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主人公は歌うとフラグが立つ 2

 何処からか現れたクマの魔物に居場所がバレ、追い詰められたミアは、いよいよ死を覚悟した。

 すると、その魔物は洞穴に突っ込んでいた鼻を引っ込め、洞穴前にゴロリと横になったのだ。


(あれ……?)


 不審に思ったミアはじっと目を凝らし様子を伺うと、クマの魔物の目はギラギラとした様子はなく、寧ろ穏やかそうだった。

 耳をすましても、荒々しい鼻息ではなく、クワァッ……とあくびまで聞こえる。

 さっき迄の緊迫感は何だったのか、ミアはさっぱりわからなくなってしまった。


(ミア、生きてるか?)


 すると外からクロノの小声が聞こえた。


(クロノ! 今こっちに来たら危ないよ!)


(こっちは姿消してるから大丈夫や。 一体コレはどないなってんの?)


(そんなのこっちが聞きたいわよ!)


 ミアも魔物に気づかれないよう小声ではなした。


(一先ずここから出て外へ逃げるか……)


(そうね、今は大丈夫そうだけど、こんなのが暴れでもしたらやられちゃう)


 ミアはウトウトと微睡むクマの魔物に気づかれないよう、そろりと洞穴をでた。

 しかしパキン、と足元の木の枝を踏んでしまい音を立てた途端に、目を覚ましたクマの魔物はムクッと体を起こした。

 四つ足の状態とはいえ、一メートル近くはあるだろうか。

 ウサギ姿のミアを恐怖に陥れるには、十分な大きさだった。


 今度こそダメだ。

 

 恐怖で動けなくなったミアがギュッと目を瞑った瞬間、グォッグォッと小さく鳴く声が聞こえた。

 恐る恐る目を開け魔物の方を見ると、何かを催促するように首を上げ下げしている。


「……こいつ、もしかしてミアの歌を聞きに来たんちゃうか?」


(え?)


「お前は気づいてなかったやろうけど、最近動物達が洞穴近くによく集まってたんや。 特にお前が歌を口ずさんでる時にな」


 本当にこんな大きな生き物にまでミアの声が届いていたのかわからないが、それで命が助かるならと、ミアは恐る恐る口を開き呟くように歌い始めた。

 恐怖で口が震えてあまり声は出なかったが、それでも魔物には届いているのか、これ以上近づこうとはしなかった。

 次第に姿を隠していた小動物達も、遠巻きに集まってきている。


 クロノが言うことは、本当かもしれない。

 

 ミアは少しずつ落ち着きを取り戻し、歌い聞かすように続けた。


 歌い終わり沈黙が続くと、暫くして魔物は振り返り、歩いてきた方へと戻っていく。

 その背中は荒ぶる様子はなく、とても穏やかそうだ。


(本当に歌を聞きに来ただけだったんだ……)


 ミアは心底ホッとした。





 ザシュッ!




 何かを切り裂くような音が聞こえた瞬間、目の前にいたクマの魔物がグラリと倒れてしまった。

 みるみる内に血溜まりができるのを見て、誰かの手によって倒されたのだと理解した。


「ミア、隠れろ!」


 その光景をぼんやりと見ていたミアを、クロノは慌てて草むらへと押しやった。


「まさかAランクの魔物がこんな街の近くまで来ていたなんて、驚きだな」


「大人しい内に討伐出来て助かったよ」


 近くで男達の声がする。

 物陰からその様子を伺うと、以前ドラゴンを助けてくれた兵達とよく似た装いだった。


「もっと魔法が使えればここまで近寄らずに済むんだから、もう少し鍛錬積まなきゃだなぁ」


「俺、この目で見たことあるけど、団長クラスの魔法は化け物レベルだぞ。 本気出せばこの辺りが一瞬にして更地になっちまう」


「まじかよ! おっかねぇな……」

 

 そう談笑しながら、男達はまた森の中へと消えていった。


「こいつ、そんなに危険なヤツやったんやな……」


(でもまだ何もしてないのに討伐されるなんて……。 もっと早くに森に返しておけば良かった……)


 ポロリとウサギの目から涙が落ちた。


「いや、ミアのせいやない。 気にすんな」


(でも私の歌を聞きに来てくれた、お客さんだったんだよ?)


「……そうやな」


 ミアは倒れたクマの魔物に近づき、一輪の花を添え、手を合わせた。

 


 もう、こんな思いはしたくない。



 ミアは思い切り地面を蹴り、全力で走り出した。


「おい、ミア。 何処へ行くんや!!」


(ここじゃダメ! もっともっと森の奥へ行く!!)


「そんなの危ないぞ!」


(それでも良い!)


 クロノの忠告に聞く耳を持たず、ミアはどんどんと森の奥へと突き進んでいく。


 そして人間の街から離れていく。


 もしかしたら〈人間ルート〉から外れる事になるかもしれないが、それでもやりたいことを見つけたミアは、そんな自分を止めようとはしなかった。


 

 

 


 


 

 








 

 


  






 

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