「陛下……これは……」


 王は答えない。

 青白い光を宿す赤子を、ただ見下ろしていた。


 「……その子は、王家に生まれなかった」


 それが理ではないと、彼自身が一番よく分かっていた。


 「……陛下?」


 「王家に属する限り、予言は追う」


 黄金の瞳が、かすかに揺れる。


 「お前の子として育てよ」


 それは命令だった。

 だがその声には、わずかに迷いが残っていた。


 アルバートは、ゆっくりと赤子を抱き上げる。


 「……必ず。命に代えても」


 青白い光は、まだ消えなかった。



 十七年後。

 朝の庭で、少年が剣を振るう。

 白金の髪。

 透き通る青の瞳。


 リアン=アルシェ。


 彼は知らない。

 自分が王家の第七王子であることを。


 そして――


 王都の奥で、兄レイヴンが

 光を濃く宿すたびに

 少しずつ感情を失っていることも。


 青白い光は、祝福ではなかった。

 それは、王家の理に抗うために生まれた色。


 青白き光は、まだ消えていない。

 王家の理を裂くその光こそが、すべての始まりだった。



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