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予算案は水に流せない:部室編(前編)

 ……

 ……「……ッくしゅん!」

「「ありがとうございます。」」

 それは青天の霹靂であった。集まりの悪い部室に三人、故か風無き水面の如し静寂の下で黙々と新歓に向けた作業を続けていた。その緊張を突如我らが部長、長町おさまち先輩がくしゃみでほどいてしまったわけだ。そして、何故か俺と道木みちきがハモった。

「なんで揃って私のくしゃみに感謝するの。」

 そう言って長町先輩は鼻を擤んで、今朝誰かしらが中身を替えたであろうゴミ箱にティッシュを投げ入れた。あの神聖なる長町先輩の鼻水ティッシュを頂けるなんて、これほどゴミ箱を羨んだことはない。

「だって部長って、オタクの割にめちゃ美人っスからね。」

 待て道木、今のオタクの割にという発言には大分語弊があるぞ。

「まあワタシも大概なんスけどね〜。」

 やかましいわ。

「はいはい、そうだね。そんなことよりも手を動かしなさい、来月の新歓に公開するアニメを完成させるた……め……くしゅん!」

「……なんか長町先輩、大変そうですね。」

「まったくよ。三月に入って花粉で苦しみ始めたのも束の間、我らが三年の先輩方は卒業目前で学校に来ないし、そして新歓で部活の過酷さは一層激化……部長の身にもなって欲しいわ。」

「なんなら長町先輩は昨日まで今年度の経費まとめてましたもんね。」

「他の先輩方は何してるんスかね〜、部長に会計までやらして。茶道だの生徒会だのソフテニだの……もうちょいアニ研に顔出しして欲しいっスけどね。」

「そうだ、予算案を提出してなかったから提出しないとだった。」

 ガラガラガラ……

「邪魔するぞ。長町、予算案を提出してくれ。今日が期限の中、アニ研だけ出ていないんだぞ。」

 颯爽と現れた図々しいこの御仁こそが生徒会長の、名前は……ええと……

いただきくん、ちょいと待ってね──あれ、どこに置いたっけ……」

「長町先輩、机にないんですか?」

「え、ええ──あれ、カバンにもない……」

「え、それはマズいっスね……」

「俺らも探しますよ。」

 そう言って俺ら3人はそれぞれの机の中、カバン、本棚etc……至る所を探したがなかった。

「……ごめん、頂くん。ちょっと時間くれないかな。」

「さっきからいただいているが……まあとりあえず俺は生徒会室にいるから待ってるぞ。」

 そう言って頂先輩は立ち去って行った……いや、どうしようか。予算案が提出できないのは大分問題だぞ。今は大体16時30分だから、およそタイムリミットは90分だ。その内に急いで探さないと……と長町先輩を見ると、凄まじい形相で床を見つめている。正しく絶望である。

「……長町先輩、大丈夫ですか。」

「大丈夫なわけないでしょ!!……くしゅん!!」

 本当に辛そうだ……

「スマホに内容残してないんスか?」

「私、こういうのもアナログ派なの。一切残してないわ。」

 俺含め他の部員は皆経費で買ったタブレットを使う中、長町先輩は唯一アニメを作る際もアナログなほど大のアナログ派閥な人間だ。そんな人間がデジタルに残しているはずがない……訳ないのに、どれほどデジタルを避けているんだ。それはさておき……

「こういう時はみんなの証言で場所を特定していきましょう……なにか見えてくるかもしれないですよ。」

「……そうね、じゃあまずそれぞれが最後に見たタイミングについて話そっか。私は昨日、今年度の経費をまとめ終わって予算案も書き上げて……それが最後よ。」

「その時どこに置いたんスか?」

「ええと……忘れちゃった!!」

「じゃあそもそも持ち帰ったかも分からないんですか!?」

「そうなるわね……ちなみに家内いえうちくんと道木さんは見た?」

「う〜ん、記憶ないっスね。」

「──!待て道木、そういえばテーブルの上に置いてあっただろ!」

「あ〜、そう言われれば。」

「え!?それっていつ?」

「今朝ですよ。今日、俺早く学校着いちゃってやることもないので部室に来たら、既に道木がいて。俺も作業しようとしたときに予算の紙が邪魔だったなという覚えがあるので、これが俺の最後です。」

