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灰のダンジョン

ダンジョンの奥へ進むにつれ、空気は冷たく、重くなっていく。

『灰の産声』という名の通り、壁や床はすべて灰色の石材で構成され、時折、天井からパラパラと砂が落ちる音が鼓膜を叩く。


宗介は歩きながら、自身のステータスを確認した。


【田中 宗介:レベル2】

【HP:25 / DEF:25 / ATK:20 / MP:25 / SPD:25】


「……全項目が5ずつ上昇。効率は悪くないが、一撃の重さが足りないな」


平均的なジョブ持ちなら全項目「25」のところ、彼は「ATK 20」しかない。魔導士と剣導士、二つの力を同時に行使するための代償は、序盤の火力不足という形でもたれかかっていた。


だが、彼には「魔導士」の**自己強化魔法バフと、剣導士の「切断」**がある。


「カサッ」


前方の角を曲がった先に、新たな敵の気配。

今度は二体だ。レベル2の『グレイ・ラット』。

巨大なドブネズミのような魔物だが、その牙は鉄をも噛みちぎるエフェクトが付与されている。


「……二体同時か。魔力量は25。自己回復を一度使えば、残りは攻撃魔法二発分」


宗介は無機質にリソースを計算する。

突っ込んできたラットに対し、宗介は剣を振るうのではなく、まず指先を向けた。


「魔導、連鎖放電」


バチッ、と小さな火花がラットの一体に直撃する。威力は低いが、数値を「麻痺」の状態異常へ書き換える。動きが止まった瞬間に、もう一体の喉元へなまくらの鉄剣を突き出した。


「剣導、一点集中」


グシャッ。


確かな手応え。一体を仕留めたが、麻痺から立ち直ったもう一体が宗介の脇腹を掠める。


「……っ」


【HP:25 → 18】


回復ヒール


即座に自身のMPを消費し、傷口を塞ぐ。

わずか数秒の攻防。だが、レベル1の差がステータス5の差であるこの世界では、一瞬の油断が死に直結する。


二体目を斬り伏せた時、宗介の脳内に無機質な声が響いた。


【レベルアップ:2 → 3】

【全ステータスが 5 上昇しました】


「ふぅ……」


ようやく一息ついた宗介の足元に、キラリと光るものが落ちていた。

『強欲な運』が、その牙を剥き始める。


【レアドロップ:『下級鍛治士の砥石』】

【獲得成功】


「……砥石か。装備品じゃないが、なまくらの攻撃力を一時的に底上げできる」


宗介はそれを手に取り、じっと見つめた。

普通の新入生なら、これで次の戦闘が楽になると喜ぶだろう。だが、宗介の思考は既に先を走っていた。


「……これ、学校の購買に売れば、安い経験値ポーション一瓶分にはなるな」


彼は砥石をポケットに放り込んだ。

自分を強化するためのアイテムすら、彼にとっては「レベルを買うための通貨」に過ぎない。


「残り時間、15分か。ボスの部屋まで最短で行こう」


白Tシャツの少年は、一切の迷いなく、さらに深い闇へと足を踏み入れた。

その背中には、神々が喜ぶような「芸」も「華」もない。ただ、目的を遂行するための冷徹な足取りだけがあった。

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