第2話 Prototype・human・made of(Ⅰ)
健全な男子四人が神妙な面持ちで額を突き合わせている姿を見て、人は何を思うだろう。カードゲームをしているでもなく、ましてやボードゲームをしているでもない。となると、何か良からぬ計画を練っていると思われるのが関の山だろう。なにせ、いつも笑顔を絶やさないジェフさんが真剣な顔をしているのだから。
「ケイ様、ベルカ・テウタを呼んだのですか?」
「話は聞いてたってわけか。成り行きって言えばそれまでだが、俺はともかくアインが同行するとなりゃ、あの姫さんもついてくるって言いかねねぇだろ?」
「仰る通りです。なれば、ここはひとつ私めにお任せ願えませんか」
ジェフさんには何かしらの妙案があるらしく、小さなテーブルを囲んで僕達の耳を集めた。
「お嬢様にはこの国を治める義務がございますゆえ、今はここを離れるわけにはまいりませぬ。しかし、幸いながら補助をする人材の数も十分に揃っております。なれば、私一人程度おらずとも、どうにでもなりましょう」
「それはつまり、ジェフさんがここを離れるということですか?」
「私には、どうしてもお会いしなければならない人物が、あの一味にいるのです」
同行してもらえるのは色々とありがたい。とはいえ、ジェフさんにはジェフさんなりの思惑があるのだろうが、ベルカさんに会う理由が分からない。
「ジェフさんはベルカさんに会ってどうされたいのですか?」
「いえ、ベルカ・テウタに用はありません。私はグレイ・ボニータに会わなければならないのです」
「グレイか。なるほどな」
ケイさんは全てを察したように呟いたが、僕はまだおぼろげながら漠然と理解したに過ぎない。
ジェフさんは自分という存在を知りたがっている。己の存在理由、存在意義、アンドロイドであったはずの自分がサイボーグであるという矛盾、それはジェフさんの中で大きな葛藤を生み出したに違いない。
ケイさんは彼の事をサイボーグだと呼称したが、この世界にはサイボーグなどと言う呼び名は存在しない。ならばサイボーグとは何なのか。その答えはグレイさんが導き出してくれるのだろう。
「理由は分かりました。でも、肝心な問題がまだ残っています。ベルカさん達と合流するためにはゲートを開いてもらわないと……」
「その事ですが、私が食材の調達に出向くという名目で、ゲートの使用許可を頂くというのはいかがでしょう?」
その発想はジェフさんならではのものであり、僕達には到底思いつくものではなかった。確かにその方法ならば、あらぬ疑いを持たれる可能性は低いだろう。ただし、ミリューさんを騙す事に心が痛むが。
「それしか方法は無いだろう。ジェフ、俺からもミリューに話をつけよう」
アインさんが関わってくると話が違う方向に向かってしまいそうなので、その申し出は丁重にお断りを入れた。
ジェフさんが同行する事によってゲートをスムーズに通る事が出来るのだから、ミリューさんに事情を説明するのはジェフさんが単独でおこなった方が話は早いと思う。
「では、お嬢様に話を通してまいります。早ければ三十分後には出立できると思います」
そう言い残してジェフさんは部屋を出て行った。これで準備は整った、と言う事でいいのだろう。
「さて、僕達も準備をしておきましょう。ベルカさん達を待たせると何をされるか分かったものじゃないですからね」
「確かに、アイツとやり合うのは色んな意味で面倒だからな。ほれ、アイン。行くぞ」
不服そうにしているアインさんの腕を引いて、僕達は部屋を後にした。
広間に戻ると、丁度ジェフさんがミリューさんに許可取りをしているところだった。手はず通りならば何の問題も無くゲートを通れるだろうが、なにやらひと悶着ありそうな雰囲気を醸し出していた。
「ジェフがそう言うのなら私からは何も言う事はありません。ゲートはいつでも開きます。でも……」
「美味しいモン仕入れに行くんならオイラも行きたいぞ!」
騒動の発端はパイだった。妙な所で直感が働いたのか、それとも何も考えていないのか、とにかく、ここでパイを連れて行っても連れて行かなくとも厄介な事態になる事は明白だ。
すっかり困り果てているジェフさんに助け船を出すべく、僕はそっとジェフさんに耳打ちをした。
「ジェフさん、パイも連れて行きましょう。何かあった時に頼りになるかもしれませんし、多分、連れて行かなかったら後々機嫌を損ねたパイを相手にするのも厄介ですよ」
「しかし、あまり危険な目に会わせるわけには……」
「ここでベルカさんの事を考えていてはゲートの通行許可を貰う事は出来ません。パイを連れていけば、危険なものではないというアピールにもなりますし」
「なるほど、確かにそうですな」
どうにか話はまとまり、パイも同行することが決まった。これでただの買い出しであるという名目を保つ事ができただろう。