「じゃあ、少なくとも私は昨日持ち帰ってなくて、そして今学校の中にあるのね……てことは今朝からさっき私が鍵を開けた時の間に無くなったことになるね。」

「じゃあ最後に鍵を閉めた時がいつなのかが問題ですね。道木、今朝お前が最後に部室を出たよな。鍵はいつ閉めた?」

「え、閉めてないよ。第一、鍵持ってなかったし。」

「待て、それはおかしいだろ。お前が鍵を持ってなかったら、どうして今朝部室に入れたんだ?」

「なんでだろうね?」

 分からないのかよ。

「……鍵が既に空いてたからじゃないかしら。」

「え、じゃあ部長昨日、鍵閉め忘れたんスか!?何やってるんスか!!」

「そうだよね──あれー、なんで忘れちゃったんだろ。」

「部長って結構ドジなとこありますからね〜」

 それが部長に対する発言か。第一、お前も今朝閉めてないだろ、鍵を持ってないから……いや、待てよ。

「ともかく、道木さんが部室の鍵を開けたままにしてたってことは予算案が無くなったのは今朝道木さんが退出してから放課後の間ってことだよね──えー、誰かが部室から予算案を盗んだのかなー……」

「……長町先輩、待ってください。今の話、矛盾してないですか?」

「──?どこが……」

「だって、長町先輩が放課後に鍵を開けたんですよね?」

「そうだけど──あれ、ということは……」

「放課後まで鍵が閉まってたんスよ!!」

「そうだ。つまり今朝、俺と道木以外に誰か部室に来たんですよ……鍵を持って!」

 うちの学校での部室の鍵のシステムだが、少しめんどくさい。常に職員室にあるのだが、それを手にするにはまず誰かしら教員に、自分がその部員であることを示す。そして確認を貰った上で鍵貸出表なるものに貸出時間と返却時間、部室名、そして借りた生徒の氏名を書く必要がある。つまり、

「じゃあアニ研の誰かが予算案を持っていった可能性が高い……いや、持って行ったんだわ!」

「今朝鍵を借りた人が誰か、確認してきます!」

「あ、ワタシも行く〜」

「じゃあ二人、頼んだわよ。」

 そう言われ、俺と道木は部室を後にし──



 ──職員室に着いた。さて、名簿を確認すると……水書みずがき先輩の文字が書いてあった。貸出時間と返却時間は共に今朝のHR前だ。つまり、

「水書先輩が予算案を持っていったのか!」

「たしかにあの人は生徒会だし、気づいたら持っていってもおかしくない……てことは予算は、」

「「生徒会が持ってる!!」」

 ……あれ?どこか引っかかる。

「──?どしたの?」

「い、いや、なんでもない。とりあえず長町先輩に報告するぞ。」

「うっス!!」──



──「で、どうだった?」

「水書先輩が開けてたことがわかったっス!」

「じゃあ生徒会が持ってるってことね!ってことは既に提出されていて、探さなくていいってわけか!」

「そういうことです!」

「やりましたね!部長!」

「「「あはははは!!……」」」

 ……

 ……やはりおかしい。仮に水書先輩が今朝中に生徒会に持って行っているのだとしたら、そもそも前提が崩れてしまう。

「……待ってください!じゃあなんでさっき頂先輩が部室来たんですか!」

「あれ、てことは……」

「あはは、そんなわけないよー……」

 今、最悪のケースを想像してしまった。しかし万にも一つだ、まだ希望は残っているはずだ。

「……とにかく、もう一度頂先輩に聞いてみましょう。」

 そう言って俺らは生徒会室に向かい──



 ──結論から言うと、確かに予算案は生徒会室にあった。しかし、それはあまりにも意外な場所にあったのだ。今思い返しても水書先輩がこの事件の発端であり、そして水書先輩こそがこの事件における、いや今年度のアニ研のMVPでもある。この事件がなかったら今頃俺たちは辛酸を舐めていただろう。

 故にむしろこの事件には感謝しているのだ。ありがとう、水書先輩。ありがとう、犯人。名前は忘れたが。

「それで結局どこにあったんだっけ?」

「ああ、それは……」

 と、俺は部室にある“それ”に指を差し、ああ、あの事件は生徒会室での出来事に全て詰まっていたななどと考えつつ思い出にふけていた……。


生徒会室編につづく

 ここまで読んでくださりありがとうございました!!✨️✨️✨️✨️✨️ケイくんがなぜこの事件(?)に感謝してるかは次回のお楽しみです!!なので、次回もよろしくお願いします!!乞うご期待!!感想などもお待ちしております!!


by田中ゴン左衛門

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