いざ神芸学徒アルトメギア
神芸学園の正門。そこは「魂の選別」が行われる最初の関所だ。
入学候補者たちは、巨大な石柱の門に設置された**「数値検知器」**を一人ずつ通過していく。
「……次。全項目20。標準的なジョブ保持者だ。合格、次へ行け」
検知器が無機質な声を上げる。
ジョブを持たない凡人のステータスが「10」であるのに対し、ジョブを授かった若者の平均的な初期値は「20」に設定されている。それがこの学園における「普通」の最低ラインだ。
「……次、田中宗介」
列に並ぶ少年は、あまりにも風景に溶け込んでいた。
校則通りの黒髪、無地の白Tシャツ、ベージュのチノパン。15歳の中央値を正確に射抜いたような、究極の「普通」。
だが、宗介が検知器の光を浴びた瞬間、奇妙な電子音が響いた。
【ステータス検知】
【HP:20 / DEF:20 / ATK:15 / MP:20 / SPD:20】
周囲の受験生たちが一斉に振り返る。
「……なんだあの数値? 攻撃力(ATK)だけ『15』に下がってるぞ」
「ジョブ持ちの平均は全部20だろ。初期値から欠陥品かよ」
嘲笑を含んだ視線が突き刺さる。
だが、宗介は無表情のまま門をくぐった。攻撃力が「15」なのは、彼が「魔導士」と「剣導士」という二つの相反するジョブを独立して保持しているがゆえの、システム上の計算の歪みに過ぎない。
「……目立ちたくはないんだけどな。まあ、攻撃力が5低いくらい、効率でカバーすればいいか」
講堂でのクラス分け。巨大な「職業石」の前で、派手なエフェクトを放つエリートたちが**「神芸獄徒」**への配属を言い渡されていく。
ついに宗介の番が来た。
彼が石に触れた瞬間、通知が脳内に響く。
【ジョブ:魔導士×剣導士(複合ジョブ)】
【固有スキル:強欲な運】
しかし、外から見える景色はあまりにも地味だった。
石からは微かな光すら漏れず、宗介はただ突っ立っているだけに見える。神芸採点官は吐き捨てるように告げた。
「ジョブ……魔導士と剣導士の混在か。だが、全く輝き(芸)を感じない。数値も平均以下。田中宗介、君は**『神芸学徒(一般クラス)』**だ」
「……わかりました」
周囲から「期待外れだな」「あの数値じゃ当然か」という声が漏れる中、宗介は内心で安堵していた。これで静かにレベル上げに専念できる。
放課後。一般クラスの雑用として、旧校舎の地下倉庫で備品整理を命じられた宗介。
一人で重い机を運んでいると、背後の空間がガラスのように割れた。
【警告:速攻ダンジョン『灰の産声』が発現しました】
「……速攻ダンジョンか」
本来、魔物はダンジョンの中にしか存在しない。そしてダンジョンは、自らその境界を跨ぎ、足を踏み入れなければ攻略は始まらない。
目の前に広がる歪んだ空間。その奥には、レベル3の『スケルトン・ソルジャー』が、侵入者を待ち構えるように虚空を見つめているのが見えた。
レベルが一つ上がっても全ステータスは「5」しか増えないこの世界において、レベル3の敵は、レベル1の新人にとっては死神に等しい。
「……いきなり格上か。死ぬ気はないんだけどな」
宗介は支給品のなまくらな鉄剣を握り直した。
鍛治士が打ったものではない、量産型の鈍ら。一撃食らえば、初期値20の防御力など容易く貫かれるだろう。
覚悟を決め、宗介は歪んだ空間の境界線を踏み越えた。
その瞬間、スケルトンがガチガチと骨を鳴らし、こちらへ向かって走り出す。
「魔導、出力固定」
指先に小さな魔力弾を生成し、剣導士の技術でスケルトンの防御数値の隙間を狙う。
相手の骨の剣をSPD 20の反射神経で紙一重で回避し、魔導士の「回復魔法」でスタミナの消耗を補填しながら、泥臭く数値を削り続ける。
数分に及ぶ死闘の末、ようやくスケルトンの核を砕いた。
【レベルアップ:1 → 2】
【全ステータスが 5 上昇しました】
「……きついな。レベル1の差がこれほどとは」
消滅するスケルトンの跡には、何も残らなかった。
だが、宗介の目的はドロップ品だけではない。
「まずはレベルを上げる。話はそれからだ」
白Tシャツの袖で額の汗を拭い、宗介は次の獲物を探してダンジョンのさらに奥へと、無機質な足取りで進んでいった。




