第2話 Prototype・human・made of(Ⅲ)
マーケットからさらに数分歩いた先に見える建物、そこにフレイア様は住んでいる。ドーム状の屋根を持つ宮殿、といってもそれほど大きなものではなく、ちょっとしたお屋敷といった程度だ。まあ、それでも立派な建物なのだが。
アンドロイド・メイドの出迎えを受けて通された部屋でフレイア様は待っていた。そして、その傍らにもう一人、見覚えのある人物が立っていた。
「ふぇっふぇっ、待っておったぞ。ルードに選ばれた者よ」
「僕を? というか何故アナタがここに?」
僕の隣ではケイさんが怒りの形相をあらわにして、その人物を睨みつけていた。
「ボナンザ……てめぇ、何を企んでやがる?」
「企むも何もないわよン。アチシはフレイア様と共にあるの」
「ふざけんなっ! タケルとメインを使って何をするつもりだっ!?」
「あの子たちは自らの意志でフェイについて行ったのよン……残念ながらね」
「何だと……?」
「フェイの思想は危険なもの……だけど、角度を変えて見れば、それは誰かにとっては救済になるのよン」
ボナンザさんの言いぶりではフェイが正しいように聞こえたが、その時にふとクリスさんの言葉を思い出した。
『そもそも、正義だ悪だ、敵だ味方だなんて騒いでるのがおかしいと思うワケ』
正しいとか間違っているとか、誰が正義で誰が悪か、それは自分の立場次第なのかもしれない。
「いい顔つきになってきたじゃない、僕ちゃん?」
「うわあっ!」
突然目の前に飛び込んできたボナンザさんの派手派手しい顔に飛び退いてしまったが、改めて襟を正して向き合う。
「ボナンザさんはどうしてここに……?」
「さっきも言ったでしょン。アチシはフレイア様とともにあるの。アナタ達がここにやって来るのをフレイア様に伝えにきたのよン。あと何人か来るみたいだけど」
誰かを待つように窓の外をうかがいながら話すボナンザさんが何を思うのか、そして何を知っているのか、更にはフレイア様が僕を待つ理由、何もかもが分からない。このまま考え込んでいても頭の中の整理はつかない、そんな姿に呆れたのか、おもむろにパイが僕の頭上に登ってきた。
「まったく、お前も少しは成長したかと思ったけど、やっぱりまだまだお坊ちゃんだな」
「な……いや、うん、そうだな」
「お前は一人で何でも抱え込み過ぎなんだ。一人では分からない事も二人、三人いれば分かるかもしれないだろ?」
はっと振り返ると、ケイさんとアインさんがやれやれと言わんばかりに僕を見ていたのだった。なんだか以前にもこんな風景を見た気がするが、これは僕が成長していない証拠だろうか。
「ったく、一人でゴチャゴチャ考えてんじゃねえよ。まあ、おかげで俺も少し頭を冷やす事が出来たがな」
そう言ってケイさんはボナンザさんへと向き直った。
「ボナンザ、俺はまだ完全にお前を信用したわけじゃねえ。だが、今はいがみ合ってる場合じゃねえんだ」
「分かってるわよン。アナタ達の目的はフレイア様でしょ?」
「お前の神器は怖いな。俺達の他に誰が来るかも分かってんだな?」
「もちろん。アチシは会いたくない人だけどねン」
ベルカさんとの間に何か因縁めいたものがあるのか、ボナンザさんは表情を曇らせた。それはともかくとして、ベルカさん達が来る前に本来の目的を果たさなければならない。
「フレイア様、僕の事を待っていたとおっしゃってましたが、僕達もフレイア様にお伺いしたい事があるのです」
ロッキングチェアに揺られているフレイア様は、目を閉じて微笑んだまま語り出した。
「何も言わんでよい。お主らが知りたいのはフェイの事じゃな?」
「それもあるが、その前に一つ聞きたいことがある。今、この世界に何が起こっている?」
機先を制するかのようにフレイア様を遮ったケイさんが何を聞き出そうとしているのか分からないが、今は聞き役に徹しようと思う。
フレイア様はケイさんの目をじっと見つめ、何かを悟ったかのように短い溜息を吐き、やがて静かに語り出した。
「ふむ、何が起こっているのか、とな。以前のこの国を知っている神器を所持している者ならば、この国の変わりようを見て違和感を覚える事じゃろう」
僕たちは一様に頷き、その答えを求めて思考を巡らせていたが、辿り着く先はどれも適切な答えではなかった。頃合いを見計らっていたフレイア様は再び静かに語り出す。
「どうやら次元改変があったようじゃな」
「次元改変……つまり、誰かが次元に干渉したという事でしょうか」
その意味をそのまま捉えるならば、僕達の仮説通りだ。それが行われた結果、この国の異常ともいえる発展を生み出した。ならば、それはそれで良い事なのではないか、そう思ったが、ボナンザさんが言うにはそう簡単な話ではないようだ。
「次元を改変するという事は、それすなわち歴史に介入して歴史を変えるという事よン。そんな事をしたらどうなると思う?」
「どうって言われても……」
「これまでにおかしいと思った事は無かった?」
言われてはっとした。確かに思い当たる節がある。この国の男性は常夜の国へと連れ去られ、フェイの悪魔のような実験の犠牲になったはずだ。にも拘らず、マーケットの店頭から聞こえた野太い声、あれは明らかに男性の声だった。




