第2話 Prototype・human・made of(Ⅱ)
大通りから外れた裏路地に入り、数十メートル歩いたところに忽然と現れる、地下へと続く階段を下りた先にゲートはある。
見た目には豪華な装飾を施された城門なのだが、あまりにも場違いな所に設置されているこの現実が滑稽でもあり、不気味でもある。
「ところで食材の買い出しって毎日行かれるんですか?」
「いえ、大体六日に一度程度ですね。普段は私一人で数回往復しますので、なかなか骨の折れる作業ですよ。まあ、私は機械の体なので疲れを感じる事はありませんがね」
真っ白な歯を見せながらサムズアップを決めてみせるジェフさんの笑顔はいつ見ても暑苦しく感じるのだが、彼の苦悩を知った今となってはそれも少しは緩和されてしまう。
誰にだって悩み事の一つや二つはある。僕はもちろん、ケイさんやアインさん、ミリューさんにカインさん……は悩みの種が大きすぎるけれど、まあ、誰だって悩みながらも前に向かって歩いて行くんだ。僕はレイアさんからその事を学んだつもりだ。
「ではゲートを開きます。戻ってくるときは私に連絡してください。と言っても、ジェフはいつもの事ですから存じている事ですね」
「ええ、もちろんでございます。それでは行って参ります」
両開きの扉が重々しく開かれ、まばゆい光に周辺が包まれてゆく。僕達はその扉の奥へと足を踏み入れた。久々に味わう身体が溶けて無くなるような感覚に、懐かしさと微かな不安を抱いたまま記憶を無くしていった。
次に記憶がよみがえった時、目の前の景色は薄暮に包まれていた。時計を確認すると約束の時間にはまだ一時間弱あった。何かを忘れているような気もするが、ひとまずジェフさんの買い出しを済ませてしまおう。
「買い出しっていうのはどこかのバザーへ行くんですか?」
「ええ、フレイア様が管理されている市場があるのですよ。オートメーション化されておりますし、食材も何でも揃っておりますよ」
「え、サツマイモ以外にもあるんですか?」
僕の記憶が確かならば、この惑星の特産物はサツマイモであり、ジェフさんはそのサツマイモを使ってあらゆる料理を生み出す事が出来る、恐るべき料理人だ。それは、さながら有限から無限を生み出す錬金術師のように見えたが、食材が何でも揃っているのなら、なにもわざわざサツマイモだけを使わなくてもよかったのではないか。
「数ヶ月前に取り入れたバイオ栽培という技術製法で、サツマイモ以外の作物が作られるようになったのですよ。おかげで私の料理レシピの幅も広がりましたよ」
数分歩いた末に辿り着いたバザーの小ぢんまりとした店頭で、豊富な種類の野菜を手に取り嬉しそうにジェフさんは言うが、僕の中の違和感は拭えそうにない。
日進月歩のテクノロジーとは言うものの、現実はそれ以上の加速を見せている。フルスロットル・エヴォリューションとでも言えばいいのか、この惑星の進歩は異常だ。その証拠として、以前訪れた際にはまばらだった人の姿が、今は多くの軒を構え、バザー、というよりはマーケットと呼称した方が良いくらいに人が溢れかえっており、あちこちから野太い声が響いていた。
賑やかなのはいいことだが、僅か一年足らずでここまでになるとは考えにくい。
「アインさん、この惑星にいったい何があったのですか?」
堪らず僕は詳細を確かめようとしたが、アインさんも首を傾げるばかりだった。
「知っての通り、俺はケイと共に方々の惑星に出稼ぎに行っている。ここに帰ってきたのもつい先日の事だ。明星の国は変わらんが、この国は時の進みが早すぎる気がするな」
「時の進みがうんぬんってぇのは、感覚の問題だが、なんつーか、本来の時間軸に無かった異物が入り込んだって言えばいいのか?」
違和感を覚えているのはケイさんも同じだった。そして、その異物の正体が何なのかを無性に知りたくもなった。おそらくソレがこの違和感の正体であり、ソレを可能とする何者かがいると言う事だ。
「本来の時間軸に何者かが操作をして、本来訪れるはずの事象を変えてしまった、という事でしょうか?」
「そんな事を可能とするのは神器の支配者だろうが、そんな能力を持った人間に会った事は無い。なんなら、俺達のように神器を持ったヤツに会った事も無い」
我ながら馬鹿な事を口走ったと思っているが、不思議とそれが腑に落ちるのだ。アインさんが言うように、強力な神器を持つ支配者ならば次元に干渉する事も可能なのではないかと思えてしまうのだ。
次元に干渉……いや、待てよ。
「ケイさん。貴方はこことは違う別次元から来たと言ってましたよね?」
「……ああ」
「次元間の移動が可能であるならば、別次元の技術を持ちこむことも可能という事ですよね?」
「……そうなるな」
こことは違う次元、つまり、他次元からやってきた人物ならばフルスロットル・エヴォリューションを行うことが可能だ。しかし、問題はそれを行う事に意義を感じる人物は誰なのか、という事だ。
おそらく、他次元からの技術を持ちこむ事には大きなリスクがあるだろう。なぜなら、それはその次元の歴史に干渉する事であり、それは歴史を改変してしまう事につながるからだ。
現代に唐突に表れた技術は、未来はおろか過去に起こった出来事すら書き換えてしまうのだ。それはすなわち、人の記憶すら書き換えてしまう事になる。
「少なくとも、それを行う事によって恩恵を受けるのはこの国の統治者……すなわちフレイア様という事になるな。しかし、フレイア様がそんな事を望んでいるとは思えんが……」
アインさんの言うとおり、フレイア様は変革よりも平穏を望むようなお方だろう。しかし、この惑星にあるもう一つの国は、あの男の息がかかっている。あの男……フェイが何かを企み、フレイア様をそそのかす様な事があれば事情が変わってくる。
食材選びにいそしんでいるジェフさんに一応の断りを入れ、一足先にフレイア様の下へ急ぐことにした。




