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クソラノベを編集したら修羅場ハーレムになった  作者: 夏目くちびる
開花編

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042 今は、サヨナラ

「どうだ、最近は」


「文芸部の三人に告白された。

 今は、そいつらと桜宮の姉の家で活動してる」



 あの浅井寛が、目ん玉かっぴらいて俺の面を見つめた。

 宮崎と付き合い始めて感情が芽生えたとは思っていたが、ここまでの変顔は見たことがなかったよ。



 俺は、ここ最近の出来事をなるべく詳細に伝えた。



「……なるほど。

 いや、本当に驚いた。そっち側に振り切るとはな」


「どういう意味だ」


「お前は、引き下がれなくなる前に自分から消えると思ってた」


「俺も思ってたよ。

 でも、気が付いたら戻れないところにいた」


「嘘つけ」



 ……。



「力の方はいい。

 その才能に気が付いていたのは、ずっと見てきた俺くらいだ。一人じゃ絶対に発揮しないものだからな。

 ……正直、同情してる。言えなかった俺の責任でもある。悪かった」



 やっぱり、寛はかけがえのない友人だ。



「でも、恋愛の方は別だ。お前、気付けただろ」



 こんなにも真っ直ぐ、真実を突きつけてくれるのだから。



「根拠は」


「薬丸だ」



 寛は、今までのどの瞬間よりも、真剣な表情で俺を見た。



「今なら分かる。あいつが引きこもったのは、お前が恋愛にブレーキをかけたからだった。

 つまり、今回だってお前には引き際を見極めるチャンスがあったはずだし、お前は気付いたはずだ」


「憶測が多いぜ」


「違う、事実だ。

 お前は、決して大局を見誤らない。自分すら駒の一つにすることが、お前の才能の核だ」


「随分と買ってくれるんだな」


「当たり前だ、お前のことは俺が一番知ってる。

 だが、お前は止まらなかった。止まれなかったんじゃない、止まらなかったんだ。

 その理由は一つしかない」


「なんだ」


「小説を()()ため」



 ……。



「今のお前は、彼女たちを使って小説を書いてる。

 才能を自覚したお前だからこそ出来る、その方法は異例の執筆だが――かなり危険な状況だ。

 三人を、恋人どころか『自分の一部』として見始めてるんだからな」


「あぁ」


「だから、サク。

 親友として、一つだけ忠告する」



 そして、彼は力強く告げる。



「必ず、三人を幸せにしろ。

 そうしないと、お前自身が壊れるぞ」



 ……別に、人のせいにするつもりはない。

 ただ、もう少し早く聞きたかった。



「……桃奈の件、心から感謝してるが、俺はお前に依存してたんだと自覚して怖くなった」


「なぜ」


「お前の力がなければ、桃奈を喜ばせられないかもしれない。

 いつか喧嘩した時、お前の力が無ければ解決出来ないかもしれない。

 情けないが、そんなことを考えちまってな」



 俺は、寛の悩みを否定してやれなかった。



「だから、俺のこと、しばらく放っておいてくれ。

 お前に並んだって胸張って言えるようになったら、俺が助けてやるから……待っててくれ」


「分かった」



 俺は、寛の肩に手をついて立ち上がる。



「でも、俺と遊びたいからって、わざと喧嘩するようなマネすんなよ。

 そこまで最低だと、流石に救えねぇ」


「そ、それはただの例だ。

 色々あるだろ、問題は」


「ふふ、ジョークだよ。バカ。

 湿っぽく別れたって、面白くないからな」



 言って、俺たちはヘラヘラと笑った。

 ガキの頃、心の底から欲しがった友人との深い関係が、俺は本当に嬉しかった。



「またな、サク」


「あぁ。またな、寛」



 そして、俺たちは拳を突き合わせ、別々の方向へ歩き出す。



 ……この先、失敗すれば、俺は崩壊するのだろう。



 ほんの少し、友人が遠ざかっただけなのに視界が揺れて――しかし、俺は振り返らなかった。



 もしも、寛が同じように振り返っていたら、笑顔で手を振ってしまったら、あいつに俺の業の片棒を担がせることになるんじゃないかと思ったから。



 ……今は、サヨナラだ。



 俺は、桜宮に「一時間弱で着く」とラインを送り、一度だけ足を止めたが――すぐに改札を抜けた。



 ……。



「来てくれてありがとうございます、朔太郎」



 桜宮の姉の家に入って目に入ったのは、強烈に違和感のある後輩の姿だった。



 風呂に入ったからか、髪の毛は多少クセがある程度のよくあるロングヘアーとなっていて、表情からも、年相応のあどけないイメージを覚える。



