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厄災のアトリア  作者: 浅葱まほろ


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第27話 思わぬ誘い

 「今日のご飯、いつにも増して美味しい」

 「でしょ? 私にしては頑張ったんだから」


 西暦2019年、5月3日。午後0時23分。


 私とアトリアはお昼ご飯を食べながら、そんな他愛の無い会話をしている。

 今日作ったご飯は、鳥五目ごはんと鰆の西京焼き定食風。

 いつもお世話になっている〇美屋さんの炊き込みご飯の素を使って炊いた。

 鰆はふっくらとした食感で、満遍なく纏わりつくタレがご飯を進ませる。箸休めに添えられたミョウガほポリポリと齧れば、口の中がリセットされてこれまた良い。

 今日の小鉢はひじきの和え物。そしてきんぽらごぼう。どちらも噛めば噛むほど味が染み出してきて、とても幸せな気持ちになる。

 ……いつか、私も結婚出来たらいいな。その時は、あったかいご飯を一緒に食べて、幸せだねって笑い合ったり、一緒に料理作ったり。


 「ねえ、アトリア。記憶は全部戻ったんでしょ?」

 「ああ。……いや、8割程だ。俺が此処に来た目的や、複数回の過去の記憶は戻った。けど、細かい所はまだ曖昧なんだ。時空間跳躍前、家族と何を話したのか、とか」

 「そうなんだ。それって、跳躍の障害?」

 「だろうな。流石に600年以上の跳躍は負担が大きすぎたらしい」


 そう言いながらも、アトリアの表情はあっけらかんとしている。

 記憶が戻ったアトリアの行動は、迅速だった。まず、4次元空間に放り出されていた卵型の乗り物――(アトリアはアドヴェンチャー号と呼んでいた)を呼び戻すためにクローゼットの中に隠しておいたキーボードとモニターを取り出して電源を入れ、何やらコマンドを打ち込んだ。

 本人曰く、あの時私のクローゼットの中身がアドヴェンチャーに置き換わったのは、異なる次元の間で質量の交換が行われただけ、らしい。

 つまり、アドヴェンチャーは消滅していない。だからこそ、アトリアは自動追尾していた宇宙船の位置を特定し、4次元空間と全く同じ座標の3次空間の位置に出現させる帰還プログラムを作動させたんだ。

 ……っていうのは、本人から聞いた話。私はちんぷんかんぷんだったけど、彼が意気揚々と話すものだから、つい耳を傾けてしまったんだよね。


 その後、アドヴェンチャーの居場所を突き止めたアトリアが再出現先の位置を設定。なんとそこは、ここから左程遠くない場所にある廃屋――の庭に転がっている大きなコンテナだった。

 夕食を食べ終わった私とアトリアがそこへ向かい、コンテナにアドヴェンチャーが出現したのを見届けた。誰かに見られないか心配だったけど、アトリアが魔法を使って誤魔化してくれた。

 紬ちゃんの家から戻り、2人で行って帰ってくるまで2時間位しか経っていなかったんだけど、情報量が多すぎて疲れちゃってその日は直ぐに寝ちゃったんだよね。

 そう言えば。


 「アトリア。あの時、私達の姿を隠した魔法なんだけど、あれって完全に私達のは見えてないんだよね?」

 「ん? 練習(てへっ! )用空間隠顕(ウッカリもあるよっ)初歩魔法のことか? あれは別に、俺達の姿を隠してたわけじゃない」

 「え?」

 「なんというか……一定空間内の認識力と分子の散乱を利用して、姿をぼやけさせてただけなんだ。よくよく見れば認識出来るけど、そもそも意識がこちらに向かないって感じ」

 「じゃあ、見られる可能性があったって事じゃない。危ないなー」


 私が唇を尖らせると、アトリアは心配ないと言って笑う。


 「地球人は魔法の知識も無ければ魔法耐性も無いのは理解してる。だから、シンカしている遥風や紬って子以外は認識できないだろう」

 「うーん……それって絶対?」

 「いや、2割の確率だな」


 私がびっくりして顔を上げると、アトリアは冗談だと言ってすまし顔でコーヒーを飲む。いや、その顔は知っている。あれは嘘を吐いているようで本当の事を言っている顔だ。練習用初歩魔法と言ったぐらいだ、失敗する確率も低くは無いんだろう。

 本当に、成功して良かった。私もコーヒーを飲みながらテレビを付ける。

 お昼のニュース番組が終わり、CMに入る。よく名前を見る銀行がネット口座の開設を勧める内容だった。それを見て、私はアトリアが自分の口座を持っていた事を思い出す。


 「ねえ、アトリア。あなたが持ってる口座って、この銀行の?」

 「え? ……ああ、そうだな。この銀行で合ってる。この後銀行に行ってくるから、家賃は帰ってきてから渡すよ」

 「そんなに急がなくても大丈夫。私だって、稼いでますから」

 「そうか。すまない」


 そうなのだ。これまた驚いたのだが、彼はいつの間にか自分で収入を得ていた。

 銀行口座開設には本人確認書類が必要だったはずだから、確認したら本人も困った表情で理由を説明してくれた。

 ある時、突然家に戸籍謄本の写しが入った封筒が送られてきたというのだ。しかも差出人は不明。

 絶対に怪しいし、詐欺じゃないかと思って区役所に行ったら担当の人がにこやかな笑顔で「深山アトリアさんですね」なんて言うものだから、2人して顔を見合わせてしまった。その時の本気で困惑したアトリアの顔は今でも覚えている。

 結局、その日は住民票の写しと巷で話題のマイナンバーカードを発行してもらって帰って来たんだっけ。


 兎にも角にも彼は私と共用のパソコンを使ってデータ入力のお仕事やら、webライティングのお仕事したりと月10万円程稼いでいる。

 その話を聞いた時、確定申告やら脱税やら頭をよぎったのは、決して私の所為じゃない。


 (もうそろそろ、自由に外に出してあげても良いよね)


 私はアトリアがこの部屋に現れてから、積極的に外に出したことは無い。だって、どういう関係かと聞かれても困るし、何より明らかに日本人ではない彼の出身やら個人情報を聞かれても、答えられないから。

 けれども、いつの間にやら彼は隣の部屋の旦那さんと仲良くなったり、ふらっとどこかに行ったかと思うと学校帰りの小学生と仲良くなっている。

 私の視線に気づいたアトリアが、マグカップを置いて私を見る。彼の金色の瞳に、私が映っているのが見えた。

 

 「どうした、遥風」

 「あのさ、アトリア。今度の日曜日、2人でどこか出かけようか」


 思わぬ誘いだったのだろう。私の提案に、アトリアは目をぱちくりと瞬かせた。

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