第二十一話「怪物」
「炎魔法・炎蛇光臨」
右手から蛇の形をした炎が宙へと舞い上がり、一回転して反動をつけてから絶対防御の城砦に突撃する。
「甘いわっ!!」
城砦を前にしてことごとく打ち砕かれようとしたが、炎蛇は絶対防御に衝突寸前にほぼ360度に分裂。
炎の蛇が全方向から攻撃する。
「これでどうだ……」
俺はじっくりと獲物を待つような眼光で、王城を睨みつけていた。
予想通り王城は何事もなかったかのような顔をして突っ立っている。
おそらくこの攻撃で油断した筈……
俺は再び同じ魔法を詠唱し、炎の蛇が360度覆う寸前で、さらに雷魔法を使い移動速度を向上させ、彼の懐に入る。
「追憶ゲート・解」
父が死んだ記憶、兄が死んだ記憶、裏切られた記憶、プライドが打ち砕かれた記憶、あらゆる敗北感を味わった感情を追憶する。
「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁ」
発狂せずにはいられない。
口からは大量の血潮が吹き、立っているのが不思議なほどHPが消耗したように感じる。
追憶が一瞬遅れたのか王城は炎蛇を払い除けていた。
彼は次は自分の番だと、攻撃を繰り出しそうになるもののやめる。
自分の体が、本能的に危険を察知したのだ。
「なんだ?」
王城が余裕の笑みから困惑した表情に変わった。
「おいおい、見ろよHPゲージ!! ヴァルカンが70021/99999だぜ!?」
カイの声に釣られて俺たちはHPゲージを見る。
王城は29998、俺は70021。
「と、止めないとヴァルカン君殺されるよっ!!」
西園寺が必死に神宮寺に懇願するも神宮寺はうっすら笑みを貼り付けただけで、取り合わない。
あいつはルールを守らないような奴なのだろうか?
他の奴らはどうやら唖然として立ち尽くしているだけだった。
王城はポケットから手を入れたまま、凛とした姿勢を保っている。
それだけ彼は防御力に自信があるのだろう。
「壊してやるよ」
俺は破壊の願望を抱きながら闇の炎を解放する。
「瞬間再生」
そう唱えると俺の体は闇の炎に包まれて完全治癒する。
この魔法は闇特有の魔法で、かなりMPを消費するが、俺のMPは闇魔法で固有スキル「クズ」を打ち消し、正真正銘の99999。
実際にはデバフ99%が発動して999だったのだが、闇が発動してくれたことにより、クズを打ち消せた。
ミイラ兄と再会後、何回かダンジョン攻略を精力的に行ったのだが、その時に闇がクズを打ち消すことが判明した。
「なにっ!?」
王城は歯軋りをして、脅威に満ちた目で俺を睨みつけている。
おそらくMPの急激な増加を肌で感じたのだろう。
破壊したい……
破壊の願望を八つ当たりにぶつけるようにして、ありったけの力を王城の城砦に衝突させる。
――ドカンッ!!
衝突させた直後にその反動で俺も少し吹き飛んだ。
衝撃音が闘技場内に鳴り響き、地面の砂が宙に舞い上がり、砂煙で姿が見えなくなる。
「どうなった……?」
皆の目は興奮と懸念の色で彩られており、固唾を飲んで見守っていた。
人のシルエットが見えるまで砂煙が晴れる。
「いいねぇ〜」
人を小馬鹿にしたような立腹する声色が聞こえてくる。
さらに砂煙が晴れて王城の表情まで見えてきた。
生憎、王城は犬歯を剥き出しにして満面の笑みを浮かべていた。
右手には先ほどまでにはなかった長刀が握られており、その白銀に煌めく刃にはおびただしいほどの血が塗られている。
――ドクン
「ガッ、ガハッ……」
左腕と精神ダメージが大打撃を受けたことにより、HPも消費する。
一瞥するとHPは残り68215になっていた。
王城は29997。
「フッハッハハハ、今の俺には物理攻撃も魔法攻撃も効かないぞ? もうネタ切れかい?」
「王城君もヴァルカン君も頑張れー」
「ファイト!!」
同期の声援が耳に届くものの、頭には入らない。
俺のワーキングメモリー(短期的に記憶を保持するところ)は目の前の王城という名の怪物で一杯になっているのだから。
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