「どうした」


「どうもこうもないです。

 お風呂に入って、髪を梳かした。それだけですよ」



 ……牧野と薬丸がいる間も、ちゃんとお嬢様モードをやめていたのだろうか。

 そんなことを思いながら、俺は、深くソファに腰掛けて桜宮の淹れてくれたコーヒーを飲んだ。



「ねぇ、朔太郎」


「ん?」


「隣、座っていいですか?」



 わざわざ確認してくるのが、逆に俺を緊張させた。



「どうぞ」


「ありがとうございます。

 ……うふふ、言いたいことがあるなら言った方がいいですよ」


「なら、お言葉に甘えて。

 いつものお嬢様はどこ行った?」


「彼女は眠ってしまいました。

 けれど、朔太郎しかいないなら空っぽのわたしでも構わない。そうでしょう?」



 常に、誰かの真似をしている桜宮類。

 俺は、安心院がそんなことを言ったのを思い出していた。



「はぁ、疲れた。

 あの髪、セットするの大変なんです。スプレーもいっぱい使いますしね」


「だろうな」


「どっちの方がかわいいですか?」


「良し悪しについては甲乙つけがたいが、好きなのは縦ロールの方だな」


「まぁ、本当に酷い人ですね。

 こういう時、主人公は『こっちの方が好きだ』とか言うものですっ」


「あいにく、俺は面白い方が好きだからな。

 お嬢様の桜宮類は、お気に入りのキャラクターなのさ」


「……そうですか。

 なら、明日からも見せてあげます。感謝してくださいね」



 桜宮は、俺の肩に頭を預けて、しばらく目を閉じていた。



「話って?」


「聖蘭学園でのわたしを、朔太郎に知っていて欲しいんです」



 更に、俺の腕を胸の間に挟んで強く抱く桜宮。

 寝間着のせいか、彼女の感触がダイレクトに伝わってくる。



「安心院には、昨日会ったぜ。

 お前のこと、気にしてるみたいだ」


「……でしょうね」


「それで、誰を守ろうとしたんだ?」



 桜宮は、驚きの表情で俺を見上げると、諦めるように微笑んで俺の首筋にキスをした。



「本当、朔太郎には敵いませんね」


「悪いな。

 けど、お前のことを考えたら、理由はそれしか思い浮かばなかった」


「わたしのこと、考えてくれたんですか?」


「そう言ったろ」


「天才じゃない……それどころか、作品を書き上げたことすらないわたしを?」


「俺の大切な作家だと言ったろ。

 その言葉に、嘘はないよ」


「……女誑し」



 彼女の吐息が、俺の肩をくすぐる。

 どの瞬間よりも長い密着。やがて、桜宮は静かに言葉を紡いだ。



 × × ×



「ごきげんよう。

 今日は何を読んでるの? 菫坂(すみれざか)さん」



 中学三年生のある日、わたしは、いつものように教室で本を読んでいる彼女に声をかけた。



「ごきげんよう、桜宮さん。

 これはね、『ロビンソン・クルーソー』だよ。

 船が難破して無人島に流れ着いた主人公が、自給自足の生活を送る冒険小説なの」



 年季が入っているけれど、専用のカバーがかけてあって、これまで、彼女が大切に何度も読んだのが分かる温かい本だった。



「へぇ、冒険……。

 なんだか、わたしたちには縁遠いものに感じるけれど」


「だから、好きなの。凄く面白いんだよ。

 読んでみる?」


「うん、そうするよ。

 ありがとう、菫坂さんっ」



 彼女は、頭がいいけれど人と話すのが苦手で、教室ではいつも孤立していた。

 別に、一人でいること自体は問題じゃない。その現実を、寂しがっている彼女自身が問題だった。



 そんな彼女を、わたしは放っておけなかった。



 凡人の自覚を得て尚、失ってはならないもの。それは『優しさ』だと思う。

 人に寄り添い手助けをすることは、強くなくたって出来るはずでしょう。



 だから、最初は同情から始まった関係だけれど、わたしは、すぐに豊富な知識の虜になって――彼女の話を聞くのが好きになっていた。

 


 友達。



 初めて、そう呼ぶに相応しい人を見つけたと思った。

 彼女といると楽しい。そう、素直に言える関係を、わたしはずっと求めていたから。



「桜宮さん、何をしているの?

 早く行きましょう」


「あ、安心院さん。

 ……ごめんね、菫坂さん。わたし、行かなきゃ」


「気にしないで、いってらっしゃい」



 わたしは、ロビンソン・クルーソーの文庫本を机に置くと、後ろ髪を引かれながらも安心院さんの後を追った。



 ……二度と、その本を読むことが出来なくなるなんて、思いもせずに。

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